やるというのなら、やられる前にやるだけである
ナイフを投げてきた奴を掴んで、近くの建物の屋根の上に飛び乗るのと同時に、掴んでいたそいつは黒いローブの中からナイフを取り出して、掴んでいる俺の腕を刺そうとしてくる。避けず、放さず、そのまま腕でナイフを受ける。ナイフは――俺に刺さらなかった。
「なっ!」
そいつは驚くが、俺は別に驚かない。そんなナイフ程度では、俺のVITは貫けないとわかっているからだ。
「さて、ぶちのめす前に、とりあえず聞いておくけど、なんでナイフなんて投げてきた? カレリナ・アーシャルを狙う理由は?」
「……」
一応聞いてみたが、そいつは何も答えない。ナイフを俺の腕に当てたまま、俺を睨んでくる。射殺さんばかりだ。その両目突いてやろうか? というか、俺の注意を自分に惹き付けておきたいように見える。その狙いは、直ぐにわかった。「気配察知」で察知。俺に向かって何かが飛来してくる。多分、さっき俺が掴んだら砕け散ったヤツだ。魔法。別に受けても傷一つ負わないだろうが、わかりやすくするために、飛来するものを見もせずに掴む。砕け散った。脆く儚い
魔法だ。
「通じねえよ」
そいつが驚きで目を見開く。馬鹿な、とか言いそう。
「馬鹿な……あいつの『不可視の魔法矢』を」
言った。ついでになんかカッコ良さげなことも追加で……う~ん、カッコ良さげだろうか? ただ、それを言いたいだけではないだろうか? しかし、不可視ね。見えないのかもしれないけれど、気配は感じられた訳だし、不可視ではないな。「|一部見える不可視《パート・アピア―・インビジブル》」とかに名前変えれば……間抜けな感じがするから無理か。正確な情報なのに。いや、こういうのは正確だと駄目か。でも、今回のことでそれを放ってきた者が自発的にそう名付ける可能性は……ないか。まあ、今は目の前のそいつと同じく、驚きで目を見開いていることだろう。
「とりあえず、話す気はないってことだな」
殴ろうとすると「ま、待て!」とそいつが待ったをかける。
「いいのか? 俺に手を出して」
「は? 何が?」
「これは親切だ。お前は何もわかっていないようだから、親切で教えてやる。裏の人間に手を出すことの意味を」
「裏の人間? 意味だと?」
何を話すのか気になったので踏み止まったのだが、それで俺が怖気づいたと思ったのか、そいつはニヤリと笑みを浮かべて口を開く。
「そうだ。表とは違って、裏には裏なりの面子がある。手を出されて何もし返さないじゃあ、他から舐められる。いいか? 今ここで俺にこれ以上手を出せば、お前は死ぬまで俺の仲間たちに狙われ続けることになる。強いぜ、俺の仲間たちは。果たして、常に狙われるお前がいつまで無事でいられるか……いや、ことはお前だけじゃない。お前の家族や親しい奴も対象に入る。裏の人間に手を出すってのはそういうことなんだよ」
なんだと……俺だけじゃなく……家族や親しい人……おっちゃんやサーフェやナリ……何より妹に手を出すだと……。
「どうやら状況を理解したようだな。なら、さっさとこの手を放して……はな……ぐっ……」
おっと、ふざけたことを言うから、思わず掴んでいた手に力が入ってしまっていた。まずは少し緩めて、お礼を言おう。
「色々と教えてくれてありがとう。俺としてはお前ともう一人をぶっ飛ばして終わりだと思っていたけど、そうじゃないんだな。そういうことなら、今後狙われないよう……これからお前と仲間たちを全員潰すことにしよう」
「でき、るものか……俺たちを、誰だ、と思っている」
「知らねえよ。知る気もねえ」
そいつの腹部に一発強いのを入れて黙らせる。まあ、なんか勝手に何者だと喋りそうだったけど、それについては「全適応」さんが現状に適応してどうにかしてくれるだろう。
《――もうやっています――》
さすが、「全適応」さん。なので、俺が今からやるべきことは、魔法を放ってきたもう一人の方をぶちのめすことである。いやあ、そいつの仲間全員倒さないといけないので忙しくなるな。とりあえず、掴んでいるそいつは……この場に放っておくと気が付いた時に逃げるだろうから、折角だしそいつの仲間のところに連れて行ってあげよう。一人だけ除け者、良くない。そいつを掴んだまま、魔法が飛んで来た方向に向かって、屋根伝いに飛んでいきながら移動していく。途中、お店の看板みたいなのにそいつが頭をぶつけたが、まあいいか。再び魔法が飛んできたので、今度は払って散らせる。魔法を放ってきた奴の位置が変わっていたが、残念。俺の「気配察知」の範囲内だった。魔法が飛んできた方向に向かうと、俺から離れるように移動する奴が一人。お前だな、と速度を上げて距離を詰めて……青い髪と、そいつと同じく黒いローブを身に纏っている姿を目撃した。黒いローブが仲間の証なのだろうか? と思ったところで、そいつの仲間が先ほどまでと同じ魔法を放ってきたので、邪魔だと払い除けたところで――。
「行って来い! 仲間のところへ!」
掴んでいたそいつを投げる。スキル「投擲」が作用して、そいつはそいつの仲間に見事命中した。それでもそいつの仲間はそいつを置いて逃げようとしたので、AGI任せで一気に距離を詰めて、ボコした。




