不思議な場所に居るのだから、不思議なことが起こってもおかしくない
地下10階
特に用はない。さっさと下に向かおう――と思ったが、待ったをかける。思考に反応して体が止まるが、突然のことで足がもつれて転びそうになった。急停止。危ない。
でも、止まった意味はある、と思う。授業で、ダンジョンのボス部屋には極稀にレアボスという普段とは違う魔物が現れるというのを習った。それに一生遭遇しない人の方が多いくらいの極稀なのだが、実際にそれを体験したのだから遭遇する時は遭遇するのだろう。でも、あれは俺が遭遇したというよりは、茶髪の男性たちが遭遇して……まあ、いいか。
ともかく、そういうことが起こる以上、一旦ボス部屋を確認しておいた方がいいかもしれない。普段とは違う魔物が現れる場合があるのなら、そこに目的としている魔物が現れるかもしれないのだから。なので、一旦確認。
………………地下11階へと向かう。まあ、そう上手くはいかないか。
地下11階
相変わらず広い森。嫌になる。ここから地下12階への階段を見つけるとか無理……ではないかもしれないが、時間がかかり過ぎる。ソロの限界というか、誰かに聞いた方が確実に早い。というか、おっちゃんかマウマウ先生に聞いておけば良かった、と少しだけ後悔した。
それか、地図でもあれば違っていたのは間違いない。今日はもう帰るのも有りかもしれない、と頭の中で大雑把にだが地図を描く。これで大体の方角だけでもわかれば――。
《――100%。頭の中で地図を描く、に適応しました。その経験によってスキル「自動地図化」を取得しました。これで迷うことはなくなります――》
頭の中に描いた地図が鮮明なものへと変わった。といっても鮮明なのは自分が歩いた部分だけで、他は黒く塗り潰されている状態だが。それでも鮮明になるのはありがたい。メモを張り付けるように、ここにはこれが、みたいなことも付け加えられる。方角は北が上になっているようで、自分がどこに居てどちらを向いているか、矢印表記されていた。確かに、これで迷うことはなくなったと思う。
ありがとう。助かります。
《――いえ、それより、迷子への適正は――》
しません。「全適応」さんは俺を迷子にさせたいのだろうか? そうする意味がわからない。
《――私抜きでは生きられない体にし……いえ、なんでもありません――》
危険なことを言おうとしていた気がする。まあ、何にしても「自動地図化」のおかげで、どれだけ動こうとも地下10階に戻れるようになった。迷うことがなくなったので、思い切って進むことができる。
気負わなくなったからか、途中、なんかいい感じの洞窟を見つけ、入って少し進んだ先に下へと続く階段を見つけた。誰かに聞くまでもなかったようだ。やった、と喜ぶべきか、誰かと交流する機会を失った、と嘆くべきか悩むが……喜びが勝った。やったね。
地下12階
そんなこったろうと思った。地下12階は地下11階と同じというか、陸続き……いや、階段続きといった感じだった。つまり、森。広い。思わず天を仰いだ。空が見えた。天井ではない。外ではないのに空が見えるのは不思議だ、と思う。そう。ここはダンジョン。そんな不思議なことが起こってもおかしくない場所。……仮に高く飛び上がる力があって飛び上がったら天井に頭をぶつけるのだろうか?
《――ぶつかります――》
答えが返ってきた。そうか。ぶつかるのか。現実、知っちゃったな。少しだけ悲しいというか、多分哀愁を漂わせながら進んでいく。
進んでいく中で、避けられずに魔物と戦うことがある。魔物の種類としては植物系や虫系が多い。森の中だからだろうか? 動物系も偶に出る。今のところ、俺のステータス的に敵は居ない。全適応さんも《――適応するまでもありません――》と言っているので対処可能ということだろう。だからといって、積極的に戦っている訳ではない。
ただ、戦闘音自体は時々各所で聞こえてくる。ここに入っている冒険者や、二年生、三年生はもっと深いところに行っていると思うので、多分一年生だろう。いや、魔蜂のハチミツを求めて、という可能性もあるか。まあ、何にしても助けを求められれば助けるかもしれないが、そこに「レスキューフィンガー」が現れる可能性があって、また勧誘されても困るので……頑張ってくれ、戦っている人たち、と密かに応援しておいた。
途中、妙な場面を見つける。一つの大輪を咲かせる花の周囲にたくさんの蜂が集まっていて、蜂が一匹ずつ大輪を咲かせる花の前に飛んでいき、何やらアピールみたいなことをしていた。大輪を咲かせる花は拒否を示していく。そんな中、何やら前髪を払うように触覚を払う仕草を見せた蜂が前に出てきて、大輪を咲かせる花は承諾を示す。そして、他の蜂たちはやってられないと去っていき、選ばれた蜂は大輪を咲かせる花の花粉を優しく回収していく。なんというか、こう、そっちにもそういうのはあるんだな、と思ってその場から去った。
そうこうしている内に、時間的にそろそろ戻ろうかな、と考えたところで、崖下に地下13階へと続く階段を見つけた。……なんでこう、そういう時に限って探し物とか見つかるのだろうか。世の中不思議である……あっ、不思議な場所に居るんだった。




