サイド 噂
マウマウがいつもの部屋へと戻ると、学園長と「星の輝き」の他に、白髪交じりの水色の髪に、眼鏡をかけた、細身の五十代くらいの男性――ニスター宰相が待っていた。ニスター宰相を見て、マウマウは微笑みを浮かべる。
「呼ばずとも来るとは、さすがニスター宰相ですね」
誉め言葉である。
「偶々ですよ」
ニスター宰相もそれは理解しているので、さすがと言われるほどのことではありません、とでも言うように一礼した。マウマウがソファに腰を下ろすと、室内にノック音が響く。
「どうぞ」
マウマウが声をかけると扉が開き、白髪のオールバックが似合う高年の執事が入り、続いてムノラルド王が入ってきた。高年の執事は扉を閉めて待機。ムノラルド王はマウマウの対面にあるソファに座ろうとして、まずニスター宰相が居ることに気付いて半目を向ける。
「……何故ここに居るかは問わないが、もし先んじて来たのであれば、その前に私を起こしに来るのが道理ではないか?」
「既にマウマウさまが向かった後でしたので、どうしようもなかったのです」
「怪しい……つまり、マウマウに叩き起こされてしまえばいい、と少しでも思わなかったということだな?」
「………………まあ、大きくは思わなかったのは事実です」
「そうか……いや、今の言い回しだと少なからずは思ったということだよな?」
「ははは」
正直に答える気はなさそうなので諦めて、ムノラルド王はソファに座った。マウマウの方を見て、次いで学園長と「星の輝き」を見る。
「学園長が居るということは学園関係……そちらは王都所属のランク『A』冒険者『星の輝き』だな? ……学園のダンジョンでまた何か起こったか?」
質問の答えを口にするのはマウマウだろう、とムノラルド王は視線を向ける。だから、学園長はともかく、「星の輝き」はムノラルド王が自分たちのことを知っている、と驚きと嬉しさで少しニヨニヨとだらしい表情を浮かべているのを見られることはなかった。
「確かにダンジョンで発覚したことですが、他の場所にも関わることです」
「他にもか……聞かせて欲しい」
マウマウがアルンから聞いた現状について話し始める。その内容を知らないムノラルド王とニスター宰相、学園長は余すところがないようにしっかりと話を聞く。「星の輝き」はマウマウの助手として動き、マウマウが自前のマジックバッグから出した武装したゾンビやミイラを並べたり検分したり、ランク「A」冒険者としての所見を述べたりといった行動を取る。
………………。
………………。
「――ということのようです」
マウマウからの話を聞き終えたムノラルド王は、一度大きく息を吐く。
「はぁ~……なるほどな。納得だ。ミノタウロス素材をゴルブルワ帝国が法外な値段で強気に売り付けてきている理由がよくわかった。この国からミノタウロスを見なくなっていたのはそういうことか。残党如きがよくやったものだ。いや、裏に勇者派だったか? が居るからか。ともかく、これからミノタウロスがまた出てくるようになった、ということでいいのか?」
「ええ。ただし、それは学園にあるダンジョンの中では、です。他のところはこれから調査して、おそらく同じ魔法陣と祭壇があるでしょうから、それを見つけて破壊しなければなりません。ただ、学園のダンジョンの中にあったのと同じであれば罠がありますので、相応の力を持っていないと返り討ちに遭います。見つけるところからですし、調査には少なからず事情を知っている者を向かわせる必要があると思います」
マウマウの言葉を聞いて、ムノラルド王の視線が「星の輝き」に向く。
「それを彼らに任せるつもりか?」
「ええ」
マウマウが頷き、「星の輝き」がぎょっとした。リーダーのマックスが尋ねる。
「マウマウ先生。俺たちが行くとか初めて聞いたんですけど?」
「ええ。今初めて言いましたから。ですが、適任です。あなたたちなら安心して任せられます」
「それは光栄ですが、ミノタウロスが出てくるようになったのなら、ウルケストからお願いされた分を確保したいのですが」
「それは大丈夫です。アルンくんが手に入れてくれますよ」
「ああ、確かに。彼ならミノタウロスを見つけられさえすれば余裕ですね」
リーダーのマックスを含めて「星の輝き」が確かにと頷いたところで、ムノラルド王が口を開く。
「待ってくれ。ミノタウロスが出てくるのは、確か地下31階以降であったな? 件のアルン少年はもうそこまで行っているのか? 一年生だろう?」
「もうそこまでですよ、ムノラルド。アルンくんは規格外です」
マウマウが断言した。本当に? とムノラルド王は「星の輝き」を見て、力強い頷きが返ってくる。そこまでなのか、とムノラルド王は唸る。
「むぅ。こちらで治療薬を用意しようと思っていたが、その時にはミノタウロスが手に入らなくなってどうしようかと悩んでいたところで、まさか既に自力で解決するだけの力を有しているとは……。アルン少年にそのつもりはなくとも、ここまでのことをやってくれたのだ。何かしらの褒賞を考えねばな。なあ、ニスター」
「そうですね。大きな借りができています」
ニスター宰相は間違いなくと頷く。ただ、マウマウは内心で(……今まで話しただけではなく、『簡易版魔力補充式転移魔石』についてもあるのですが、それは後で内密に話さなければいけませんね)と思う。そうして、この後はエリアスト王国内のミノタウロスが出る場を調査して儀式魔法の破壊、合わせてゴルブルワ帝国から来ている冒険者の調査、それとミノタウロス素材を高く売り付けようとしているゴルブルワ帝国に対して買い付けを拒否するのと、手出しをするつもりはないがゴルブルワ帝国の内情調査など、今後の行動について打ち合わせを行い――最後に、ムノラルド王が一つ付け加えた。
「……しかし、裏で勇者派というのができたか。あの噂に真実味が増すな」
「噂とは?」
思い当たることがなくマウマウが尋ねる。ムノラルド王は神妙な表情を浮かべた。
「……『魔障』をばら撒いた『災厄撒布』がエリアスト王国に来たのは、ゴルブルワ帝国の依頼を受けた勇者がそうなるように誘導したから、というものだ」
噂の内容を知っていたニスター宰相を除いた全員が、何とも言えない表情を浮かべる。




