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サイド 隠れられたつもりでも案外バレるもの

「どうぞ」


 ノックに対してマウマウは流れるように対応する。自然体で、そうするのが当たり前であるかのように。ただ、ウルケストは違う。ここまでの状況の変化にまだ対応できていない。だからこそ、ウルケストは咄嗟にマウマウが座るソファの背後へと跳んで、その身を隠した。


 扉が開かれる。


「お待たせしました。マウマウさま」


 そう口にしながら開けたのは、白髪のオールバックが似合う高年の執事であるがその場で待機して、代わりに室内へと入って来たのは別の男性――輝く金髪に、端整な顔立ちで、最上級の貴族服を着てはいるが、それでもその内にあるのは鍛えられた体躯であるとわかる、四十代ほどの男性だった。その男性は歩みを止めることなく、マウマウの対面にあるソファへと腰を下ろす。男性は少しだけ疲れた表情を浮かべていた。


「随分と冴えない顔ですね、『ムノラルド』。この国の王がそのような姿を見せるのは良くないと思いますが?」


 マウマウに指摘されたが、エリアスト王国の王であるムノラルド王は表情を変えることなく口を開く。


「いや、何、今日は久々に執務が早く終わったから、妻と一緒に晩酌でも楽しもうと酒とつまみを用意させたところで緊急案件が入り、このままだと折角の妻との晩酌がご破算になりそうなだけだ。早く終わらないかな、と思っている。無理だろうけれど」


「そうですか。そういうことなら、その表情も納得ですね」


 ニコリ、とするマウマウ。ムノラルド王はチクりともしないか、と大きく息を吐く。そもそも、王家とは先々代からの付き合いなのだ。力関係が違う。マウマウから過度な干渉はないが、それでもエリアスト王家に対して、現状のように事前連絡なしで王が自ら会いに来るくらいには強く出れる立場なのである。


(……時に迅速さが必要なのもわかるが、せめて事前連絡の一つや二つくらいは入れてくれてもいいのに。この大叔母さまは)


「今、心の中で私のことをなんと呼びましたか? 王妃(メロア)に言いつけますよ」


「何とも呼んでおりません、お姉ちゃん!」


 鋭い、とムノラルド王は思う。ちなみに、お姉ちゃん呼びなのは幼い頃からの癖のようなものである。また、マウマウとムノラルド王の妻――王妃の仲は非常に良く、姉妹のようだった。どちらが妹であるかは、まあ……見た目で判断した通りである。ともかく、これくらいのことであれば、王妃はマウマウの味方をするであろうことは、尻に敷かれているムノラルド王は容易に想像できた。否定はしたが、旗色は未だ悪いと言えるので、こういう時の解決方法の一つとして、ムノラルド王は話題の転換を試みる。


「それで、あの捕らえて連れてきた者たちはなんだ? ここに来たということは貴族関係か? ……まさか、どこかの貴族に言い寄られて、つい………………は、ないか」


「ないと即決した理由を窺いましょうか?」


 マウマウが杖の先端を向けた。王族に攻撃意思を示すような行為は不敬と捉えられてもおかしくないが、マウマウなら許される。ムノラルド王もそれはわかっているからこそ、降参と示すように両手を上げた。


「特に理由はありません。マウマウは魅力的な女性です」


「よろしい」


 杖が下ろされる。


「それで、本当にどういった理由で?」


「推測交じりになりますが――」


 マウマウがエリアスト王立学園で起こったことから今に続く一連の流れを説明する。推測交じりな部分は、捕らえて連れてきた襲撃者たちについて。これに関しては「全適応」さんによってアルンは素性を把握しているのだが、それをマウマウに伝え忘れていたのだ。それでも結果的に間違っていないとなっているのは撃退したからである。撃退できていなければ、闇へと葬られていたことだろう。


 一連の流れを聞き終えたムノラルド王は黙り、考え込む。


「……なるほどな。ヤーチマタ伯爵の息子が発端か。疑惑の伯爵であるし、一度ガサ入れするのは有りだな。それで何か見つかるなら良し。見つからずとも牽制になるか。焦って迂闊な動きを見せるかもしれない」


「動く気があるのなら早くにお願いします。ところで、疑惑とは?」


「……ん、ああ、ヤーチマタ伯爵には薬物生成や人身売買などの犯罪行為に手を出している嫌疑がかけられているのだが、今のところ証拠が何一つ挙がっていない。隠し事が上手いようだ。マウマウの方は何か掴んでいないのか?」


 マウマウは首を横に振る。


「その辺りについてはまだ何も。精々が、Bクラスの担任とヤーチマタ伯爵が繋がっていたくらいです。ただ、差し向けた部隊が捕らえられたことはまだ気付いていないと思われますので、今踏み込めば先手が取れるかもしれません」


「そうだな……ところで、一つ確認したいのだが」


「なんですか?」


「それは、なんだ?」


 ムノラルド王が指し示したのは、マウマウが座るソファの後ろ。ムノラルド王から見ると、足が飛び出していた。先ほどからチラチラと視界に入っていたため、気になっていたのである。それを不審者と断じないのは、マウマウが居るから。マウマウが連れてきたと思っているからで、そうでなければマウマウの手によって既にやられているだろうからだ。


(え? 何? もしかして、もう死体? 足だけ見えているってこと? え? 怖っ!)


「ああ、ただで動いてもらうのもなんなので、手土産の一つくらいは用意しておこうと思ったのです。彼に用意してもらいました。ほら、いつまでも隠れていないの。ウルケストくん」


 予想とは違って、内心でホッと安堵するムノラルド王。ウルケストが立ち上がり、姿を見せる。しかし、ガッチガチだった。緊張でカチコチだった。仕方ない。国の王が目の前に居るのだ。仕方ない。ウルケストが直立不動で立つのは、ある意味自然だろう。


 公式の場ではなく、ムノラルド王の機嫌も別に悪くはないため、直答も許される。そこまでうるさくはない。ただ、直立不動のウルケストに直答する心の余裕はない。だから、察したマウマウが代わりに話す。


「最近、抜け毛を気にしていましたよね? だから、ウルケストくんに持ってきてもらいました。毛生え薬。強力ですよ。何しろ、教え子のアルンくんの頭部に塗っただけでボーボーになりましたから。ボーボー」


「……ほう」


 ムノラルド王の目の色が変わった。効果は抜群である。


 ムノラルド王は今が好機と、騎士や兵士を動員した。

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