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 エリアスト王国。王都。貴族街。王城よりもエリアスト王立学園がある方に近い大きな家。その家の主は、白髪で立派な白髭の高齢男性である学園長である。既に時間は真夜中である。学園長は寝室のベッドの中に入って就寝していた。穏やかに眠っているが、そこに声がかけられる。


「起きなさい。学園長」


 寝室内の変化を感じ取り、学園長は身を起こす。不意に室内に現れた隠す気がない気配を感じ取って視線を向ける。カーテンの隙間から差し込む月の光で照らされたのは、寝室のドア前に立つマウマウだった。学園長はマウマウを見て一つ頷く。


「……なるほど。ここは私の寝室。マウマウ先生が現れるはずがありません。よって、夢。これは、夢。マウマウ先生の夢を見るとは、この年になっても溜まって……いや、マウマウ先生を相手にそれはあり得ませんね」


 ないない、と首を横に振り、学園長は再びベッドの中へと戻っていく。暗がりでわかりづらいが、マウマウのこめかみに青筋が浮かんだ。マウマウは音も立てずにベッドへと近付き、身の丈以上の杖を振り上げて、振り下ろす。


「闘気っ!」


 そう口にするのに合わせて、学園長がベッドの上を転がる。振り下ろされた身の丈以上の杖がベッドをバシンと強く叩く。学園長はかわしたが、マウマウの身の丈以上の杖をかわすのに大きく転がったため、ベッドから落ちる。


「痛っ! イタタタタ……え? 痛い? もしかして夢ではない? あっ、マウマウ先生」


 落ちたベッドの側から顔を出して、学園長がマウマウを認識する。そして、学園長は寝起きながら頭を高速回転させて口を開く。


「どうしてここにマウマウ先生が……もしかして夜這いですか?」


「いくら学園長といえどもぶち殺しますよ。早くシャキッとしてください。行きますよ」


「いく? イ……うぅん。失礼しました。漸く頭も目覚めたようです。それで、どこに行くというのでしょうか?」


「王城です。詳しい話はそこでします。学園長を連れて行くのは辻褄合わせもありますが、学園のダンジョンのことですし、関係者だからというのもあります」


「わかりました。緊急性が高そうですね。直ぐに着替えてきます」


「お願いします。では、私は外で待っていますので」


 寝室から出て行こうとするマウマウに、学園長は一つの疑問を口にする。


「……マウマウ先生。一応、ここは私の家ですし、防犯対策もしっかりと施しているのですが、どうやってここまで?」


「ふふふ。私から見れば、この家の防犯対策はまだまだ甘いですよ、学園長。もう少し感知精度を上げるか、仕掛ける場所を考えないといけませんよ。それでは急いでください」


 マウマウが寝室から出て行く。やれやれ、この先生には勝てません、と学園長は肩をすくめた後、身支度を始める。


     ―――


 身支度を整えて、何かを感じ取ったようで起きてきた執事とメイド長に「大丈夫。問題ありません」と返した学園長が家の外に出ると、門の向こうにマウマウだけではない複数人の気配を感じ取る。どうやら同行者が居るらしい、と学園長が門から外に出ると、そこに居たのは見知った顔だった。


「おや、誰が居るかと思えば『星の輝き(スターライト)』でしたか」


「お久し振りです、学園長。私たちのことを知っていたとは驚きです」


「もちろん知っていますよ。元生徒ですし、それでなくとも有名なランク『A』冒険者なのですから」


「学園長の耳にまで届いていて嬉しいです」


「はいはい。それ以上は後でもできます。先を急ぎますよ」


 学園長とリーダーのマックスの会話をマウマウがぶった切り、先に進むことを促して、自ら先頭に立って王城へと向かう。マウマウだけに許された手段で裏門から王城へと入り、手入れの行き届いたいつもの部屋へと入る。


「……では、時間も時間です。私が起こして来ますので、あなたたちはここで待っていなさい」


 学園長と「星の輝き(スターライト)」を部屋に残して、マウマウは単独で王城内を進んでいく。その足取りに迷いはない。勝手知ったる王城である。


     ―――


 王城。その主である王が就寝する寝室。輝く金髪に、鍛えられた体躯を持つ四十代ほどの男性――エリアスト王国の王であるムノラルド王が、値がかかっていそうな装飾が施された天蓋付きベッドの中で穏やかに眠っていた。そこに声がかけられる。


「起きなさい、ムノラルド」


 寝室内の変化を感じ取――ったかどうかはわからないが、ムノラルド王が寝返りを打って口を開く。


「……何? お祖母ちゃん」


「誰が――おばあちゃん、ですか!」


 マウマウが一瞬で距離を詰めて、身の丈以上の杖を振り上げて振り下ろす。


「殺気っ!」


 ムノラルド王は目を見開き、逃れるように体を回転させて――天蓋付きベッドから勢い良く落ちた。バシン、と天蓋付きベッドを叩く音が響く。「う、おお……」と腰を押さえつつ、ムノラルド王は落ちた天蓋付きベッドの側から顔を出して、マウマウの姿を確認する。


「……え? あれ? ここは私の寝室で……どうしてマウマウが?」


「起きましたね、ムノラルド。緊急の報告です。着替えていつもの部屋に来なさい」


 伝えるべきことを伝えて、マウマウは王の寝室から出て行こうとする。その後ろ姿を見ながら、ムノラルド王が(……祖母がマウマウの姉なのだから、マウマウを祖母と認識してもおかしくないような)と思ったところで、マウマウがピタッと足を止めてムノラルド王を睨む。


「――はっ! 急いで身支度を整えて向かいます!」


 直立不動で立ち上がったムノラルド王を見て、マウマウは満足したように一つ頷いた後、王の寝室から出て行く。ムノラルド王は大きく息を吐いてから身支度を始めた。

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