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始まったといっても、まだ序盤だった時もある

 エリアスト王国。田舎にある町の、とある一軒家。そこで俺と妹、それとおっちゃんが共に住んでいて、世の中が魔障の対応で大変なことになっているな、と思っていたある日のこと、妹の体調が悪くなり、おっちゃんが診ると――。


「これは……『魔障』を発症しているな」


 難しい顔を浮かべてそう告げられた。


「「………………え?」」


 俺と妹は驚きが口から出た。妹は動揺している。もちろん、俺もだ。そんな俺と妹の様子を見て、おっちゃんは気持ちはわかるというように頷いた。


「驚くのも無理はない。だが、間違いなく、イシスは魔障に」


「いや、そうじゃなくて、なんでおっちゃんにそれがわかるんだ?」


「そうね。そもそも錬金術師だって言っていたけれど、錬金術師でそれがわかるの?」


 俺と妹の疑問は同じようで、揃って首を傾げる。


「……いや、いやいや、え? なんで俺が疑われているの? そこは、え? ま、魔障! とそっちに意識が向くところでは? まあ、アレだよ。俺は錬金術師だが薬師の知識もあるから、そっちから判断した訳で」


「「………………」」


「おお、二人揃って猜疑心の塊のような目を向けてくるとは」


「いや、だって、普段は家でぐーたらしているし」


「偶に金策だとふらっと居なくなるし」


「普段の行いがこんなところに影響を! だ、だが、間違いない! 間違いなく、イシスは魔障を患っている!」


 ……まあ、妹が言ったように偶に居なくなってはいたが、長年共に暮らしてきたのだ。おっちゃんが嘘を吐いているとは思えない。つまり……。


「……イシスは、本当に魔障に?」


「ああ、間違いない」


「……そっか。魔障なんだ。私……聞いていた症状が出ているような感じはしないけれど、この怠さも関係している?」


 妹が尋ねると、おっちゃんはそうだと頷く。


「ああ。明確な症状ではなく怠さだけなのは、イシスの魔力量が膨大だからだ。魔力が抜けているとしても、イシスの魔力量からすれば微量でしかない。だから、魔障をまだ実感できていないが、このまま放っておけば、その内……」


 おっちゃんが難しい表情を浮かべる。それですべてを察したのか、妹は不安な表情を浮かべ、手足も少し震えていた。


「……妹は……イシスは……助かるよな?」


「普通の病気なら薬師だが、魔障は魔力関係なため、錬金術師の方が適任だ。手は尽くす」


 そう口にしたおっちゃんの表情は……このあとどうなるかわかっていたのか、険しいものだった。


     ―――


 妹の魔障が発覚してから――一週間が経った。妹に魔障の症状は、まだ出ていない。それだけ魔力量が膨大だからというのもあるだろうが、一日一回は飲むように、とおっちゃんが魔力回復薬を用意してくれているのもあると思う。だから、妹は元気だ。


 でも、魔障が治った訳ではない。薬――魔障治療薬は、手に入らなかった。どこも、どこでも、まだまだ魔障治療薬は必要なのだ。出回る訳がない。いや、違う。正確には、新たに魔障治療薬が作られても回ってこないのだ。権力や金を持つ者がその力で優先権を得ているのである。そのため、魔障治療薬を入手するのは、非常に困難な状況となっていた。


 しかし、希望がない訳ではない。おっちゃんが、魔障は魔力関係で錬金術師が適任と言っていたように、魔障治療薬を作れるのは錬金術師なのだ。そして、おっちゃんは自称だが凄腕錬金術師だそうで、魔障治療薬を作ることができるらしい。


 ただ、作れるだけの腕前があろうとも、元となる素材が手元になければ無理だ。


「素材が! 一つも手に入らない!」


 おっちゃんが叫ぶ。ついでに、「あー!」と頭を掻き毟っている。

 とりあえず、一発殴っておいた。一応、これまで育ててくれた恩があるので軽くだが。


「ぶっ! 何故殴った!」


「いや、正気に戻るかな、と。あと、そんなに掻き毟ると将来禿げるかもしれないから、それを止めるために」


「それは、ありがとう。少し冷静になった。でも、殴るにしても振り被る必要はあったか?」


「狙いを外す訳にはいかないからな」


「いや、外れても良かったと思うが……まあ、いい。あと、俺の頭部の未来を気にしてくれるとは思わなかったが、それに関しては大丈夫だ。俺は強力な毛生え薬を開発しているからな。問題ない――いや、問題はある。ここだと、魔障治療薬を作るのに必要な素材が集まらない」


「どういうことだ?」


 誰かに話せば、それで思考が纏まってスッキリする時もある。それを狙って尋ねると、おっちゃんは教えてくれた。


 おっちゃんの手元にもある程度の素材はあるが、それだけでは魔障治療薬を作れない。魔物素材が足りないそうだ。そこで問題なのは、素材が必要な魔物がこの辺りではまったく出ないということである。だから、手に入れようとするのなら画策が必要だ。それでなくとも、魔障治療薬に使う素材はどこも必要なため、まあ、ここまで回ってくるのは相当後になるだろう。

 妹がそれまでもてばいいが……多分、もたない。

 なら、どうすればいいか。答えは一つだ。


「――ということは、手に入るところに行くしかない」


「そういうことだ。イシスが動ける内に移動しよう。向かうのは――王都だ」


 エリアスト王国の王都に引っ越すことになった。

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― 新着の感想 ―
事の深刻さと、兄との発言の軽さのギャップがあって違和感。とりあえず10ページくらい読んでみる
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