聞けば行きたくなるから聞かせない場合もある
妹にも事情を話して、おっちゃんと共にエリアスト王国の王都へと向かうことになった。出発まで数日要したが、その間に荷物整理などを済ませておく。王都までの移動手段はどうするのかと思えば、数日後。出発の日――馬車が来た。聞けば、おっちゃんの自前らしい。
「………………」
おっちゃんは何も言わないが、馬車を前にして自慢げである。自前だから、だろうか。馬車を自前で用意できるなんて、どこぞの貴族か? と言いたいが、おっちゃんは貴族ではない。ただ、自前の馬車を用意できるだけの力――凄腕錬金術師だと言いたいようだ。
「「おお~」」
称賛して欲しそうだったので、妹と共に感嘆の声と拍手をする。おっちゃんはさらに自慢げに胸をそらした。
「よく用意できたな。普通は自前なんて無理だろ」
「出稼ぎで移動するのに、乗合だと色々と面倒だからな。普段は預けているが自前ので移動した方が色々と面倒が省けるんだよ」
「なるほど」
「良し。では、荷物を載せたら出発だ!」
ここ数日で纏めた荷物を載せて、俺とおっちゃんは御者台に座り、妹は馬車の荷台の方で休ませながら出発する。ご近所さんや友達にはもう挨拶を済ませているので、直ぐに町を出て、王都へと向かっていく。
向かうまでの間に、おっちゃんから色々と話を聞いた。
行き先が王都なのは、いくつか理由がある。
この国で物が集まるといえば王都なのは間違いないので、魔障治療薬や必要な魔物素材も、手に入る確率がグッと上がるからだ。それだけではない。
先ほども言っていたが、おっちゃんは出稼ぎに出ることがある。その主な行き先は王都だそうだ。というのも、王都におっちゃん専用の錬金工房が住宅付きであるらしい。つまり、王都はおっちゃんにとって勝手知ったるなんとやらで、行けば直ぐに住める住宅もあるしと、色々と手間が省けるということである。
また、王都にはおっちゃんの知り合いの冒険者パーティや、商業ギルド員、他にも色々と知り合いが居るそうなので、頼み事もしやすくなるということらしい。
あと、これが一番の要因となるかもしれないのが、王都にある「エリアスト王立学園」という学園の敷地内にはダンジョンがあって、素材として必要な魔物は、そこにすべて出てくるそうだなんでそれを知っているかと言えば、おっちゃんはそこの卒業生なんだと。
「なら、そのダンジョンに入れば――」
「そう簡単な話ではない。そもそも学園関係者以外でダンジョンに入るには許可が必要だが、現状だとその許可を得るのは相当厳しいだろう」
「なら、俺がその学園に入れば、ダンジョンにも入れるってことだよな?」
「それも手段の一つとして考えはしたが……正直に言えば危険過ぎる。必要な素材の魔物の中には、学園に入って直ぐにどうこう……いや、在学中でもどうにかできるような魔物ばかりではないからだ。命を失いかねない」
「そうか……ん? それなら、どうして手段の一つとして考えたんだ?」
「それは……まあ、その……」
おっちゃんが後ろを――妹を気にするようにチラリと見る。当然、俺とおっちゃんの会話は妹も聞いていたのだが、その行動で俺も妹も察した。
「妹に聞かせられない話なのか?」
「まあ、そうだな。といっても、今は、で、後々話すことにはなる、といった内容なんだが……」
「わかった。なら、少しの間、耳を塞いでおくね」
妹が両手を両耳に当てて、これで聞こえないよ、とアピールしてくる。可愛い。正義。俺の妹最強。
これで大丈夫だ、とおっちゃんに話の続きを促すと、おっちゃんは少し考えたあとに口を開く。
「……セック(一部不適切な表現がありましたので削除しました)」
いきなり何を言い出すんだ、お前は! と本能による瞬間的に拳を突き出したが、おっちゃんはそれを回避して不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ。来るとわかっていれば造作もないな」
余裕そうなので、もう一方の手を握り――。
「待て待て。さすがに御者中だ――だけじゃなくて、本当に聞こえていないか確認する必要があったんだよ。それだけだ。他意はない」
なるほど。そういうことか、と拳を引っ込める。代わりに、おっちゃんと揃って妹を見れば、妹はどうかした? と首を傾げたので聞こえていないようだ。その仕草も可愛い。世界一可愛い。ホッと安堵。
でも、俺がおっちゃんに殴りかかったのは気にしないのだろうか? ……また馬鹿なことをやっているな、くらいなのかもしれない。ともかく、妹には聞こえていないようなので、おっちゃんから続きの話を聞く。
なんでも、ダンジョンに初めて入った時にスキルと呼ばれる力を一つ貰えるそうだ。は? と疑わしいが、実際におっちゃんは初めてダンジョンに入った時に錬金術を得たから今の自分がある、と言った。貰えるスキルは様々らしい。
もし、それが事実であるのなら、一つの疑問が浮かぶ。どうしてそのことを知らない、知れ渡っていてもおかしくないことなのに、これまでに聞いたことがないのか、だ。
理由は簡単だった。
幼い頃にそれを知ってしまうと、親が止めても子供だけでダンジョンに入って、得たスキルを試しにと引き返すことなくそのまま奥に行って死亡、また、人格形成に影響を与え過ぎて歪む、といったことが何度も起こったことで、身近な大人が大丈夫だと判断する――大体十五歳前後らしい――まではこのことを伝えないようになったそうだ。
「なるほど。それは確かに暴走するヤツが間違いなく出てくるな」
「そういうことだ。それに、スキル一つ得たからといってダンジョンを攻略できる訳ではない……いや、まあ、スキルは多種多様であるし、もしかしたらそういうスキルもあるかもしれないが、そんなものは奇跡の類だ。不確かなものをあてにはできない」
「それもそうだな」
これでこの話は終わり、と妹にももう大丈夫だと身振り手振りで伝えたあと、おっちゃんから他にも色々と話を聞いている内に、王都に辿り着いた。