既に対抗手段がある時だってある
俺は盾を持つミイラを倒したが、マウマウ先生と「星の輝き」はまだ戦っている。マウマウ先生が「できるだけ形を残すように倒してください」と言ったので、その通りにするために気を付けながら戦っているからだ。あと、武装したゾンビとミイラは「星の輝き」が以前見かけたパーティだというし、ここまで来れるのならそれ相応の強さを持っていたということである。ゾンビとミイラだから生前の強さそのままかどうかはわからないが、まあそこそこ強いということだ。負けることはなさそうだが、少し時間がかかるかもしれない。つまり、正直に言えば暇だ。見ているだけでいいのだろうか? 手伝った方がいい? 邪魔になるかな? ……応援くらいはしておく? 応援されるとなんか頑張れるし、いい案かもしれない。いや、待てよ。よくよく考えてみれば、最終目的は武装したゾンビとミイラを倒すことではなくて、祭壇を壊すことだ。そして、今そのための道は俺の前に開けていて、邪魔する存在は居ない。……今、行っちゃいけないかな? 他はまだ戦っているけれど……さすがに空気を読んでいない行動だろうか?
《――「現状」に適応しました――》
ナイスタイミング! なんか「現状」に適応って久々だな。さすが「全適応」さん。教えてください。
《――かしこまりました。まず、魔法陣、贄、祭壇に関しては、合法ロ……そこのエルフが考察した通りで間違いありません。贄については「死鉄」という名のゴルブルワ帝国所属の冒険者ランク「B」のパーティです――》
え? いや、贄というか、合法……うん。まあ、いいや。続きをお願いします。
《――はい。「死鉄」がここに居る表向きの理由は魔障治療薬に必要な素材集めの協力という冒険者ギルド経由の依頼ですが、実際はその逆――素材集めを阻むことが目的でした。というのも、「死鉄」は冒険者ではない裏の顔があり、それはゴルブルワ帝国の秘密工作部隊に所属しているというものです。秘密ということで冒険者ギルドはこれに関与していません。ちなみに、証明として身に付けている鎧や衣服の裏にゴルブルワ帝国の紋章が刻まれている、あるいは縫われていますので、それでゴルブルワ帝国所属であることは確認できます》
相変わらず、「全適応」さんが現状に適応すれば秘密は秘密ではないようだ。
《――そんな秘密工作部隊を使って今回の件を行ったのは、ゴルブルワ帝国の戦争強硬派の残党です。目的は政権最大派閥に返り咲くための資金集めのためですが、以前の「魔淫香」関連の意趣返しも兼ねて、エリアスト王国を対象に仕掛けた企みでした。内容としては「魔障」を治療するための魔障治療薬を作るためには特定の素材がいくつか必要ですが、その特定の素材の一つをエリアスト王国内で手に入らなくする、あるいは数が揃えられないようにして、その足りない特定の素材を通常よりかなりの高額で売りつけて荒稼ぎするといったものでした。それでミノタウロス素材が選ばれたのは、特定の素材の中でも希少で限られた少ない場所でしか出現しないからです。ですが、相手はミノタウロス。魔物を強さで区分した場合、それなりに上……いえ、中の上に入るかどうかといったところですが、戦争強硬派の残党にミノタウロスをどうこうできる戦力は残っていません。この戦争強硬派の残党の企みの裏には、「勇者」スキル持ちを旗頭にした、ゴルブルワ帝国の新しい強硬派である「勇者派」が協力しています。勇者派としては、今回の件で成功すれば残党は多少使える手駒、失敗すれば要らない駒と見定めるつもりのようです――》
なるほど。またゴルブルワ帝国のが仕掛けてきたのか。しかも残党とか……前回で懲りていれば良かったのに。しかし、勇者派ね。そう言われてもよくわからない。一応、このことはマウマウ先生に後で伝えて、学園長経由でお城の方に伝えてもらうとして……何か他に伝えておいた方がいいことってある?
《――そうですね。ここの他にエリアスト王国内のミノタウロスが出る場所にも似たようなものがありますので対処した方がいいでしょう。ただ、戦争強硬派の残党については今回の企みがこれで失敗になりますので向こうで勝手に自滅しますが、今回の企みに勇者派が関わっている証拠は消されてありません……正確には、この場で手に入るものの中にはありませんので追及は難しいです。ですので、今はそういう存在が居ることだけを認識して、下手に手は出さない方がいいかもしれません――》
手が出せないのは残念だ。このこともしっかりと伝えておかないとな、と思っていると、マウマウ先生が魔法合戦に勝って杖を持つゾンビを倒し、「星の輝き」が剣を持つミイラと双剣を持つゾンビを数の有利を活かしてしっかりと倒した。となると、後は祭壇――。
《――あっ、補足情報を伝え忘れていました。罠は二段構えに仕掛けられています。つまり、もう一つあります――》
うん。それは早く言って欲しかったな。どうりで「罠感知」がまだ感知している訳だ。俺がそのことを伝える前に事態は動き出す。武装したゾンビやミイラの体から半透明の球が出てきて、祭壇の上に集まり、混ざり合って、人の形を成す。それはすべてが半透明で、俺の倍は大きく、顔は髑髏、体はローブのようなものを纏い、足下は見えず、手には長くて大きな鎌を持ち、見た感じ只者ではない雰囲気を発している……と思う。
「レヒヒヒヒヒ」
喋った! 笑った! なんかムカつく髑髏だ!
「鎌持ちのレイス――死を招く幽霊『デスレイス』だ! 幽霊系魔物の上位クラス! 魔法主体に切り替えるぞ!」
リーダーのマックスさんが大声を上げると「星の輝き」が即座に後衛の魔法職の二人を前衛三人が絶対に守ると宣言するような陣形を組む。おお、熟練の動きだ。あと、デスレイス? だったか、「星の輝き」の表情を見るに、相当ヤバい魔物なのかもしれない。
「アルンくん! アレは幽体で物理は効きません! 魔法でないと駄目です! 一旦『星の輝き』と合流しますよ!」
マウマウ先生が「星の輝き」の方に向かいながら、俺に警戒を促して合流するように言ってくる――が、幽体? なら、問題ない。俺はデスレイスに向かっていき――。
「レヒヒヒぶべぅっ!」
ムカついた髑髏だったので、その頬をビンタした。え? 今叩かれた? なんで? とデスレイスは叩かれた頬に手を当てて俺を見る。マウマウ先生と「星の輝き」は信じられないものを見たかのような表情を浮かべていた。
「俺、スキルで『幽体攻撃』があるから」
反撃はさせない、とデスレイスに飛びかかった。
ボコした。




