普段やらないことをやると自覚することもある
……良かった。魔道具の光源が各所に置かれていて、地下は明るかった。まあ、考えてみれば、ここは「黒月」のアジトである。つまり、「黒月」が使う場所なのだから、明るくするのは当然だ。ただ、上で少し騒がしくし過ぎたのかもしれない。下りた先にあったのは広めのリビングのような寛ぎの場所で、奥と左右の壁に扉がある他に、テーブルやソファ、たくさんの酒瓶と思われる瓶とグラスが置かれている棚などがあるのだが、その中には俺を見て殺気を飛ばしてくる二人の男性が居た。どちらも三十代くらいで、黒ローブを身に纏っていて、わかりやすい違いは片方が緑色の髪、もう片方は紫色の髪といったところか。いきなり襲いかかってこなかったのは、なんでもないように現れた俺に対して、まったく知らない顔だろうし、目的も向こうからすれば不明なため、警戒が先に出たからだろう。仕方ないから目的を言うか。ニッコリと笑みを浮かべる。
「お届け物を持って来ました」
「届け物だと?」
「ここに? 手ぶらで?」
「はい、ここ『黒月』のアジトですよね。壊滅を届けにきました。あっ、破滅でも撲滅でも、なんでも好きなように捉えていいですよ。お渡しする結果に変わりはありませんから」
相手から受け取りの返事はなく、行動で示された。緑髪の方が短槍、紫髪の方が長剣を持ち、左右から同時に襲いかかってくる。先ほどの二人と違って連携がしっかりとしている感じ。それに動きが速い――と思うが、俺の方が速い。緑髪の短槍が迫ってきたので短槍の穂先に軽く手を添えて軌道をずらし、反対側から迫る紫髪の長剣も剣身に軽く手を添えて軌道をずらす。短槍と長剣は交わり、短槍は紫髪に、長剣は緑髪に当たる――寸前で止まった。
「「はあ、はあ、はあ……」」
両者の息が荒い。興奮したの? 駄目だよ。連携できるくらい仲がいい相手を傷付けることに興奮なんて覚えたら。歪んでいるよ。そのまま普通に仲良くした方が……いや、両者どちらもということは、一方ではなく二人共興奮している訳だし、案外お似合いの二人なのかもしれない。なので、二人同時に倒してあげよう。
「それでは」
左右の手を広げて両者の頭をガッ! と掴み――。
「受け取りのサインをお願いします」
床に叩き付ける。もちろん、サイン忘れがないように――。
「せい! せい!」
追撃も忘れない。強いのを打ち込んでおいたので、両者共に昏倒させる。すると、倒れた拍子に二人の手が重なり合う。倒れても仲の良さを示すとは……やるな。
これで、「黒月」は残る一人。左右の扉ではなく奥の扉の向こうに居るのは「気配察知」で確定。しかし、これが精鋭? 思ったよりも大したことない。いや、一般的に考えて強くはあると思う。でも、今の俺からすると大したことないのだ。魔物ばかり相手にしていたから実感がなかったけれど、それだけ強くなっているということか。確かに、これならマウマウ先生が学年別代表決定戦で俺の勝利を疑わなかったのは納得である。……これで油断とかで負けたら恥ずかしいな。気を引き締めて、油断せずにいこう。まずは「黒月」の残る一人からだ。
奥へと続く扉を開けようとしたところで、後方に跳ぶ。すると、破壊音と共に開けようとした扉が俺に向かって飛んできたので、腕を払って弾き飛ばす。扉がなくなった奥から、灰色の髪の筋骨隆々な三十代くらいの男性が現れる。黒ローブは身に纏っていない……いや、腰に巻いているのがそれっぽい。
「知らねえ気配がしたかと思えば、相手無傷じゃねえか。俺以外動く気配はねえし、ウチは精鋭を売りにしているってのに情けねえな」
状況を把握している? 気配と口にしたから、俺と同じかはわからないが気配を探ることができるようだ。灰髪の鋭い目が俺に向けられる。
「……さて、ここまでのことをやったんだ。無事に帰れるとか思ってないよな? 小僧」
後ろを確認。誰も居ない。となると、灰髪の視線的に……。
「小僧って俺のことか?」
「他に誰が居る。随分と舐めた態度だな。だが、それがいつまで持つか見物だ。俺らに手を出したことを後悔しながら死んでいけ! 小僧!」
灰髪が距離を詰めて軽く跳躍。体を回して回転蹴りを放つ。灰髪の蹴り足を受け止め掴んで床に叩き付ける。少し勢いを付けたので、先ほどの二人よりも強い衝撃だったと床に大きくひびが走った。ただ、さすがは残る一人。それで倒れる、意識を失うなんてことにはならずに、床を叩いて、その衝撃で身を起こしながら殴りかかってくる。足を俺に掴まれたままなのに、馬鹿なのか? それとも、即座に反撃することで俺が驚いて隙を見せると思ったのかもしれない。でも、残念。俺は驚いていない。掴んでいる足を手前に引いて、拳をかわしてから迫る灰髪の顔面に頭突きを食らわせ、灰髪が怯んだところで首を掴んで折――危ない。生き証人として生かすのに、危うく殺ってしまうところだった。掴んだ首をはそのままで、今度は灰髪の体ごと持ち上げてから、先ほどよりも強く床に叩き付ける。灰髪の体から何かが折れる音が聞こえてきて、その衝撃が強かったのか気を失ったようだ。ぴくぴくしているので生きてはいるから問題ない。
「せい!」
仲間外れは可哀想だと、灰髪にも念のための一発を入れておく。認識しているかは怪しいが。とりあえず、これで「黒月」は全員片付けた。後はカレリナ・アーシャルを通じてアーシャル侯爵家に任せればいいだろう。
一応、左の扉の先は武器庫、右の扉の先は倉庫で、奥の部屋は貴族の執務室みたいな感じになっていて、金庫が無造作に置かれていたので開け……力ずくで金庫の扉を取り外して中を確認。……うん。「全適応」さんが教えてくれた通りの物があった。そこまで確認してから外に出た。




