声を出すよりも先に体が動くこともある
地下32階。
ここも変わらず夜の草原。早く朝にならないかな? まだまだ時間がかかりそうだけど……そもそもここで朝日って昇るのだろうか? 仮に昇ったとして……どの階でも昇るのだろうか? それとも別々? ………………そこまで考えたけど、そこまで興味がなかったので考えるのを止めた。ただ、マウマウ先生の後を付いていくだけだと、色々と考えてしまう。他にやることがないのだ。何しろ、マウマウ先生は案内だけではなく、こちらに近付いてくる魔物も魔法を放って倒しているからだ。本当にやることがない。離されないように付いていくだけ。
だから、話題が欲しくて、地下31階以降の魔物の素材ともなると高価なのでは? 放置でいいんですか? と尋ねると――。
「時間ももったいないですし、優先はミノタウロスです。それ以外は構わなくて構いません。それに、アルンくんの感謝の印であるクリスタルゴーレムの素材の方が圧倒的に高価ですから、それに比べればはした金ですよ。はした金」
これは遠回しにまた欲しいと言われているのだろうか? まだまだたくさんあるし、別に構わないが。
「それに、地上と違ってダンジョン内であれば、時間はかかりますが魔物は吸収されるのでアンデッド化の心配もありません」
「おっちゃんもそんなこと言っていました……あれ? それって魔物だけなんですか?」
「いい質問ですね。昔、ダンジョンをゴミ捨て場として利用しようと考えた人が居て、実際に試みてみましたが失敗しました。ゴミは吸収されずにダンジョン内に残り、ただただ汚れただけ。色々と試みたようですが、結果として吸収されるのは魔物だけということがわかりました。魔物には魔石がありますが、それをダンジョンが吸収するために魔物ごと吸収しているのではないか、と言われています。まあ、相手は物言わぬダンジョンですからね。正確なことはわかりようもありませんし、ダンジョンとはそういうもの、くらいの認識でいいと思いますよ」
言われた通り、そういう認識でいいと思うことにした。そんな感じで時々話している間に、地下31階の時と同じく小さな神殿に辿り着き、その中にあった地下33階への階段を下りていった。
―――
地下33階
ここも同じ。平原。夜だから視界が悪く、全体が見えない。陽が昇るのなら一度その時間帯に来て見てみたいと思う。ここも変わらずマウマウ先生の後を付いていく。しかし、マウマウ先生の案内で一直線に進んでいるとはいえ、階段に着くまで少し時間がかかるので、広いということはわかる。非常に迷いやすいというのも納得だ。まっ、俺には「自動地図化」があるので、無用の心配だが。ありがとう。「自動地図化」。頼りにしてます。
《――……イラッ――》
おっと、「全適応」さんのイラつきを感じた――気がする。でも、「全適応」さんが一番頼りとなるのは間違いない。俺の根幹と言ってもいいし、何より俺が妹を救うために今も行動できているのは「全適応」さんがあればこそだ。ありがたや。ありがたや。
《――……むふぅ――》
喜んでいる感じがする。ただ、なんというか、こう……勝手なイメージだが、マウマウ先生と違って張る胸が大きくあるような気が……。
「――ふっ!」
短い息を吐くのと同時に、マウマウ先生が反転しながら身の丈以上の杖を振って、その杖先を俺に向けて魔法を放つ。咄嗟に避けた。放たれた魔法は俺の後方から迫って来ていた魔物に当たって倒したのを、「気配察知」で理解する。あ、危なかった。
「……マウマウ先生。今、避けないと当たっていたんですけど?」
「アルンくんなら避けると思っていましたから」
「そ、それでも一声くらい」
「それはそうなのですが、不思議なんですよね。何故かアルンくんに当たってもいいような気分になりまして、声を出すよりも先に動いてしまい……申し訳ありません」
「は、ははは……い、いえ、こうして無事でしたし、お気になさらずに。魔物を近付けるとそれだけ危険ですし……」
……まさか、何かを察したのだろうか? 夜。闇。視界不良。他の何かが鋭敏になってもおかしく……いや、マウマウ先生は魔法でしっかりと見えているから、それはないか。なら、やはり本能で察した行動だから声を出さずに……自ら危険に飛び込むことはない。少なくとも行動を共にしている今の内は、迂闊なことを考えるのは止めておこう。まあ、止めておこうと思って止められるのなら、苦労はしない。思考なら特に。勝手に考えてしまう。それでも気を付けておくに越したことはない、と少し気を引き締めて、進み出したマウマウ先生の後を付いていった。
ほどなくして小さな神殿に辿り着き、その中にあった地下34階への階段を下りていく。
―――
地下34階
何も起きなかった。いや、魔物が近寄ってくるなんてことはあったが、マウマウ先生が華麗な魔法による先制攻撃で倒してしまうので、何も起きなかったと言ってもいい。あと、ここはこれまでと違って階段までの距離が近かったようで、割と直ぐ地下35階への階段がある小さな神殿に辿り着いた。もちろん、階段を下りるのだが……マウマウ先生はどこか浮かない顔。
「……ここまで来る間にミノタウロスの一体くらいは見つかると思ったのですが、いざ見つけようと思うと見つからないものですね」
マウマウ先生がそう言う。まったくもってその通りだと思った。




