サイド 落ち着いたら思い出せる
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そこからの話は早かった。迅速に進められた。
ムノラルド王は直ぐに指示を出して、ヤーチマタ伯爵邸へ向かわせる、騎士と兵士を合わせて数十人の部隊を編制。これまでで最速の編制時間であった。ヤーチマタ伯爵の虚をつけるかもしれないからだ。これで突破口が開けるかもしれないとなれば、やる気も出るというもの。決して。そう、決して、実績がある毛生え薬を手土産でもらったからではない。……頑張る理由の一つではあるが。
ともかく、部隊の人数が揃うと同時に出発。
「……いや、なんでムノラルド陛下も行こうとしているのですか?」
部隊長として任命させた騎士が、共に付いて行こうとしたムノラルド王を止める。ムノラルド王としては、伯爵という貴族の中でも高い地位に居る者が相手である以上、王自らが向かった方が話は早い――という訳ではなく、ヤーチマタ伯爵のせいで妻との晩酌予定がなくなったりと色々と狂ったので、その腹いせをしたいがためだ。体を動かして発散したい。
ただ、それで、わかりましたとならないのも事実である。宰相まで呼んで、ムノラルド王の出陣は物理的に止められた。止めたといっても身を呈してという訳ではなく、ちょっとした殴り合いだったので、ムノラルド王としても体を動かして多少なりともスッキリしたことだろう。
そうして、部隊がヤーチマタ伯爵邸へと差し向けられた。ウルケストとマウマウもそれに同行している。
ヤーチマタ伯爵邸に着いてからも早かった。あっという間に制圧する。何しろ、ムノラルド王の指示で部隊は動いているのだ。たとえ、伯爵だろうと、伯爵に仕えている者であろうと、止めることはできない。止めれば、王命に反すると捉えられてもおかしくないのだ。それに、戦力という意味でも部隊の方が上である。どうしようもない。抵抗らしい抵抗もなく、ヤーチマタ伯爵邸は制圧された。
だが、事態の進行はそこで止まる。部隊はヤーチマタ伯爵側の人たちを見張る人員を除いた全員で、ヤーチマタ伯爵を追い詰めるための証拠を家探しで見つけようとしたが……何も見つからない。一応、嫌疑で留まっているため、ヤーチマタ伯爵にも強く出られない。制圧されてから今に至るまで、伯爵邸の執務室で喚き散らしていたヤーチマタ伯爵は、部隊の焦りを感じ取って醜悪な笑みを浮かべた。丸々と太っている体を反らして執務椅子に背を預けると、ふてぶてしい態度を見せる。
「おやおや、不遜にも我が伯爵邸に前触れもなく土足で突入し、何かを探しているようだが、一体何を探しているのやら。もしや、私が悪事を働いているという噂を信じて、その証拠となるものでも探しているのだろうか? もし、そうであるのなら、探して見つからないのも無理はない。当然だ。そのようなものは存在しない。悪事など働いていないのだから。しかし、噂を信じてこのような暴挙に出るとは……これは伯爵として関係各所に抗議しなければなりませんな」
「「「………………」」」
執務室内で見張りとして残っている部隊長と騎士数名はそれに答えない。ただ、その表情は苦虫を嚙み潰したようなものである。ヤーチマタ伯爵は勝利を確信した。それに伴い、ヤーチマタ伯爵の頭の中では、これで王家に貸しができたようなものなので、上へ――侯爵への陞爵も視野に入り、さらに――と皮算用を始める。アルンに差し向けた兵士たちは既に捕らえられているとも知らずに。いや、知らないからこそ、ヤーチマタ伯爵は皮算用で気色の悪い笑みを浮かべることができた。
また、この場には件の茶髪の男性と、Bクラスの担任である嫌味そうな教職員も居る。先ほどまでは両者共に小物感丸出しでかなり狼狽えていたのだが、今はヤーチマタ伯爵の気色の悪い笑みを見て、同じような笑みを浮かべていた。血の繋がり。似た者同士。間違いなく、この二人はヤーチマタ伯爵側である。
そこで、執務室の中にウルケストとマウマウが入ってくる。ウルケストには反応を示さなかったが、マウマウに対しては茶髪の男性と嫌味そうな教職員が反応した。
「「お、お前は! どうしてここに!」」
茶髪の男性と嫌味そうな教職員は驚愕の表情へと変わる。対してマウマウは、相手をする気はないと一瞥だけしてあとは無視。
「「は、はあ! なんだ! その態度は!」」
茶髪の男性と嫌味そうな教職員は憤慨し、「ど、どうした?」とヤーチマタ伯爵が狼狽える。茶髪の男性としてはそこまでではないが、嫌味そうな教職員からすれば、アルンと同様にどうしても消しておきたい。だから、嫌味そうな教職員はマウマウのあることないことも合わせた誹謗中傷と、ヤーチマタ伯爵へと伝える。もちろん、ヤーチマタ伯爵は虚言も含まれていると理解しているが、追及はせずに黙認する。ここで上手くやってエルフが手に入れば、エルフにロリといったのを求める好事家に非常に高く売れるからだ。
マウマウとしては、内心は実のところ業腹であった。目の前で好き勝手言っているのだから当然である。ただ、それよりも先に証拠を見つけなければならない。それさえ見つければ、あとはこちらのもの……なのだが、見つからない。こうなれば、あとは最終手段しかないか、と考えたところで――「あっ」と何かを思い出したかのような声が発せられる。発したのはウルケスト。
「そういうことだったのか」
ポン、と手を叩くウルケスト。いや、どういうことだったのか? と室内に居る全員が思った。それは直ぐにわかる。ウルケストは執務机に向かう。
「えっと……ここの……」
迷うことなく、ウルケストは執務机の上から二段目の引き出しを開けて――そこから書類を取り出す。
「え? ん、ん? え? は? え?」
ヤーチマタ伯爵が困惑する。何故わかった? とか、どうして知っている? とか疑問は尽きないが、本能で渡す訳にはいかないと手を伸ばすが、捕まる前にウルケストは離れて、部隊長に書類を渡す。部隊長も突然の出来事に困惑しているが、それでも本能で書類は大事な証拠になるとしっかりと握った。
「それと」
ウルケストが動く。まだあるの! と室内に居る全員が思った。ウルケストは室内にある本棚へと向かう。ヤーチマタ伯爵の表情が驚愕に染まる。まさか、と。本棚の上から三段目、左から八冊目の本を、ウルケストが手前に引くとスイッチが入り、本棚全体が動いて――その先にある秘密の部屋へ入れるようになった。
「この先にも証拠の類がある――らしいです」
どのような証拠の類があるのかを、ウルケストは知らない。それなのに、ウルケストがこのことを知っていたのは、家を出る前にアルンが教えたからである。
そこからは、再び事態の進行は早かった。部隊は見張り以外の人員をすべて集めて、秘密の部屋へと投入。出るわ出るわと悪事の証拠となる物がたんまりだった。もちろん、それを黙って見ているヤーチマタ伯爵ではない。周囲に抵抗しろと命令しつつ、自らも動いて部隊を止めようとした――が、相手が悪い。王からの命令を受けられるほどの騎士に兵士、それにマウマウである。即座に物理的に取り押さえられた。その際に多少なりとも痛い思いをすることになっても、先に手を出したのはヤーチマタ伯爵側なのだから、それは仕方ないというものだ。
「どうやら、腹を括る時が来たようですな。ヤーチマタ伯爵」
取り押さえられているヤーチマタ伯爵を前にして、悪事の証拠となる書類の一部を眺め終わった部隊長が勝利宣言した。




