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お互いに記憶がなければ、その時が初回である

『簡易版魔力補充式転移魔石』で地下30階の転移魔法陣のある部屋まで移動して、そこから地下10階に行く。そこから地下15階まで普通に移動だ。ダンジョン内は魔力が豊富なようなので『簡易版魔力補充式転移魔石』の魔力は直ぐに補充されるが使わない。下の方と違って、この辺りはまだ人が多く居るため、使った先に人が居てバッタリなんてことになりかねないからである。……見栄を張った。それっぽい理由を述べたが本当は違う。『簡易版魔力補充式転移魔石』を使う場合、転移した先を思い浮かべる必要があるのだが……直近ならまだしも、地下20階より上の階はもううろ覚えというか、正確に思い浮かべることができなかったため、使わなかっただけである。多分、それでも転移できるとは思うが……下手をするとどこに転移するかわからないので使わないことにした。まあ、魔蜂の巣と花畑は思い浮かべることができるので、そこに転移しようと思えばできるが、ここからなら使っても使わなくても大差ないので、やはり使わないことにした。


 地下15階の拠点に向かう前に、魔蜂たちの様子を見に行く。久し振りだったからか、魔蜂たちの歓迎を受ける。ははは。元気だったか? そうかそうか。元気だったか。いや、本当に元気なのはわかるぞ。何しろ、針で刺しまくってきているからな。ああ、大丈夫だ。俺のVITは前よりも頑丈になっているし、まったく刺さっていない。いや、それは前も同じか。じゃれつかれているようなものだ。だから、気にしていないぞ。……ん? ああ、なるほど。俺を刺していたのは最近生まれた魔蜂たちなのか。なら、俺のことを知らなくても仕方ない。大丈夫だ。怒っていない。だから、女王魔蜂かな? そんなに謝らなくてもいいから。ハチミツをいつもよりたくさんくれるのは嬉しいけれど、無理はしていないな? ……大丈夫? 俺が来るのが久し振りだったから、その分多くなっただけと。そうか。無理していないのなら、ありがたく受け取る。それじゃあ、俺が行くから。最近生まれた魔蜂たちも、ちゃんと俺のことを憶えておいてくれよ。それじゃ、またな。


 魔蜂たちとのやり取りで多少時間を食ったが、まだ許容範囲内だと思う。それでも、マウマウ先生を待たせるのは申し訳ないので急ぐ。


     ―――


 地下15階


 断崖絶壁に囲まれ、周囲には緑が生い茂り、それなりに開けた場所にある、一つの古びた小さな神殿。それが地下15階の拠点だ。そうそうこんな感じだった。次からは『簡易版魔力補充式転移魔石』で転移できると思うが……魔蜂たちの巣と違って、もう寄ることはない気がするので使う機会はないだろう。そんな古びた小さな神殿からは、中の賑わいが外まで聞こえてきた。まあ、ここは魔物が出ないからこその拠点なので、安心して騒ぐことができるのだろう。マウマウ先生はもう来ているのかな? と古びた小さな神殿に近付くと――。


「……待ちな。そこの一年坊主(チャイルド)。見ない顔だな。ここに初めてきた新顔(ルーキー)だろ?」」


 つば広帽子を被った四十代くらいの男性が、指をパチンと鳴らして俺を指差してきた。指差している訳だし、俺のことを言っているのはわかる。でも、どうなんだろう? 一年坊主(チャイルド)は言い方に疑問はあるが一年生なのは確かだ。まったく違うとも言い切れない。でも、新顔(ルーキー)はどうなんだろうか? いや、まあ、確かにダンジョンに入るようになってからそこまで月日は経っていないが、それでももう地下30階まで行っているのは、果たして新顔(ルーキー)と言えるのだろうか?


「……いえ、違います。それでは、失礼します」


 軽く頭を下げて、つば広帽子の男性の横を通り過ぎていく。


「ちょいちょいちょい! いやいや、新顔(ルーキー)だろ? 俺の目には初めて来た場所に不安を覚えて振るえる子犬しか映っていないぜ」


 つば広帽子の男性が回り込んできた。面倒だな。


「……はあ。いや、初めてではないんですけど。それと、そういう話し方も個性の一つだとは思いますが、だからといって誰にでも通用………………あれ? なんか、前にもこんなことをあったような?」


「……奇遇だな。俺もなんか、こういうやり取りを以前したような気がするんだが……」


 う~ん……と揃って首を傾げる。お互い答えが出ないようだ。ただ、俺だけではなく相手もこれが初めてではない、と思っているのはわかる。初回の記憶はないが。


「とりあえず、アレかな? 地下15階が初めてではないってことは、拠点の使用に関するルール説明とか大丈夫な感じかな?」


「あっ、はい。聞いた、ような気がします。アレですよね? ここは公共の場だからルールに則って、みたいな」


「そうそう。そんな感じ。なら……うん。大丈夫かな。じゃあ、行っていいよ」


「あっ、すみません。それでは、失礼します」


 多分初めてではない、という感じで首を傾げながら、古びた小さな神殿の中へと入る。マウマウ先生は教室の時と同じく身の丈以上の杖を持っていたので、それが目印となって直ぐに見つけた。宿屋と思われる場所の前に立って待っていたので合流する。


「す、すみません。マウマウ先生。遅れましたか?」


「いえ、大丈夫ですが、遅れたと思うようなことがあったのですか?」


 先ほどのつば広帽子の男性とのやり取りについて、簡単に説明する。


「……なるほど。まあ、相手からすればアルンくんは数多くの一人であり、アルンくんからすれば駆け抜けていった場所なので記憶に残らなかった、ということでは?」


 なるほど。つば広帽子の男性がの通りかはわからないが、俺からすれば『簡易版魔力補充式転移魔石』で地下15階に転移できなかった理由と似たようなものか。スッキリした。

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