終わったと思っても、相手からすれば終わっていない時もある
追い付かれるとまた面倒なことになりかねないので、教室を出てからAGI最速で移動して外に出た。普段であれば廊下を走るのは先生から怒られる行動なのだが……要は見られなければいいのである。AGI最速なら目にも止まらぬ速さなので、見られても視認される前に移動できるし、それなら俺だとはわからないので大丈夫。実際、誰にも見られることなく外に出たのだから問題はなかった。起こらなかった。でも、回を重ねると見られる可能性は高まるし、それで見られると怒られるので、今回限りにしておこう。明日になれば、カレリナ・アーシャルも諦めているに違いない。……そうだといいな。はあ……と息を吐く。
………………。
………………。
おっと、面倒なことになったな、と意気消沈して足を止めてしまっていた。いつまでもここに居るとカレリナ・アーシャルに見つかるかもしれない。移動しないと。本来なら、直帰で家に帰って妹に癒されたいところであるが、妹が治ったことで食用として使うことになった魔蜂のハチミツがそろそろなくなりそうなのである。回収してこないといけないな、と学園のダンジョンへと久々に向かった。
―――
地下11階
寄り道で寄るようなところはないので、真っ直ぐに魔蜂たちの花畑へとむかう。そして――。
「うふふふふふ……」
魔蜂をちょんちょんと突いたり――。
「うんうん。そうだね。うんうん」
魔蜂たちの悩みに肯定を返したり(実際は言葉が通じていないので頷くだけ)――。
「あははははは……」
魔蜂たちの花畑の周囲を笑いながら、魔蜂たちと一緒に回ったりしていると……意気消沈していた気分が浮上した。魔蜂には癒し効果があるのだろうか? 何にしても、魔蜂たちに癒されたのは間違いない事実である。ありがとう。本当にありがとう。何かお礼がしたいと口にすれば、魔蜂たちは小さな体を使って必死に伝えようとしてくる。
……ふむ。
「つまり、雄のイケ魔蜂を捕まえてきて欲しい、と?」
魔蜂たちから頷きが返ってきた。どうして雄のイケ魔蜂を? と思ったが、針持ちは雌ばかり……それじゃあ、つまり、前に針攻撃してきたのは……まあ、今更か。仲良くしてきたのは針持ちも多いので……やったろうじゃないか。
針持ち魔蜂を数体連れて森の中を駆け回り、指示されるままに新たな魔蜂を確保していく。なんというか、どちらも反応がわかりやすい。針持ち魔蜂たちの方は確保する魔蜂が増えるほどにギラギラしてきて、確保された魔蜂たちは最初絶望を表し、仲間を見つけると一緒に頑張っていこうな、と励まし合っていた。……そんなに大変なのだろうか?
針持ち魔蜂たちから一旦これくらいでいい、というところまで新たな魔蜂を確保してから巣へと戻って引き渡してから地下10階に戻り、転移魔法陣で地上に戻った。………………一旦?
―――
………………。
………………。
なんというか、甘く見ていたというか、意外に根性がある……いや、この場合はどう言えばいいのだろうか? やはり、俺は貴族というのを甘く見ていた、と思う。
家に帰ると、何故か家の周囲を複数の騎士が警戒していた。それなのに、何故かすんなりと通ることができた。何故か丁寧だった。家の中に入ると、何故かおっちゃんとタオが待ち構えていて、二人共が俺に目線でどうにかしろと訴えてきた。その答えはリビングに入ったことで理解した。なんてことはない。目的は俺だった。来ていたのは、カレリナ・アーシャル。リビングに入った時、カレリナ・アーシャルは妹と仲良く話していた。
「……た、ただいま」
「あっ! おかえり! お兄ちゃん!」
「お邪魔させてもらっている」
「いや、なんで居るんだ……居るのですか?」
「言葉遣いは気にしなくていいと言ったぞ。クラスメイトではないか。それに、私は貴殿に助けられた立場なのだ。普段よりきつくとも咎めはしない。それと、私がここに居るのは、そのお礼を伝えていなかったと思い出したからだ」
「そうそう! 聞いたよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんがカレリナさんを助けたんでしょ! 凄いね! 自慢のお兄ちゃんだよ!」
「ははは! そうか! 自慢の……ん? カレリナさん? 随分と親しげに呼ぶんだな」
「うん。お兄ちゃんが帰ってくるまでに色々話して仲良くなったの。ねえ~」
「ねえ~」
妹とカレリナ・アーシャルが顔を見合わせて、ニッコリ笑顔で頭を同じ方向に傾ける。いや、妹はまだしもカレリナ・アーシャルはそんな感じではないだろ。まさか、こんなことになるとは……もっと早く帰っておけば――と心の中で悶絶していると、カレリナ・アーシャルが俺に向かって頭を下げる。
「昨日は本当に助かった。ありがとう。そして、改めてお願いしたい。学年別代表決定戦まで私を鍛えて欲しい。頼む」
「いや、感謝は別にいいが、鍛えるのは……」
「え? お兄ちゃんがカレリナさんを鍛えるの?」
なんで? ではなく、ワクワクと期待する目で俺を見てくる妹。鍛えられないと疑っていないのは、俺が学園のダンジョン地下40階までソロでいけると知っているからで、そんな俺ならできると信じているからだろう。うう……そんな目を向けてくる妹の前だと断りにくい……はっ! まさか、これを狙ってか? 狙ってなのか? これが貴族のすることなのか! くっ、貴族汚い。それだけ必死ということもかもしれないが……どうすれば……。
《――ふむ。試したいことがありますので、それを試すいい機会かもしれません。判断は適応者に任せます――》
どうやら「全適応」さんには何やら考えがあるようだ。
………………。
………………。
「わかった。まあ、やるだけやってみるか」
了承した。




