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仕掛けられるより仕掛けたい人も居る

 当人が学園長だと名乗り、周囲の反応もそうだったので疑っていた訳ではないが、それでも本当にそうだったのか、と確信したのは学園長によって学園長室に連れて行かれた時だった。なんでも俺に話があるらしい。


 学園長室で学園長と面と向かい合う。もちろん、立ってではなく、学園長室内にある高級そうなテーブルを挟んで、互いにソファへと腰を下ろしてからだ。


 ………………。

 ………………。

 え? どういう状況? これ? 何故に俺はここに? いや、学園長から話があるそうだけど、一体どんな話ぃ……このソファ、ふっかふか。いや、ふわぁふわぁで、どこまでも腰を下ろせそうだ。いや、どこまでもは言い過ぎというか、限界はもちろんある。そもそもどこまでもとなるとソファに飲まれるようにそのまま落ちていくことになる訳で……怖っ。


「それで、ええと……俺に話があるそうですが、それはどういった話で? 俺、何かしましたか?」


 理由がわからないので素直に聞く。いや、理由というか原因はわかっている。茶髪の男性たち関連のことだろう。詳しく聞きたいとかだろうか? 俺、後半はほとんど手を出していないんだけど。待てよ。もしそうなら、相手は貴族であったし、問題の貴族と繋がっている貴族から圧力をかけられていて、それをどうにかするための聞き取り調査という可能性もあるか。


 もう関わりたくないが、無視した方が面倒なことになるか? と身構えていると、学園長は真剣な表情で俺を見る。


「……一年Eクラス。アルンくん。これから話すことは他言無用で頼みます。いいですか?」


「は、はい」


「私には飲み会などで行う鉄板ネタとでも言いましょうか、ドッキリネタがあります。いえ、もうありました、でしょうか」


 ………………は?


「は?」


 思わず心の声が漏れてしまう。戸惑いしかない。でも、学園長は真剣そのものなので茶化せないというか、とりあえず最後まで聞いてみることにした。


「それは、風魔法で空気の流れを作り、かつらが都度ズレていくというものです」


 ………………え?


「え?」


 また心の声が漏れてしまう。今、学園長はなんて言った? と思いつつ、視線が少し上に向いてしまう。確認しようとした時、そよ風が吹き、学園長の白髪が少しズレた。かと思えば、またそよ風が吹いて白髪がまたズレる。笑――我慢する。きっと、こういうことだと実演してくれただけで他意はない、はず。笑うのは失礼だし、そもそも相手は学園長だ。立場的に――と思うが、その学園長はこちらの様子を楽しそうに窺っていた。いや、故意だな、これ。学園長はいい性格をしているようだ。おっちゃんが相手なら手が出ていたかもしれない。


「失礼しました。こうして反応を見るのを楽しんでいられる内は良かったのですが……老いでしょうか。今年入った教職員たちと親睦を深めるための飲み会が行われたのですが、その時に一人の新教職員が思いっ切り馬鹿にしてきたのです。まあ、相手はかなり酔っていましたし、私もこういう時は無礼講だと我慢しました。ああ、その新教職員はもうこの学園に居ませんのでお気になさらず。私が手を下す前に関係者の生徒と共に自爆しましたから」


 それ本当に自爆……待てよ。生徒と一緒にって、まさか……。学園長が微笑みを浮かべる。まるで、よくやってくれたと言わんばかりに。でも、直ぐになんとも言えない表情へと変わる。


「……ですが、私は我慢したのです。そう、これまでは似たようなことがあっても受け流せたのに……そこで私は自覚しました。かつらであることに耐えられなくなってきているということを」


 つまり、自虐ネタで楽しんでいたけれど、その自虐ネタがキツくなってきた、ということでいいのかな?


「それで悩んでいたところ、つい先日。陛下から今回の件についての顛末を聞いていた際に、非常に強力な毛生え薬を手に入れた、と。これで将来は安泰だ、と自慢したあとに、あれ? 持ってないの? これ、すっごいらしいよ! もう、ふっさふさに――いや、ふぁさふぁさになるって! と煽られましてね」


 学園長から怒気を感じる。それこそ、その場で殴っていい相手なら余裕でフルボッコに痛めつけるくらいにはやっていそうなくらいに。でも、国王さまが相手となると………………あっ! なるほど。そういうことか。マウマウ先生を国王さまへと繋げた伝手とは学園長だった《――違いま――》のか。納得で――ん? 「全適応」さん、何か言った?


《――……いえ、何も。(納得したのなら、それもまた適応です。いつか気付いたとしても、それもまた適応したということ)――》


 何か言われたような気がしたが、まあ、いいか。とにかく、学園長の言いたいことはわかったというか、何を目的としているのかわかった。少しだけ考えて結論を出す。


 俺はウエストポーチから出す振りをしつつ、「アイテムボックス」から毛生え薬の小瓶を取り出してテーブルの上に置く。元々は俺の俺の周囲をジャングルにするためのものだが、まだ使っていないし――そのことについては言及しない――おっちゃんに言えばまたもらえるから、これは学園長に譲ることにした。これでエリアスト王立学園の権力者と繋がれるのなら……。


「それで、欲しければ自分で交渉しろと陛下から言われ――これは? ……まさか」


「はい。そのまさかです。俺が使うように渡されていましたが、そういうことなら学園長にお譲りします。ただ、これをお譲りするということは――」


「ええ、わかっていますとも。この学園で過ごす上で快適ではないことがあれば、いつでも言ってください。私はアルンくんの味方ですよ」


 学園長が悪い笑みを浮かべながら、テーブルの上の小瓶を手に取る。俺も似たような笑みを浮かべていることだろう。


「ふふふ。これで、かつらかと思えば地毛でした、のドッキリもできますね」


 いや、本当に学園長はいい性格をしていると思う。

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