実は自分もそっち側だったとは、自分では気付かないもの
おっちゃんに魔障治療薬の素材を依頼された頃は、冒険者パーティ「星の輝き」はエリアスト王国から同じ依頼を既に受けていたため、そちらを優先するしかなく、最近になって漸く手が空いたため、おっちゃんから改めて話を聞いて素材集めに手を貸してくれているそうだ。おっちゃんがそれを俺に教えなかったのは、確実、絶対ではないし、別で準備しているから大丈夫と勢いを落とす、あるいは気を抜かないようにとか、その辺りの理由だと思う。あっ、あと、俺がここまで一気にことを進めるとは思っていなかった、というのもありそうだ。まあ、何にしても、どっちが手に入れようが結果として妹が助かるのならどちらでもいいので、俺がそれで何かを思うことはない。妹が助かればいいのだ。それに、俺はエリアスト王立学園の一生徒でしかないが、「星の輝き」は全員冒険者ランク「A」。その上はランク「S」しかないという、上から数えた方が早いランク。マウマウ先生曰く、冒険者ランク「A」は一握りの天才でなければまずなれないランク、らしい。また、王都でも売れっ子で有名な冒険者パーティだそうだ。「星の輝き」の人たちの鼻が高くなった気がする。ついでに胸も張っていて……神官のリースアさんのが凄かったが、マウマウ先生の殺気が飛んで猫背になった。
「つまり、有名で凄い人たち、ということですね?」
俺の問いに「星の輝き」はうんうんと頷き、マウマウ先生が「その通りです」と答える。まさか、そんな有名人たちがおっちゃんと繋がっているとは……どうやって知り合ったのかと聞けば、おっちゃんとはエリアスト王立学園時代の同学年、同クラスで学生時代に仲良くなり、今でも続く友人関係だそうだ。なるほど。ついでに言うと、その時の担任がマウマウ先生であったため、マウマウ先生とも面識があるという訳だ。繋がるところは繋がっているんだな、と思う。ここで一つの疑問が過ぎった。
「……なら、ランク『S』はもっと凄いってことですか?」
「ええ、そうですね……ランク『S』は一握りの天才を超える化け物、と表現するのが正しいですかね」
あなたのような、ね――とマウマウ先生が俺を見てくる。いやいや、そこまででは、と思う。でも、「星の輝き」が同じような目をマウマウ先生に向けているので、そちらには納得である。ちなみに、「星の輝き」には、どうして地下35階にただの一生徒である俺がマウマウ先生と来ているのかは、マウマウ先生が「将来有望な生徒への社会見学、もといダンジョン見学です」と説明した。「スキルを説明する訳にもいきませんし、したとしても信じないでしょうしね」と、俺にだけこそっと伝えてくる。ただ、マウマウ先生が俺のことをそう説明した後、何故か「星の輝き」の俺を見る目はマウマウ先生を見る目と似たものになった。いや、本当に何故に?
ともかく、簡単な自己紹介が終わった後、マウマウ先生が尋ねる。
「それで、ミノタウロスはもう倒して素材は手にしたのですか?」
その声には、もしそうならこれで魔障治療薬に必要な素材が揃う、と少し期待が込められていた。けれど、「星の輝き」は揃って申し訳なさそうな表情を浮かべて首を横に振る。入ってきた時にそんな話をしていたのを聞いたので、俺は驚かない。でも、マウマウ先生は少し驚きを見せる。
「え? どういうことですか? あなたたちならミノタウロスくらいは敵ではないと思いますが?」
「確かに、ミノタウロスは敵ではありません。余裕をもって倒します。ですが、それは戦いになればこそ、です。そもそも見つからなければ倒しようもありません」
「星の輝き」のリーダーである重戦士のマックスさんの言葉にマウマウ先生は首を傾げるが、次の瞬間には大きく目を見開いた。
「まさか、ミノタウロスが見つかっていない? 一体も?」
「はい。俺たちは地下36階から39階まで一通り回り、いつもなら数体は見つけられるのに、今回は一体も見つけられていないのです。これは明らかに異常事態です」
「まさか、と思いますが、ミノタウロスが居ないとあなたたちが嘘を吐く理由はありませんし……何故そんなことになっているのか心当たりはありますか?」
重戦士のマックスさんが仲間たちと顔を見合わせた後、口を開く。
「……実は、依頼の素材を納品しに行くために一度ダンジョンを出る前に、怪しいパーティを見かけたのです。なんと言えばいいか、初見だったので確実とは言えませんが、感覚的にこの国の者ではない、と思いました。ただ、本当にそいつらのせいなのか、もしそうでも何をしたのかはわかりません。改めてダンジョンに入ってからは見かけていませんし、もうダンジョンから出たと思いますので確かめようがありません。でも、ここまで来れる者たちは全員顔見知りですし、何か原因があるのなら、そいつらしか考えられなくて……」
「なるほどです」
そう答えた後、マウマウ先生は目を閉じて何かを考え始める。邪魔しないように、俺と「星の輝き」は黙った。黙ったまま、おっちゃんの友人だそうで、と俺は「星の輝き」に向けてペコペコと頭を下げ、「星の輝き」からは、俺のことは聞いている、とペコペコと頭を下げてきた。そうしている間に、マウマウ先生は考えを終えたようだ。
「……わかりました。まずは本当に居ないのか、確かめに行きます。行きますよ、アルンくん」
「あっ、はい」
どうやら、地下36階以降に行くようだ。




