偉大です。そう偉大なのです
「では、私に話を合わせてください……それでは、アルンくん。あなたが希望した通り、本日から最長で二泊、ダンジョンで泊まるということがどういうことかを担任として私が教えますので、しっかりと学ぶように。いいですね?」
最初に誰にも聞かれないように小声で俺に言ってきた後、マウマウ先生は周囲に聞かせるようにいつもより少し大きな声で言う。ああ、なるほど。そういう体でいくということか。
「よろしくお願いします! マウマウ先生!」
「『偉大なる』が抜けていますよ」
「よろしくお願いします! 『偉大なる』マウマウ先生!」
「ええ、どーんと私に任せてください! そう『偉大なる』私に!」
まるで、そこが偉大であると示すように、むふぅ、とない胸を張るマウマウ先生。あれ? ここも話を合わせる必要があったのだろうか? まあ、マウマウ先生は満足げだが。心なしか、こちらの声が届いていた周囲の人たちのマウマウ先生を見る目はなんというか、こう……子供の微笑ましい行動を見る親の目? といったところだろうか? ……こちらの行動を変に思われるよりかはいいか。放っておくことにした。
その後、「目に見えてわかる行動も必要です。許可証を出して渡してください」とマウマウ先生に囁かれて、折ってポケットに入れていた許可証を取り出して渡し、マウマウ先生が受け取ると「確かに受け取りました。では、行きますよ」と拠点である古びた小さな神殿内から外に向けて歩き出したので、その後に付いていく。外に出ると、そのまま地下14階への階段がある方へと向かう。
「……一応、Eクラスですからね。下に向かうよりは上に戻った方が信憑性は上がると思います」
マウマウ先生がこそっと教えてくれる。そういうことかと頷きを返す。
「まずは地下14階に戻り、そこから一気に地下10階まで戻って、転移魔法陣で地下30階へ行きます。今日はもうダンジョンに入ってくる人は居ませんから、そこまで行けば安全です。詳しい話はそこでします。いいですね?」
わかりました、とこれにも頷きを返して、その通りに行動していく。
―――
見た目だけで言えば、俺がおんぶするなり、抱えたりした方が速いと思ったのだが、そうでもなかった。マウマウ先生の移動速度は非常に速い。多分、魔法。だって、駆けるのではなく、スゥーッと少し浮いて移動している。多分だが、使う魔力量次第ではもっと速くなると思う。いいな。なんというか、こう、魔法! て感じだ。魔力の乏しい今の俺からすれば羨ましい限りである。まあ、駆けて付いていって――。
「………………」
マウマウ先生からは、理不尽な……と言いたげな視線を向けられているが。ともかく、思っていたよりも速く、地下30階に着きそうだ。
―――
地下30階
転移魔法陣のある部屋で、マウマウ先生と話す。この場なら、不意に誰かが現れたとしても、俺はマウマウ先生が連れて来たと言い張れるそうだ。
「……言い張れ、ますか?」
「私はエリアスト王立学園の教職員ですからね。冒険者の方にも顔が効きますし、安心してください。もしもの時は上手く丸め込みますから大丈夫です。こう見えて、それなりの権力持ちなんですよ、私は」
「は、はあ」
……まあ、マウマウ先生がそう言うのなら、そうなのだろう。多分。……あっ、アレかな? 学園長繋がりで国というか王家にも繋がりがあるのかもしれない。確かにそれなら権力持ちだというのも納得である。
「それで、まずはハイ・オーガですね。地下28階、29階で比較的よく見かけるそうなので、まずはそちらに行きますか」
「え? ああ、ハイ・オーガは多分倒しました。ただ、それがハイ・オーガか自信がなくて、確認してくれますか? 見た感じがハイっぽいので、合っていると思うのですが」
「え? 今、ハイ・オーガを倒したって言いましたか?」
「はい。だから、確認をお願いします」
言いつつ、「アイテムボックス」の中から先ほど倒したハイっぽいハイ・オーガを出す。マウマウ先生は突然巨大な魔物が出てきたことに少しだけビックリしたのか、ビクリと小動物のように跳ねた後、誤魔化すようにコホンと一つ咳払いして確認する。誤魔化されていませんよ。
「………………はい。間違いありませんね。これはハイ・オーガです」
マウマウ先生がハッキリと告げる。心の中でガッツポーズ。誰も見ていないので小躍りも追加。
《――………………――》
おかしい。心の中だけの行動なのに誰かに見られている気がする。そんな訳ないのに。不思議に思いつつ、ハイ・オーガを「アイテムボックス」に入れる。
「――となると、後残すはミノタウロスのみということですか。つまり、地下31階以降に行くということですね?」
「はい」
「……わかりました。まあ、ハイ・オーガを倒せるのなら地下31階以降も大丈夫です。私も以前来たことあるので問題ありません。ですが、アルンくん。注意は怠らないように。地下31階以降に行けるのは、本当に限られた者だけになりますからね」
「はい。気を付けます」
ミノタウロスを見逃さないように。そうして、マウマウ先生が地下31階へと向かおうとしたところで、思い出す。
「あっ、マウマウ先生。実はもう一つ話があって」
「はい? どうかしましたか?」
「実は、『簡易版魔力補充式転移魔石』というものを作りまして――」
実物を出し、実際に使ってみて説明する。
………………。
………………。
おっちゃんと似たような反応だった。驚き、喜び、そして、難しい顔。特に難しい顔の時は、頭が痛いのか額を押さえていた。大丈夫だろうか? おっちゃんと似たような説明? 説教? もされる。その辺りについては……はい。おっちゃんにも言われて……はい……弁えています。一通り注意事項を聞いた後、マウマウ先生は真剣に考える素振りを見せる。
「……えっと、他にも何か?」
「いえ、そういう訳ではなく……そうですね。実は、いざという時のために、それを持たせておきたい人たちが居ます。依頼すれば、数人分ですが作ることは可能ですか? もちろん、世に出すことはしませんし、秘密は守らせます」
「まあ、俺としては騒ぎにならないのなら別に構いませんけど、これはおっちゃんも協力しているから、おっちゃんにも聞いてみないことには……」
「そうですね。その通りです。わかりました。後で私の方からウルケストくんに聞いておく、ということにして、この話は一旦止めておきます。これからダンジョンを攻略するというのに、それ以外のことを考えて行動するのは危険ですからね」
わかりました、と頷きを返し、マウマウ先生が案内として先に立って地下31階へと向かう。




