使えるものは使える時に使いましょう
さすがに路地裏に放置は不味いだろう、と倒した二人を両脇に担いで「黒月」のアジトに向けて移動する。ただ、カレリナ・アーシャルが「どうやってアジトの場所がわかったのだ! それは正確なのか?」と移動中にしつこく尋ねてきて、正直面倒。話すつもりはない。サーフェとナリを見ろ。疑いもなく俺に付いて来てくれているだろうが。……まあ、疑いはないが呆れているというか、アルンだからなぁ、みたいな感じではあるが。下手に尋ねられるより全然マシなのは確かだ。カレリナ・アーシャル。二人を見習え。でないと、この担いでいる二人の内の一人を落とすぞ。いいのか? 生き証人が減っても……問題ないな。これからもっと増えるのだから。使えない生き証人だ。それに、そもそも「全適応」さんのことは一部の人以外秘密にしないと……あれ? そういえば、秘密にしていたのは妹を助けるのに目立ってしまうと余計な時間を取られてしまうからだったな。で、今妹はもう助かったから、隠す意味は……ない? あれ? ……ま、まあ、アレよ。わざわざ明かす必要はないってことで。
そうこうしている内に、「黒月」のアジトが見えた。本当に普通の二階建ての家屋。「全適応」さんに教えられていなかったら、気付かなかったことだろう。その目的としている家屋から人が出てきた。赤茶髪の男性で、黒いローブは身に纏っていないが――。
《――構成員の一人です――》
「全適応」さんが適応したのなら見逃しはない。少し距離があったので、担いでいた二人を上に放り投げ、俺も飛び上がって一人を殴り飛ばし、一人を蹴り飛ばす。当然、スキル「投擲」を使っている。蹴りでも投擲なのだろうか? ……まあ、いいか。威力は十分だ。狙いは正確で、家屋から出てきた赤茶髪の男性にぶつかって巻き込みながら家屋内に入っていく。家屋の中から激しい破壊音が聞こえた。他の構成員に警戒をさせることになるが問題ない。真正面からいくことに変わりはないのだ。
「あの家は偽装で、地下にアジトがあるようだ。それじゃあ、片付けが終わるまで入ってくるなよ」
カレリナ・アーシャルに対して言っておく。サーフェとナリが上手くやってくれるだろう。返事は聞かない、というか、聞く前に速度を上げて目的である家屋に突っ込む。中に入ると、絡み合った三人が昏倒していた。多分生きているだろう。
「……う、うう、何が」
いや、赤茶髪の男性は意識があった。
「せいっ!」
一発入れて昏倒させておく。これで問題ない。「投擲」に使った二人も瀕死のように見えるが生きている。問題ない。俺が「黒月」を片付けてアーシャル侯爵家に引き渡すまで生きていればいいのだ。だから、問題ない。これで「黒月」は残り五人。「気配察知」で、一階奥に二人、下から三人の気配を察知する。二階には誰も居ないようだ。全滅が目的なので、まずは一階奥の二人の方へ向かう。廊下を進み、二人の気配を感じる部屋の扉を蹴り飛ばす。蹴り飛ばした扉は真っ直ぐに飛んでいった先にある壁に衝突。そのまま部屋の中に入ると、カシュ、という小さな音と共に矢が飛んできた。矢の向こう側にボウガンを構えた青紫髪の男性。黒ローブは既に身に纏っている。ついでに、矢じりには何か塗られているようだ。毒か? 一応、毒(弱):無効は持っているが、毒(弱)ではなさそうな毒々しい色合い。矢じりに触れないようにして矢を掴みつつ、一回転して掴んだ矢を「投擲」ボウガンを構えたままの青紫髪の男性の肩にぶっ刺さる。
「は、はあ? 何故? げ、解毒!」
青紫髪の男性が黒ローブの中から小瓶を取り出して、中に入っている液体を一気に飲む。その間に、もう一人――黒ローブに水色髪の男性が両手に短剣を持って襲いかかってきた。いや、今更? 襲いかかるならボウガンの矢と一緒では? 連携できていないな、と思いつつ、左右から挟むように迫る短剣を持つ手を掴み、そのまま握って砕いて、引き寄せて水色髪の男性の顎を右膝蹴りで砕いて倒す。あれ? これ、生き証人なのに喋れなく……アーシャル侯爵家がどうにかすることを期待しよう。そう判断して、解毒した青紫髪の男性がボウガンに新たな矢を装填しようとしていたので、その前に一気に距離を詰めて新たな矢を奪い、先ほどは違う毒が矢じりに塗られているようなので――。
「えい」
「え?」
青紫髪の男性にプスッと刺す。
「いや、は! 何が! ではなく、解ど、くくくくく……」
青紫髪の男性が勝手に倒れた。見た感じだと……痺れているようだ。麻痺毒が塗られていたようである。放置しても良さそうだが――。
「せいっ! ……せいっ!」
一発入れて気絶させておき、ついでに水色髪の男性の方にも一発念押しで入れておいた。ふう。これで大丈夫。「黒月」は残り三人。後は地下に居る。地下に向かうための方法は適応した「全適応」さんが知っているので、指示されるままに別の部屋に行き、本棚の本を手前に引くと、本棚からガコンと音が立つ。
………………。
………………。
あっ、自分で動かさないといけないのか。勝手に動くもんだと勝手に思っていた。本棚を手前に引けるようになっていて、手前に引くと――その奥に地下へと続く階段があった。下りる。




