寧ろ、二度目があるのは必然である
地下19階
午前の授業が終わって直ぐに入り、一気に来た。最短で来たとはいえ、地下10階までとは違って各階が広くなっているので、それなりの時間がかかっている。正直行き来するだけで時間がきつい。どうにかできないだろうか。ダンジョンに入る人の誰もが思うことだろうし、既に何かしらの解決策はあるかもしれないので、おっちゃんかマウマウ先生に今度聞いてみよう。ともかく、今は時間が惜しいので、地下19階の探索を始めることにした。
様子としては……地下18階と似たようなものだ。緑がより濃く、毒々しい見た目の花が多くて、適応のおかげで暑さは感じないが、多分暑いと思う。魔物の強さは……何体かやり合ってみたが、STRがまだ強過ぎるために手応えは変わらなかった。まあ、もし違っていたとしてもそう変わらないと思うので、探索するのに支障はない。
そうして、地下20階への階段を探していると、進んでいる先の方から戦闘音が聞こえ――。
「くそっ! こんなところで……絶対死なせないし、絶対死なねえからな!」
合わせて聞こえてきた声には必死さが感じられた。思わず様子を見に行ってしまうほどに。駆け出し、直ぐに辿り着く。双剣の男性が、木そのものの魔物――トレント二体と戦っていた。それと、双剣の男性の後ろに、座り込んだままで杖を構えている女性が居る。杖を持つ女性は足を怪我しているようで動けないようだ。男性、女性、どちらも俺より年上だと思うので、二年生か三年生だろう。双剣の男性は杖を持つ女性を守るように戦っていて、状況は悪い。劣勢だ。動くなら直ぐ。
「助けはいるか!」
まずは声をかける。声もかけずに手を出すと、後々面倒なのだ。
「た、頼む!」
双剣の男性から了承が返ってきたので、即介入する。距離を詰め、まずはトレントの一体を、ドーン! と拳で叩き折った。
「は?」
「え?」
双剣の男性と杖を持つ女性から戸惑いの声が漏れる。ついでに、もう一体のトレントは呆気に取られたように動きが止まった。はい、隙だらけ。もう一体のトレントも、ドーン! と拳で叩き折った。
「大丈夫か?」
「「………………」」
返事がない。大丈夫ではなさそ「「だ、大丈夫!」」男女共に一瞬呆れていたように見えたが、大丈夫なようだ。双剣の男性が杖を持つ女性へと駆け寄り、気遣うように声をかける。
「トレントとなると奇襲か?」
「ああ。目的の品を手に入れて、これから帰ろうとしたところで不意を突かれてな」
双剣の男性がそう答える。トレントの外見は木そのものだから見分けにくいし、帰ろうとしていたのなら気が緩んでいてもおかしくない。そこを突かれた訳か。
「本当に助かったよ、ありがとう。トレントはキミの好きにしてくれていい。それより、また頼るのが申し訳ないが、回復薬を持っていないか? 俺たちのは、不意を突かれた時に叩き壊されてしまって」
「ああ、持っている」
回復薬を取り出そうとウエストポーチに手を――向けたところで聞き覚えのある声が響く。
「助けに来たぞ!」
嫌な予感。
「下げればBAD! 上げればGOOD! 親指!」
「天を指し、地を指し、未来を指す! 人差し指!」
「あなたの、恋人だよ♪ 小指!」
「良し。それじゃあ、あとのことはあいつらに任せたということで、じゃ!」
助けた男女にそう言って、俺は本能の赴くままに逃走を図った――先に、もう一人。手足のある指の着ぐるみが立ち塞がっていた。
「特に役割はない? いいえ、あります! 永遠の誓いの証! 薬指!」
「「「「四人揃って――救いの手を差し伸べる! 我ら、エリアスト王立学園・救助部隊! レスキューフィンガー!」」」」
もう一人増えているだと! いや、確かに居ないのは中指だと言っていたから、薬指が居るのは当然だけど……声の感じから女性か? 大人で色気のある女性の雰囲気がある。そう判断して見ると、確かに指の形の中に隠し切れない二つの膨らみが……て、違う! 今考えるのはそれじゃなくて、逃げ――。
「「「「あれえ! もう終わっている!」」」」
「またですか」
「一度だけではなく、二度もこのようなことが」
「う~ん、お仕事取られちゃったね♪」
「キミが救出したの? 中々やるわね」
親指、人差し指、小指は男女を見ているが、薬指は目の前に居る俺を見て褒めてくる。そうすると、当然親指たちの視線が俺に向けられ……。
親指が俺に向けて親指を立ててくる。紛らわしいわ。その着ぐるみを脱げ。
「さすが、中指ですね」
「誰が中指だ!」
「そう、キミが新たな中指なのね」
「違う! 勝手に認定しないで!」
薬指に対して即否定を入れる。しかし、親指たちはへこたれない。
「そうですか。まだ決心がついていないのですね」
「まだも何も、やってみたいと少しも思っていないんだが?」
「初めは誰だってそうさ。でも、これを着れば新しい扉が開かれる」
「いや、開きたくないから」
「楽しいよ♪」
「大丈夫です」
「私たちと一緒に居れば、私たちが誰かわかるかもよ?」
「それは気にな――らない! というか、もう俺、行くんで! その二人は任せましたから! それじゃ!」
このままここに居るのは危険だと判断して、無理矢理にでも脱出を試みて――駆け出すことに成功する。
「そうですか。新たな救助者の下へ行くのですね、中指」
背後からそんな親指の声が聞こえてきたが、ここで反応したら負けな気がしたので、何も言わないようにぐっと歯を食いしばって耐えて――どうにかこの場を後にすることができた。
《――レスキューフィンガー・中指に適応しますか?――》
しません。




