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サイド 寝てても寝返りとか、体が勝手に動くことだってある

 アルンは気を失ったが、ミノタウロス(希種)は片目に短剣を突き刺されたが健在である。意識もしっかりしていた。寧ろ、短剣が突き刺さっている片目から伝わる痛みによってぎんぎんである。冴えに冴えまくっていた。また、片目に短剣を突き刺した者に対して、非常に強い怒りと殺意を抱いている。当然、地面に叩き付けただけでは収まらない。

 だから、ミノタウロス(希種)は足下に居るアルンを踏み潰そうと足を上げた。


 アルンは気を失ったまま、起きる気配は一切ない。抵抗すらできずに踏み潰されるだろう。ただ、アルンが気を失っていようとも、これからの状況を決定付ける行動は既に起こっていた。


《――100%。得られた経験により、HP、STR、VITがミノタウロス(希種)に適応しました。しかし、適応者の意識は不明。敵であるミノタウロス(希種)は健在であり、適応者の生命が脅かされようとしています。適応者を保護するため、現状打破を試みます。……この状況に適応しました。HP、STR、VITが適応したことで肉体強度が上昇。他のステータスも一部が上昇しました。一部負傷のままではありますが戦闘可能と判断。また、無意識下による戦闘――「自動戦闘」を獲得。実行します――》


 ミノタウロス(希種)が、上げた足を踏み潰すつもりで勢い良く下ろす。それを、アルンの体は片手を振るって弾き飛ばす。弾き飛ばされる勢いが強く、バランスを崩したミノタウロス(希種)がたたらを踏みながら後退。その間にアルンの体は立ち上がる。

 しかし、その目は閉じられており、意識があるようには見えない。立ったまま寝ている、という表現が相応しい姿であった。実際、アルンの意識は目覚めていない。無意識下という条件付きではあるが、「自動戦闘」によって体が勝手に動いているのである。

 その体は自らの調子を確認するように、手を閉じたり開いたり、見たり触ったりして問題ないと頷く。いや、問題はある。骨折箇所はそのままだ。ただ、ミノタウロス(希種)を倒すのに支障がない程度には動けることが確認できたので、問題ないと頷いたのである。


 一方で、ミノタウロス(希種)は困惑していた。自分の力の強さに自信があったからこそ、振り下ろした足が軽い感じで弾かれたことが信じられなかったのだ。信じられないからこそ、認められない。だから、ミノタウロス(希種)は暴れるようにアルンの体へ襲いかかる。猛攻と言えるほどの乱打を振るう――が、アルンの体は乱打のすべてを弾く、もしくは受け止めて一打も食らうことはなかった。愚直に攻めるだけではなく、フェイントも交ぜるが意味はなく、アルンの体は防ぎ切る。それもすべて片手で。力が勝っているのなら最初からこうなっていたはずなのに、いきなりの話である。何がどうなってこうなっているのか、ミノタウロス(希種)は理解できない。


 ただ、これはなんてことはないのだ。アルンがミノタウロス(希種)に適応した。ミノタウロス(希種)が抱いた疑問に答えるのなら、そう答えるしかない。

 適応したということは、勝利したということである。あるいは、秀でた、勝った、打ち勝った、乗り越えた、凌駕した、超越した――と表することもできるだろう。要は、対象を克服して上回ったということだ。

 通常の「適応」であれば、それは地形や環境に対して指し示すだろうが、「全適応」は名が示すように、すべて。地形や環境だけではなく、人や数値、魔物やスキルといった、ありとあらゆるものに適応するのである。

 だから、アルンの体はミノタウロス(希種)の力に適応して上回っているので、力で押してきても、力で押し返せるのだ。


 アルンの体が動く左手を払うように動かし、ミノタウロス(希種)の両手を一度に弾く。力で負けている今、それだけでミノタウロス(希種)の両腕は弾けるように上がり、腹部ががら空きとなった。アルンの体が前に出て、がら空きの腹部に力を込めた強烈な一打を食らわせる。味わったことのない痛みに、ミノタウロス(希種)は目が飛び出そうになりつつ、腹部を押さえながら後退った。

 そのあとを追うように、アルンの体は前に出る。


「ブ、ブモゥ」


 ミノタウロス(希種)から苦しそうな声が漏れた。たった一打で、ミノタウロス(希種)は己の死を予感する。このままでは殺られる――だから、切り札を切ることにした。希種であるということは、普通のミノタウロスではないということ。物理一辺倒ではなく、それ以外の手段も持ち得ているのだ。


「ブ……」


 吐きそうな表情を浮かべるミノタウロス(希種)。普通であれば、腹部を強打されたことによる吐しゃ物だと思うが、これは違う。


「ブモッ!」


 吐き出したのは、巨大な炎の塊。火炎弾を吐いた。思いのほか速度が出ており、近付いて距離が縮まっていたために、アルンの体は避け切れずに着弾。アルンの体は炎に包まれ、服だけではなく体の各所が焼け焦げて倒れる。


 ミノタウロス(希種)は勝利を確信した。


「ブ――」


《――100%。火炎、火傷、に適応しました。「火炎:完全無効」、「火傷:完全無効」を獲得――》


 ミノタウロス(希種)が勝利の雄叫びを上げようとしたところで、アルンの体を包む炎は消え去り、各所の焼け焦げた部分は何事もなかったかのように元の肌色へと戻った。ただ、さすがに失ったものもある。服の大部分は焼け落ち、髪の毛や眉毛もなくなっていた。その辺りは対象外である。

 アルンの体は失ったものは気にせずに接近して、ミノタウロス(希種)が動揺している間に両足を蹴り砕いた。まずは移動できない――逃げ出さないようにしたのである。ミノタウロス(希種)から懇願するような声が漏れ出るが、アルンの体は容赦なく拳を何度も放って倒す。


 それでアルンの体は動きを止めて――。


「………………ん? え? あれ?」


 それから少しして、アルンは意識を取り戻した。

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