気分でそういうことを言い合うことだってある
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店を出たところで人にぶつかり、それが同じEクラスのカレリナ・アーシャルだった。ぶつかったのは「気配察知」を使っていなかったためなので、またこういうことが起こらないように無意識で使う。それが功を奏した。カレリナ・アーシャルと互いに「「あっ」」と声を上げて足を止めたところで、飛来する何かを捉える。何が飛来しているのかはわからないが、狙いは軌道の先を追えばわかった。カレリナ・アーシャルを狙っているようだ。この場合は、狙われている、か? 合わせて、反対方向からナイフが飛んできているのも察知。同時攻撃? 襲撃者は二人? いや、考えるのは後でもできる。今の問題は、当のカレリナ・アーシャルが攻撃されていることに気付いていないということだ。事前に俺とぶつかったからかな? あれ? それって俺のせい? 元々クラスメイトであるし、助けるつもりであったが、よりその意思が強くなった。でも、問題なのは察知するのが遅かったということで、どちらか一方しか止められないということだ。どうする? カレリナ・アーシャルを突き飛ばして……も当たりそうだな、と思ったところで、ナリがカレリナ・アーシャルを押し退けるように進んでいるのが見えた。なら、俺は飛来している方だ、と当たる直前に掴んで止める――と、その何かは勝手に砕け散った。感触的に魔法の類。威力的に致命傷を与えるようなものではなさそうなので、注意を引く程度の……つまり、本命はナイフの方か! と見れば、ナリがカレリナ・アーシャルを押し退けて矢面に立っていて、ナイフが腹部に刺さっていた。
「くそっ!」
俺がナイフの方を対処していれば、と考えるのは後でもできる。今は最善の行動を――と、ナリとカレリナ・アーシャルを掴み、サーフェに体当たりするようにして、出たばかりの店の中へと戻る。
「いてっ! なんだ、アルン?」
「話は後だ! まずはナリの確認だ!」
俺の言葉でサーフェもナリの腹部にナイフが刺さっていることに気付き、駆け寄る、カレリナ・アーシャルの方は後でいい。ナリの状態を確認。腹部のナイフはそれなりに深く刺さっている。
「俺の回復魔法で癒す。抜くぞ?」
「……(こくこく)」
ナリが了承してギュッと目を閉じたところで、ナリの腹部に刺さっているナイフを引き抜くのと同時に回復魔法で癒す。少ないMPで治せるか不安だったが、どうにか傷口は塞がった。とりあえず、ホッと安堵する。
「何事ですか!」
店の従業員が怒りを露わにしながらこちらに来る。俺たちのことが迷惑だ、と態度が物語っていた。さて、どうしたものか。今店の外に出るのは得策ではないと思うが……悩む必要はなかった。
「アーシャル侯爵家の者だ。この店に迷惑をかけるつもりはない。少し、この場を借りたいだけだ。血で汚れた床などの賠償は後で支払う」
カレリナ・アーシャルが従業員を止める。あっちは任せて大丈夫そうだ。それに、従業員の方に対応するのなら、カレリナ・アーシャルが店の外に出ることはなく、再び狙われることはないだろう。まあ、襲撃者がこの店の中に入って来たら別だが……そうしてくる前に潰せばいいだけだ。
「サーフェ。ナリを頼む。傷を塞いだとはいえ、表面的なだけかもしれないし、少しばかり様子を見ておいてくれ」
「あ、ああ、それはいいが、アルンは?」
「決まってんだろ。ナイフなんて危ないものを投げてきた奴をぶっ飛ばす」
「は? いや、まあ、アルンなら大丈夫だろうけど、相手がどんな奴かもわかっていねえんだし、さすがに無理じゃねえか?」
「なんであろうと問題ない」
「気配察知」を使い始めた時から、魔法とナイフがどこから飛んできたのか確認している。ついでに、魔法の方は範囲外からだったので逆に辿っても無理だったが、ナイフの方は範囲内だったので軌道を逆に辿ってこの付近に居る奴だと目途はつけている。
「……僕の仇をお願い(ぺこり)」
「ああ、ナリの仇は俺が取る!」
「いや、ナリは死んでねえから」
サーフェが何か言っているが、こういうのは気分だ。お前だって、その時になったらそういうことを言いそうなのに。気分だよな、とナリに向けて親指を立てる。ナリもそうだと親指を立てた。戸惑いつつも、任せたとサーフェも親指を立てる。
「ついでに、あっちの方も任せた」
カレリナ・アーシャルの方も二人に任せて、俺は店から飛び出す。喧騒はない。直ぐに引っ込んだから、何が起こったのか気付かなかったのだろう。だから、目途がついている方から、こちらの様子を窺う者が居ることは直ぐにわかった。茶髪の印象の薄い顔に、体は黒いローブで覆い隠しているそいつは、なんとなく、いつでもナイフを投げることができるような体勢を取っているように見えなくもない。お前だな、と駆け出す。そいつは俺に気付かれたことを察して直ぐ逃げようとしたが、残念。今の俺のAGIの本気はそいつの逃走を許さず、瞬く間に距離を詰めた。周囲の人の迷惑になるといけないので、そいつの首を掴んで近くの建物の屋根の上に飛び乗る。
……さあ、邪魔の入らないところで話し合おうか。




