サイド カレリナ・アーシャル 1
私の名は「カレリナ・アーシャル」。エリアスト王国の貴族家――アーシャル侯爵家の一人娘である。侯爵家と言えば聞こえが良く、数多の貴族家の中でも権威は上から、王家、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家、と上から数えた方が早く、かなりの力を有しているのは間違いない。また、貴族家は下にいくほど数が多くなり、エリアスト王国の侯爵家は片手で数えられる五家しかないのだから、その力は考えている以上のものがあるのは確かである。ただ、アーシャル侯爵家には同じ侯爵家の中に敵対している家があった。
アーシャル侯爵家とジション侯爵家。
この二つの侯爵家は同じ侯爵であろうとも決定的な違いがあった。その違いとは、アーシャル侯爵家は民衆と手を取り合うことは必要で、性格含めて優秀な者は貴族でなくとも登用すべきだと考えているのに対して、ジション侯爵家は民衆を貴族の下に置き、民衆は貴族が従えてこそ活かされると貴族至上主義と言ってもいい考えを持っていることである。
それでも、これまでに表立った武力衝突は一度もない。それは最終手段というのもあるが、そもそもどちらもエリアスト王国の貴族家なのだ。エリアスト王国の繁栄が第一であることだけは共通している。それでも裏ではこれまでに何度も小競り合いはあった。私が生まれる前からの話もあって、裏で勝ち負けを繰り返している対立はかなり根深く、貴族家の中でも仲が悪いことで有名となるくらい仲が悪い。
そして、現在。アーシャル侯爵家は少し前にジション侯爵家との政争に大きく負けて、貴族家として力を大きく落としていた。アーシャル侯爵家の現当主である父さまは「無関係と思うような人を何人か間に挟んで嵌められた。見抜けなかった私のミスだ。済まない」と嘆いた後、どうにか挽回しようと奮戦している。ただ、状況は芳しくなかった。何故なら、アーシャル侯爵家とジション侯爵家を除いた残る三家の侯爵家の内、一家はこちらに付いてくれたが、二家がジション侯爵家側に付いて、アーシャル侯爵家が力を取り戻すのを防いでいるからである。数の力で負けていた。
これは下手をすればアーシャル侯爵家が潰れる。侯爵家が潰れるなど、国からすれば一大事だ。対立はしていても互いにそこまでではなかったはず。エリアスト王国第一であったはずなのに、国への影響を無視してここまでする理由はなんなのか。
――その答えは調べて直ぐに判明した。
ジション侯爵家には私と同じ歳の令嬢が居る。名は「ミネエリア・ジション」。真っ赤な長髪に、非常に整った顔立ち、均整の取れた体付きで、髪色に合わせた赤いドレスを好んで着ていて、その時の姿は「薔薇の令嬢」と呼ばれている。面識はあるが、仲は良くない。両家の関係そのまま敵対している。幼い頃からよく比べられてきた。
そして、重要なのは、エリアスト王国の王太子である第一王子は、私やミネエリア・ジションの二歳上。他国のすべてを把握した訳ではないが、王太子と歳が近い中で地位が最も高い女性は、私とミネエリア・ジションの二人だけ。つまり、私とミネエリア・ジションは、後の王太子妃、後の王妃に最も近い位置に居るのである。まあ、居るだけで確定ではなく候補でしかないが。それでも有力候補が二人居るのだから、相手を追い落とそうと行動を起こしてもおかしくない。それが、今回ジション侯爵家がアーシャル侯爵家を潰そうとしてきた答え。理由である。
ミネエリア・ジションが後の王太子妃、後の王妃となるために、最大のライバルである私を家共々潰しにきているのだ。それは今も続いている。どうやら、ジション侯爵家はエリアスト王立学園にも強い影響力を持っているようだ。
何故なら、私が授かったスキルは「天眼」。効果は、ありとあらゆるものを見抜く、とされていて、人や物の鑑定すら可能としている、視覚系スキルの中では上位に位置するスキルである。スキル自体はたとえ一般的に弱いとされるスキルであったとしても、強いとされているスキルを破ることもあるので、使い方次第な部分が大いにあるので、上位に位置したスキルを持っていたとしても、それがすべてという訳ではない。エリアスト王立学園側がどのように評価しているかは明らかにされていないが、それでも「天眼」の評価が低いということは考えられない。それなのに私がEクラス入りとなったのは……そういうことなのだろう。
……だが、私は諦めない。アーシャル侯爵家も諦めていない。ジション侯爵家がこちらを潰すつもりなら、こちらもジション侯爵家を潰すつもりで反撃する……予定だ。そちらは今のところ父さま任せである。私は私でできることをするつもりだ。まずは、Eクラスであろうとも、めげずにエリアスト王立学園内での立場を強くしていこうと思う。
――挫けそうになった。ミネエリア・ジションが先に手を回していて、私の味方となってくれる者は居なかったのだ。少なくとも、Eクラス以外では。頼れるのはEクラスのクラスメイトだけのようだが……自己紹介でそれぞれの名を覚えつつ、「天眼」で見ていくのだが、何故Eクラスに? と思うような者も居る中で、一人妙な者が居た。
……「(全)適応」とは一体?




