些細なきっかけで変わることだってある
わからないことはわからないと認めて、わかる人に聞けばいい。知りたいのに知らぬままにする方が、なんというか、こう……もやもや……むかむか………………アレだ。スッキリしない。落ち着かない。だから、知れる時に知っておくべきだ。なので、授業が終わり、サーフェ、ナリと久し振りに一緒に昼食を食べた後、職員室に行ってマウマウ先生に尋ねる。
「マウマウ先生。校内代表決定戦ってなんですか?」
「おや? 知らないのですか?」
「はい。知らないので聞きに来ました」
「校内の至るところに張り紙があったと……ああ、アルンくんはそれどころではありませんでしたね。周囲を見られるまでの余裕ができたのは最近でした。それなら、まあ、目に入らなくても仕方ありません。私から直接説明します。ああ、その席の先生は昼食で出かけているので、そこの椅子を持ってきて座ってください」
マウマウ先生の指定した椅子を持ってきて、それに座って大人しく説明を受け……なんかこの椅子というか、その椅子に置かれているクッションふかふかだな。なんというか、こう、意地でもお尻を守る、守ってみせるという強い意思を感じる。この椅子を使っている先生はお尻に何かあるのだろうか? ……座り心地がいいので考えることは止めた。今はマウマウ先生からの説明に集中しよう。
………………。
………………。
ふんふん。なるほど。マウマウ先生の説明によると、今月半ばに、学年別で、参加希望を出した生徒を対象とした、武闘大会のようなもの。武具あり、魔法あり、の基本なんでもあり。さすがにそのままだと死者が出かねないが、特殊な結界を張って致死性の高い攻撃はできなくなっているらしい。その特殊な結界の中で、まずは何組か大人数で分けて戦って数を絞り、その後はトーナメント戦が行われる。それが、校内代表決定戦だそうだ。学年別で上位五名が代表者として選出される。それがなんの代表者かというと、それより先の来月に、エリアスト王立学園と同じく各国の国立学園の代表者たちによって、「全学園対抗戦」という名の武闘大会が行われるので、その代表者ということだった。要は、これから大きな武闘大会が二回行われる、ということだ。一応、最終的に学園の威信とか、評価とか、色々関わってくるそうで、どこも本気で取り組んでいるらしい。
正直に言って、ふ~ん……そんなのが……みたいな感想しか出てこない。やる気はそもそもなく、湧いてもこない。興味もないので、頑張ってくれ、としか言えない。そんな俺の気分をマウマウ先生が察する。
「おや? アルンくんは興味ありませんか? 学年別で、エリアスト王立学園最強を決める戦いですよ」
「正直に言えばあんまりありません」
「そうですか。強制はしたくありませんし、アルンくんが参加しないというのなら、それは仕方ありませんね。非常に残念ですが」
「残念なんですか?」
「残念ですよ。アルンくんが出てくれたのなら、代表一名は決まったも同然なのですから」
「いやいや、さすがにそれは……」
Aクラスから選ばれるのが普通じゃないの? と思ったが、マウマウ先生はそれを見透かしたように笑みを浮かべる。
「考えていることはわかります。確かにこれまで通例であればAクラスから選ばれるでしょう。教育やスキルも含めて色々と優遇されていますからね。ですが、アルンくんは忘れていることがありますよ」
「……わかりません。なんですか?」
「三年生も含めて、学園のダンジョンの地下40階まで行ける生徒はアルンくんの他に居ません。いえ、そもそもそこまで行ける者は大人も含めて限られています。『星の輝き』くらいでないと安心して向かわせることができないくらいなんですよ。アルンくんなら余裕で一番になると思いますが、出てみませんか?」
「……その心は?」
「Eクラスの評価向上。何より、担任である私の評価が特大向上します」
だから、出ましょう、とグッ! と親指を立てるマウマウ先生。それで出ると言うとでも思ったのだろうか?
「評価は自分で上げてください。色々教えてくれてありがとうございました」
お礼の一礼をして、椅子を元の位置に戻してから、職員室を出ていく。
「いつでも参加はお待ちしていますよ、アルンくん」
気にした様子もなく、マウマウ先生がそう口にしたのが聞こえた。なんというか、俺が学年別代表決定戦に出て勝ち残るのがわかっているかのように……。
―――
学園のダンジョンには寄らず、家に帰る。その帰り道、ふと思う。いや、気付く、だろうか。学年別代表決定戦で一番になれば、妹からすれば自慢の兄で先輩にならないだろうか? いや、なる。私のお兄ちゃん、こんなに強いんだぞ! と。自慢だぞ! と。尊敬だぞ! と。最高なんだぞ! と。……うん。なる。いや、なるだろうか? 先に妹に確認してからでも遅くない。
という訳で、家に帰ってから、妹に学年別代表決定戦があることを話してみると――。
「ふ~ん。そんなのあるんだ。出るの? お兄ちゃんなら一番になれる? なったら自慢できるね。私も自慢しちゃうかも」
やる気が満ち溢れたので、参加することにした。




