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嬉しい時だって、泣いて笑う

 揃った。遂に揃ったのだ。妹の「魔障」を治すための治療薬に必要な素材が。普通のミノタウロスを「アイテムボックス」で回収してから、うおー! と両手を上げる。……さあ、帰るか。おっちゃんに渡して治療薬を作ってもらわないといけない。……あれ? 多分だけど、今はど深夜だ。おっちゃん起きているだろうか? というか、そもそもこんなど深夜の時間で学園のダンジョンから外に出ていいのだろうか? しまった。その辺りを聞いていない。マウマウ先生が居る時に教えてもらっておけば良かった。……いや、待てよ。上手くやれば面倒なく出られるかもしれない。思い付けば実行だ。まず、『簡易版魔力補充式転移魔石』を使って地下40階の転移魔法陣がある部屋へ飛ぶ。


     ―――


 地下40階


『簡易版魔力補充式転移魔石』が再度使えるようになるまで待ってから、転移魔法陣で地上へ。


     ―――


 地上


 転移魔法陣がある部屋から外には出ない。部屋の外には兵士二人が居るので、見られないような位置に移動してから『簡易版魔力補充式転移魔石』を使って、エリアスト王立学園の外へ。真っ暗過ぎて思わず驚きの声が漏れ出るところだった。というか予想通りど深夜のようだ。確認すると、太陽はまだ出ていないが、それでも月はもう沈みそうである。多分、きちんと飛んだのならエリアスト王立学園の門近くのはず。真っ暗で何も見えないが、夜空との境目として薄っすらを見える建物の輪郭で判断するのなら……間違いない、と思う。確証が持てない。移動したいが、足下も見えない真っ暗なので、前に進んでいると思ったら後ろでした、なんてこともあり得る。どうしたら……あっ、「自動地図化(オートマッピング)」で位置確認しながら進めばいいのか。


 少し遠回りになるが、しっかりと位置確認するために大通りまで出る。大通りには等間隔でそこまで明るくはないが街灯があるので、それを頼りに進めるところまで進む。時間的に誰も見かけない。俺はこの世界に一人だけなのか……いや、そんなことはない……きっと誰か……警備とか……お~い! 誰か居ないのか! お~い! ……くそっ。反応がない。もう誰も……いや、待て。今、そこで何か動いて……誰かそこに! お~い! そこに誰か――違う! 人じゃない! ゾンビだ! 見つかった! やるしかない! なんてことを、大通りを進んでいる内に考えてしまった。きっと地下36階と37階のせいだろう。思い出すと臭いも思い出しそうなので思い出さない。しかし、本当に誰も居ない。皆寝ているだろう。警備も他所に行って……そうか。そうだよな。やっぱ時間的に寝ているよな。おっちゃんも寝ているだろう。その時は……その時だ。おっちゃんを起こすなり、翌朝まで待つなり、その時考えよう。


 そう結論を出して大通りを進み、途中で何度か曲がって進み――家に辿り着く。帰ってきた。俺は帰ってきたぞ。おっちゃんの家。玄関――は当然防犯として施錠されているので、鍵を開けて中に入る。リビングから光が漏れ出ていた。誰か起きているのか? と思っていると、おっちゃんがリビングから出てくる。


「おかえり。アルン」


「あ、ただいま……いや、え? おっちゃん? なんでおっちゃん? 寝てない? 起きていたのか?」


「ああ、なんだろうな。不思議なんだが、眠くならなくて起きていた方がいい気がしたんだ。それで、こんな時間に帰ってきた訳だし、アルンの様子を見る限りだと、何かしら成果があるってことか?」


「ああ、両方手に入れた」


「両方? そうか、両方………………え? 両方? つまり、ハイ・オーガとミノタウロスを?」


「そう! これで揃ったんだ!」


「「う、おんん………………」」


 互いに叫びそうになって自ら口を押えて我慢する。妹は寝ているだろうから、起こす訳にはいかないからだ。まだ。


「これで必要な素材は揃った。作れるんだな? 治療薬が!」


「ああ、そうか、俺が起きていたのはこのためか! 良し! 魔蜂のハチミツも残しているし、これで作れる! 今から作る! アルン、手伝いが必要だ! 上級回復薬を作れる腕前があるのなら十分! 手伝うか?」


「ああ、もちろんだ!」


 おっちゃんと共に錬金工房へ行く。「アイテムボックス」からハイ・オーガとミノタウロスを出し、おっちゃんと共に解体。必要な素材を取り出して、魔蜂のハチミツを用意してもらい、指示に従って魔障治療薬を作っていく。あくまで、メインはおっちゃん。俺は補佐。作り方知らないからね。ただ、指示されたことはしっかりと手を抜かずに行い……。


「……できた」


 満足げな表情を浮かべたおっちゃんの手には、琥珀色の液体が入った瓶が握られていた。


「それが」


「ああ、これでイシスは治る」


 おっちゃんと顔を合わせて互いに笑みを浮かべる。そして、魔障治療薬ができたのなら、後は飲ませるだけ。おっちゃんと共に妹の部屋へと向かう。移動が忙しかったせいか、部屋に入ると妹は起きていた。


「……どうしたの? 二人、揃って」


 妹の声は少し弱々しい。


「イシス、薬ができたんだ! これでもう大丈夫だ!」


「……え? 私、助かる、の?」


 妹の目から涙が流れる。泣くのはまだ早い。治ってからでいいんだ。おっちゃんに早く飲ませて、と急かすと「アルンが飲ませるといい」とおっちゃんが魔障治療薬を渡してきたので受け取り、支えながら妹の身を起こして、焦らずゆっくりと魔障治療薬を飲ませる。飲み切ると、妹は小さく一息吐く。


「……体の中にあった、重しみたいなのが、なくなった気がする……ありがとう。お兄ちゃん」


「いいんだよ。イシスが治った。それがすべてだ。一番嬉しい」


「おっちゃんも、ありがとう」


「気にしなくていい。アルンの言う通りだ。イシスが治って良かった。本当に」


 俺含めて、妹もおっちゃんも泣きながら笑った。

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― 新着の感想 ―
イシスちゃんが良くなってよかったー これでイシスちゃんも参戦できますね! アルンに甘えて全適応さんが嫉妬するんですね! なお、マウマウ先生では嫉妬は引き出せない様子です!
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