金でなければ、わかっているよな?
昼食後にカレリナ・アーシャルからの呼び出しを受けた。お願いしたいことはなんだろうか? まあ、昨日の今日だし、昨日のことに関連のあることだと思うので……「黒月」をどう倒したとかだろうか? それくらいなら問題ない。他に何かあっただろうか? と考えるが、答えは出ないのでお願いを聞いてからだ。でも、お願いを聞いたとして……早く帰れるよな? 昨日に続いて連絡なしで遅くなると、妹に昨日よりも怒られてしまう。それは勘弁して欲しい。……まあ、その時はカレリナ・アーシャルにこっちからお願いして連絡を入れてもらえばいいか。向こうがお願いしてくるのだから、こっちのお願いも聞いてもらわないと。それくらいはしてくれるよな? 信じているぞ。
なので、カレリナ・アーシャルの呼び出しについてはいいが、今日の授業が終わりとマウマウ先生に手招きされて「昨日のようなことがあるのなら、まずは先生に相談なり報告なりしてくれると嬉しいですね」と注意? された。………………いや、何故昨日のことを知っている? カレリナ・アーシャルを通じてアーシャル侯爵家、後は昨日の件を知ったジション侯爵家、もしくは「黒月」に依頼していた貴族家くらいだと思うのだが……。恐ろしい先生だ。まあ、カレリナ・アーシャルが伝えたとか、アーシャル侯爵家と繋がっているとか、その辺りだろうけど。でも、マウマウ先生なら話せば協力してくれるだろうし、心強い味方となっていたと思う。「……本当に残念です。悪徳貴族たちの裏情報とか、面白そうだったのに」……たとえ、不純な動機であったとしても。
そして、サーフェ、ナリと昼食を食べた後、そういえば呼び出されたけれどどこに行けばいんだろうか? と教室から出れば、カレリナ・アーシャルが待ち構えていた。
「もういいか?」
「あ、はい」
逃げられそうにない。それを察したのか、「じゃあな」とサーフェとナリがこの場を後にしようとしたので、巻き込めないだろうか?
「えっと、俺だけ? サーフェとナリは? どちらかでも?」
「いいや、お願いしたいことがあるのは貴殿だけだ」
余計なことをと戸惑ったサーフェとナリだったが、自分たちが関係ないとわかると「今度こそ、それじゃ!」とこの場を後にした。その後、カレリナ・アーシャルは教室へと入る。まあ、廊下でするような話ではないか、と俺も続いて中に入った。いや、出たばっかりだし、戻った、だろうか? ともかく、俺に何のお願いがあるのかさっさと聞いて、さっさと帰るか。カレリナ・アーシャルと向かい合ったところで尋ねる。
「それで、お願いってなんだ?」
「……昨日、『黒月』の者たちをとある場所まで連行した後、状態を確認した者が唸っていた。私が、それをやったのはたった一人で、それも無傷だと教えたからだ。とても信じられないらしい。私が私の言葉を疑うのかと問えば慌てていたがな」
「は、はあ……えっと、それが何か?」
「単刀直入に言う。学年別代表決定戦までに私を鍛えて欲しい。私は今よりも強くなりたいのだ」
「………………」
「………………」
「え? なんで?」
意味がわからない。いや、まあ、相手は貴族家であるし、俺が強いとわかったのなら、仕えろと言ってくるのなら、わからなくもない。まあ、受けないが。でも、鍛えろとは一体? そもそも、他人を鍛えることなんてやったことないし、俺にできると思えないのだが? 俺が強くなったのも適応したからであって、正攻法とは言えないんだけど。
「理由は一つ。私がこれまで見てきた者の中で単独から上位に入るくらいに貴殿が強いからだ」
カレリナ・アーシャルは、それ以外に何がある、と言いたげである。
「いや、たとえあなたの中で上位に入るくらい強いとしても、上位ということは他にも居るという訳だし、そっちに頼んだ方がいいと思うけど?」
「貴殿以外は自由には動けない役職持ちばかりだ。だから、貴殿に頼むのだ」
「自由に動けないってどんな役職だよ……それでも、俺の強さは真似できるものではないし、そもそも誰かを鍛えるとかしたことないから無理。どうすればいいとかわからないから」
「そこを頼む!」
「いや、だから、わからないから鍛えようがないって言っているから。それに、侯爵家でしょ? 素人に頼むより、そういう教えるのが上手い人とかにお願いした方がいいと思うけれど?」
「そこを頼む!」
「いや、でもね」
「そこを頼む!」
まだ何も言ってないから。熱意があるのはわかった。多分、これは俺が「わかった」と言うまで続きそうな気がする。どうしたものか。本当に、そういう専門の人に教えてもらう方がいいと思うのだが……。
「はっ! ただ頼むだけでは駄目だな!」
こっちがどう断ろうか悩んでいる間に、カレリナ・アーシャルは何かに気付いたようだ。俺には無理だと気付いてくれたのなら嬉しいが、こういう時の期待は裏切られるものである。
「報酬の話をしていなかった。これでも侯爵家だ。望むままとはいかないが、それなりの金額を用意しよう」
「いや、別に要らないけれど」
金持ちという訳ではないが、別に欲しいとは思わないので、魅力的な報酬ではない。そう考えていることが表面に出たのか、効果的でないはないと理解したカレリナ・アーシャルは何やら考え出した。……ろくでもなさそうなのを思い付きそうだから、帰っていいかな?
「……はっ! まさか、報酬と称して私の体を」
「違います。帰ります。失礼します」
カレリナ・アーシャルが何か言う前にお断りを入れて、さっさと教室から出て行く。拒否は伝わっているはず。これで諦めてくれるといいのだが……。




