何事も経験です。だから、これも経験です
地下36階へと下りるのは、俺とマウマウ先生だけ。「星の輝き」は地下31階から34階を回って、ミノタウロスが居ないかどうかを確認するそうだ。別行動だが、夜に地下35階の拠点で合流して報告し合うことになっている。手は広い方がいい。どちらでも見つかるのが最良だな、と思う。
そして、マウマウ先生と朝食――「アイテムボックス」から出した――を済ませた後、共に地下36階へと下りる。
―――
地下36階
続いて神殿内だった。おっと、これまでと少し違うな、と思う。これまでは10階分毎に環境が変わっていたのに、ここは草原から神殿の中へと変わった。不思議に思ったのでマウマウ先生に尋ねる。
「ああ、ここはそういう感じなのです。ここからは大体5階毎に環境が変化します」
そういう仕様、ということか。だから、だろう。地下35階の時には思わなかったが、地下36階に下りてから何か違和感を抱いて気付いた。地下20階以降の神殿内と、今居る神殿内は違うということに。雰囲気もどこか禍々しく、神殿内の壁や柱に施されている装飾も、なんというか邪悪な感じだ。心なしか空気も重い気がする。その理由は直ぐにわかった。進もうとしている通路の先に魔物が複数居るのだが――。
「……ゾンビ、ですか?」
「ええ、ゾンビです」
「……あと、ミイラも居ますよね?」
「ええ、居ます」
「だから、空気が重いというか、臭いというか」
「腐敗臭ですね。ああ、私のことはお気になさらず。魔法で防いでいますので」
「え? その魔法、俺にもかけてくれませんか?」
「アルンくん。最初から楽はいけません。こういう臭いもあるのだと、少しは慣れておかないと、いざという時に戸惑いが生まれ、それが隙となり、致命的なミスを引き起こすかもしれないのです」
「なるほど。言いたいことはわかります。……あれ? もしかして、俺が戦うんですか?」
「何事も経験です」
「……マウマウ先生。俺の武器はこの肉体です。つまり、殴る。蹴る。直接接触するんですけど?」
「大丈夫です。アルンくんならできます。やれます。倒せます。頑張ってください。期待しています」
「いや、倒せる倒せないではなく、いや、倒せますけど、そもそもがアレらに直接触れるのは嫌なんですけど………………リーダーとしての権利を行使します。マウマウ先生、魔法で葬ってください」
「生徒を導く教職員として拒否します。大丈夫です。今日の終わりには臭い消しの魔法を使ってあげますので」
マウマウ先生が笑顔の圧をかけてくる。……まあ、ソロだったとしても来ていたし、戦っていただろうから、やることは何も変わらない。気分的な問題だ。いや、臭い的な問題か? でも、後でマウマウ先生が臭いは消してくれるようだし、ソロで来た場合よりもマシなのは確かだ。……とりあえず、手は素手なので、靴を履いている足の方でどうにかしよう。
通路を一気に駆けて、複数のゾンビとミイラとの距離を縮めていく。近付けば近付くだけ腐敗臭が強くなってきつい。我慢。我慢。……本当に臭い取れるのだろうか? 少しばかり不安を抱きつつも、駆けた勢いそのままに手前に居るミイラを蹴り飛ばす。通路の先の壁に衝突するまで飛んでいった。それで複数のゾンビとミイラが襲いかかってくるが……その動きは遅い。ゾンビとミイラだからか? 地下36階の魔物なのに強いとは思わないが、視界の先で蹴り飛ばしたミイラが緩慢な動きで動き出したのが見えた。なるほど。しぶといようだ。襲いかかってくる複数のゾンビとミイラを何度か蹴り飛ばす。ただ、少しでも触れたくないので、速度重視で威力は弱め。ゾンビとミイラのしぶとさも相まって、中々倒すことができない。ひぃ。靴跡がくっきり残るくらい強く蹴り過ぎてしまった。臭いが付いてしまう。
「マウマウ先生! 魔法で援護! というか仕留めてください!」
「アルンくんはレアボスであるクリスタルゴーレムを倒しました。その力であれば余裕で倒せます。よって、私の魔法は必要ないと思いますが? 頑張ってください」
手を貸してくれる気はないようだ。もちろん、マウマウ先生の言う通りだということもわかる。何度か蹴ったことでわかったというか、今の俺であればゾンビやミイラを相手に攻撃した部分だけを消し飛ばすような威力の攻撃を出せると思う。でも触れるのは……待てよ。それだけの威力の攻撃を出せるのであれば、その際に発生する風圧とかで、こう、衝撃波みたいなので消し飛ばせないだろうか? 上手く攻撃に転化できれば、それで触れなくて済むようになるのだから、試してみる価値はある。先ほどまでと同じようにゾンビとミイラを蹴り飛ばしていくが、攻撃の際に風圧というか衝撃波を意識しておく。こうか? こうかな? 何度か試すが……風圧は攻撃速度でどうにか出せるが、衝撃波は……上手く出ないな。それでも何度か続けていると、ミイラを蹴り飛ばした際に、その奥の壁に亀裂が入った。ん? 何か今手応えが。
《――100%。「風圧」に適応しました。得られた経験により、スキル「風刃」を獲得しました――》
適応したので使い方はわかる。意識的に使うようで、手足を振った際にその延長線上に風の刃を放てるようだ。つまり、俺は遠距離攻撃手段を得たのである。それで複数のゾンビとミイラをスッパスッパ切りまくって倒した。……ふう。これならまだどうにかできる。
「なるほどです。何かに適応して風の刃が出せるようになった、といったところですか。一気に動きが変わりましたね。恐ろしいスキルです」
マウマウ先生が何やら感心したようにうんうんと頷く。
「ですが、これでこの先もアルンくんが先頭で戦っていけますね」
「……そうですね」
「では、先へと進みましょう。急がないと地下36階以降を回ってミノタウロスが居ないか確認できませんからね」
「はい」
先へと進む。




