あれ? 話してみると案外、と思う人も居る
翌日。朝。
「ん? どうした? アルン」
おっちゃんは普通だった。普段通りの普通である。昨日のこと――レスキューフィンガーのことなんて何もなかったかのように。いや、何もなかったんだろう。おっちゃんの中では、そうなったのだ。だったら、触れないでおくのが一番いいはずだ。わざわざ触れることもない。俺も、何もなかったことにした。
朝食を食べたあと、エリアスト王立学園へ向かう。
―――
魔蜂のハチミツは入手できたし、これからも手に入れようと思えば手に入ると思う。なら、次に目指すのは残る二つの素材――ハイ・オーガの角とミノタウロスの肝の入手である。エリアスト王立学園のダンジョンをさらに深く潜っていけば入手できるはずだ。
だから、今日も今日とて、午後からダンジョンである。
午前の授業が終わり、今日は昨日行けなかった地下12階までは行こう、と考えながら席を立つと、目の前にサーフェが立っていた。
何故か、もの凄く睨まれている。正直に言って、今俺は魔蜂のハチミツを手に入れて勢いに乗っている。ダンジョンに行くのを邪魔されたくないのだが……クラスメイトに興味のないEクラスはどこにいった?
「……何か?」
「ちょっと面貸せや!」
つら? 面か? つまり、顔? ……顔を貸すってなんだ? まさか、俺に成りすますつもりなのか?
――あっ。用があるから、ちょっと付いてこいよ、てことか。
サーフェが一人で教室を出て、直ぐに戻ってくると同時に「なんで付いて来てねえんだよ! 面貸せっつっただろ! 話があるから来い!」と怒鳴るように言われて、そういうことだと気付いた。だったら、始めからそう言ってくれればいいのに。ともかく、何やら俺に話があるそうだが……。
「いや、これからダンジョンに」
「いいから来い! ちっと話すだけだ!」
諦めそうにない。そうなると、同じクラスであるし、いつまでも付きまとってくる可能性がある。……仕方ない、と付いていくことにした。ちなみに、他のクラスメイトはこちらを気にせず教室から出て行った。俺もそっち側が良かったな。
サーフェに付いていった先は、学び舎の裏手だった。周囲には誰も居らず、人の気配も感じられない。秘密の話というか、誰にも聞かれたくない話するのなら、自然とこういう場になるのだろう。
「……どうやった?」
サーフェが尋ねてくるが、何を尋ねたいのかわからない。
「どうやった、とは? 何を?」
「どうやってBクラスのヤツとその手下たちを倒したって聞いてんだよ!」
「……この拳で?」
「ちげえよ! そういうことじゃねえ! 手段だ! 手段! 何かしらの特別な手段でもなけりゃ、EクラスがBクラスに勝てるなんて、そんなこと起こらねえだろ! それを教えろっつってんだよ!」
サーフェがすごんでくる。ただ、その姿には必死さというか、焦りみたいなものがあった。もがいているような、希望が欲しいと縋っているような……サーフェ自身にどうしても聞かなければならない何かがあるのかもしれない。でも、言うことは変わらない。
「教えろと言われても、スキルで得た力による結果だけど?」
「は? そんな訳ないだろ! EクラスのヤツがBクラスのヤツに勝てるスキルなら、そもそもEクラスになんてなってないはずだ! 正直に言う気はないってことか?」
いや、正直に言っているのだが?
「――もういい。そうだよな。てめえの強さのなんたるかをわざわざ言う馬鹿は居ねえよな。……悪かったな。不躾なことを聞いて……お前がBクラスのヤツをやっつけたって話、聞いてスカッとしたぜ」
そう言って、サーフェは去っていった。案外、悪いヤツではないのかもしれない。ただ……結局、なんだったんだろうか? 少なくとも、同じクラスの中で友達ができるかと思ったが、それは甘い考えだったようだ。
―――
よくわからなかったが、サーフェの用件は済んだようである。そんなに時間も経っていないことだし、このままダンジョンへと向かうことにした。
砦の中に入り、転移魔法陣がある部屋へ。
「「「……あ」」」
見張りの兵士二人は、あの時の見張りの兵士二人だった。
「どうも。あの時はお世話になったというか、御迷惑をかけたというか」
「ああ、気にしないでくれ。こちらの職務の範囲内だ。しかし、今日は服を着ているんだな……髪は……かつらか?」
「気にするな! マウマウ先生ちゃんに会えてお話しできたからチャラだ――ぐっ!」
最初に話しかけてきた兵士が、あとで話しかけてきた兵士の鎧の隙間に、提げている剣の柄を押し込んだ。思いのほか痛かったのか、あとで話しかけてきた兵士はその場で蹲る。真面目にしろとか、そういう意味だろうか? まあ、真面目かどうかはともかく、マウマウ先生をちゃん付けするのは変わらずか……最初に話しかけてきた兵士の方が「もしもの時は俺がどうこう……」と言っていたので、任せておいていいか。下手に関わると面倒な気もするし。
ただ、俺はかつらではなく地毛である。訂正しておきたい気持ちになるが、地毛だと告げて、それで話が広まり、いきなり毛が生えるとか……どういう毛生え薬なんだい? と目立つのは困る。曖昧な笑みを浮かべて返しておいた。
「まあ、あんな状態だったのは、特殊な事情があったからで」
「「寧ろ、特殊でないとあんな状態にはならないと思う」」
確かに、それはそうだ。
「ともかく、二度ともうあんなことは勘弁だからな。ヤバいと思った瞬間に逃げ出そうとしたところで、間に合わない場合だってある。命を大事にしろ。気を付けるように」と先に話しかけてきた兵士から心配している感じの言葉を受けてから部屋の中へと入って、転移魔法陣を使ってダンジョンの地下10階へと移動した。




