サイド 塞いだからといって届いていない訳ではない
ウルケストの目の前で、事態は次々と進んでいく。動いていく。
まず、王城裏門に待機していた兵士たちにウルケストとマウマウが捕らえられることはなかった。寧ろ、マウマウの指示で兵士たちは動き、ここまで運んできた敵たちが捕らえて、どこかに運んでいく。どこかは考えるまでもなく牢屋である。ウルケストはどういうこと? とその光景を眺めていたが、マウマウが「さあ、ここは任せて大丈夫ですから、私たちは行きますよ」と促されるまま付いていく。
止められることもなく、なんでもないように裏手から王城へと入るウルケストとマウマウ。それは王城の中に入っても変わらずに、サクサクと進んでいく。ここでウルケストが正常であれば、色々とおかしなことに気付いたことだろう。何故、マウマウは迷うことなく王城の中を進んでいけるのか。何故、誰にも会わずに進んでいけるのか――実際は監視が居て、マウマウもそれに気付いている――等々。
だが、今のウルケストは、マウマウは先生ではないのか? それだけで兵士が指示に従う訳もなく、一体何者? と答えの出ない思考で一杯なだけではなく、普段どころか普通は訪れない王城に入っているというだけで、思考の限界は超えていた。パンクしたのである。だから、一旦思考放棄してマウマウに付いていくだけになり………………時間経過で心が落ち着いて気を持ち直した時には、手入れの行き届いた観葉植物や見ただけで高価だとわかる調度品が置かれた部屋の中に居た。
「………………一体全体どういうことなんだー!」
大声ではない。王城の中で大声で叫ぶと兵士や騎士に囲まれると理性が判断しての小声の叫びである。そんなウルケストとは違い、マウマウはふかふかソファに座り、テーブルの上に置かれている紅茶と茶菓子で一息吐いていた。
「いや、一息吐く前に、何がどうなってこうなっているのか、教えてください! というか、ここは? 妙に豪華な部屋ですし、王城内だというのはわかりますが……いや、待ってください! 聞きたくない! 理性が拒否しています!」
「まあ、落ち着いてください、ウルケストくん。何もとって食おうという訳ではありません。きちんと説明しますから、まずは深呼吸をしましょう」
「すう~……はあ~………………ちっとも落ち着きません」
「仕方ないですね。先に説明しますので、ゆっくりと受け入れていってください。あっ、ウルケストくんに限って喧伝するようなことはないと思いますが、一応漏らすと命の危機的な意味で危険ですので気を付けるように」
「え? じゃあ、流れに任せるので聞かない方向でお願いします」
マウマウはニッコリと笑みを浮かべる。
「前王の母――現王の祖母は私の姉なのです。つまり、私は王家と親戚関係ということですね。そんな私が何故教職員をしているかというと、姉が王妃として過ごしていた頃のエリアスト王立学園は、今よりも馬鹿な貴族が多く居たため、それらが主に利権を求めてずぶずぶに関わっていたことでかなり荒れていました。正常化しようにも外部からだと限界があったため、内部からも正常化を行うために私が教職員として派遣されたのです。今でこそ正常化はかなり進みましたが、今回のように馬鹿は未だに現れます。だから、姉が旦那さんと共に隠居した今も、私はエリアスト王立学園に残っているという訳ですね。まあ、教職員が楽しいというのもありますが。私はそういう立場ですので、王家や一部の貴族、裏門に居た兵士たちといった一部には素性が明かされて協力関係を構築しているため、こうして王城に入ることもできるということです。理解できましたか?」
マウマウが視線を向けると、ウルケストは両手で力強く両耳を塞いでいた。マウマウの浮べていた笑みから、何かしらの圧力が発せられる。
「……もう言い終わりましたか?」
ウルケストからの問いにマウマウが頷くと、ウルケストは塞いでいた両耳を解放する。
「ふう~、危なかった。一度でも聞いてしまうともう逃れられないような気が」
「私、王家の親戚です」
「言ったー! なんの躊躇いもなく言っちゃったよ! 耳塞いだ意味! なし! いや、もちろん耳を塞いだ程度では漏れ聞こえてきますけど、そこはこれで聞こえていなかったという体裁が大事だから! 聞こえていませんでした、だから何も知りませんし関係ありません、としたかったのに! なんで改めて言っ――はっ! 先ほどの口振りだと正常化は終わっていない……まだ続いている……まさか、今後手伝わせるつもりですか? ついでに、協力者として紹介するために?」
「優秀な教え子を持って先生は嬉しいです。ただ、今直ぐ協力者になって欲しいとか、強制している訳ではありません。ウルケストくんは今それどころではないとわかっていますから。考えておいて欲しい、という程度の話です。今回は本当にアルンくんを助けるために来ただけですよ」
「……今はイシスのことで手一杯ですが、そのあとのことについては考えておきます」
「それで十分です」
そうして一段落ついたところで、この部屋の扉がノックされる。




