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たとえそうはならなくても、注意点は注意点です

 翌日。準備は万端。結構な量の料理前、料理後の食料が「アイテムボックス」の中に入っている。こんなに作っていいのだろうか? と思ったが、おっちゃん曰く放っておいても悪くなるだけだから、ここらで一気に使い切ろうと言ってくれたので大丈夫だろう。どれも俺とおっちゃんの自信作ばかりだ。少しばかり欲を抱いて、料理に適応するかな? と思ったのだが、駄目だった。「全適応」さん曰く、《――料理は多種多様で千差万別。人によって味も違います。人によっては毎日作らなければいけないのです。似たような料理、味付けばかりでは適応に必要な経験は得られません。実際、まったく経験が積まれていませんので、もう少しレパートリーを増やしてください――》とのことだった。適応までの道は遠そうだ。


 ともかく、これでいつでも学園のダンジョンに籠ることができる――と意気込んでエリアスト王立学園に行き、サーフェ、ナリ、タオと挨拶を交わして、授業を受け、終わってお昼になるとマウマウ先生から「食事が終わり次第職員室に来るように」と言われ、サーフェとナリから叱られるようなことをしたのか? と心配されたので誤解を解きつつ、お昼ご飯を終えると一人職員室へと向かい、マウマウ先生から部屋を変えますと昨日と同じく生徒指導室へと入って長テーブルを挟んで向かい合う。話す内容も知っているし、叱られるようなことはないと理解しているが、それでも生徒指導室に来ると叱られるのでは? と思ってしまうのは何故だろうか。


「……アルンくん? 何故そんな覚悟を決めたような顔を? どうかしましたか?」


 ないこともない。あることもある。


「……トイレを我慢しているのですか? それなら先に済ませて」


「いいえ、違います。そうではなく……いえ、大丈夫です。それで、ダンジョンに籠れますか?」


「ええ、許可は取り付けました――が、待ちなさい。今日ではありません」


「え? 今日じゃないんですか?」


 浮かせた腰を下ろす。ついでに肩も落とす。そうか。今日じゃないのか。


「見ているだけで罪悪感が生まれるかもしれませんので、そう落ち込まないでください。色々と調整した結果です。その代わり、明日から最大の二泊ができますよ」


「おお!」


 今日は駄目だった。だから、明日から本気を出す。……あれ? 何か別の意味にも聞こえそうな感じだが……まあ、いいか。そもそも、昨日話して明日からというのも、相当無理と無茶を重ねたと思う。ありがとうございます、とマウマウ先生に頭を下げた。


 その後、詳細を聞く。


 まず、何故今日ではなく明日なのかは、明後日は学園がお休みだからである。つまり、明日学園の授業が終わり次第、学園のダンジョンに入ると、翌日は学園が休みでそもそも授業がなく、その次の日の授業に出れば、学業的な遅れがない、ということのようだ。俺としては一日くらいと思うが、これは俺のことを思ってのことだろうから、素直にお礼を言っておく。……一日でも学業が疎かになればヤバいくらい俺の学業が悪い訳ではない、と思いたい。


 それで、初日の学園のダンジョンに入ってから、その日の内に地下15階に赴き、拠点内に居る担当者に許可証を見せてそこに印を押してもらう。地下25階の方でないのは、ソロというだけではなく一年生の現在でそこまで行っているというのは非常に目立つので、それを回避するためだ。ということは、二泊目も地下15階まで一旦戻らないといけないということになる。正直面倒だがそうしないといけないなと思うが……そうならなかった。


「ああ、二泊目の時は大丈夫ですよ。地下15階で許可証を見せるのは、周囲に事前申請通りであることを見せつけるための、言ってみれば偽装行為です。その後は担当者が同行するので、地下15階に戻る必要はありません。アルンくんの行きたい階に行ったままで大丈夫です」


「え? 担当者が同行? いや、いきなりそんなことを言われても、それだと色々とバレて……」


「大丈夫です。アルンくんのことはバレません。何しろ、同行する担当者というのは私ですから。担任として、アルンくんにダンジョン内における宿泊というのはどのようにするものなのかを教える、という名目です」


 驚きましたか? と悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべるマウマウ先生。確かに成功した。驚いた。本当に。でも、考えてみればマウマウ先生は俺のスキル「全適応」さんについて知っている訳だし、特に隠すようなことは何もない。


「あっ、一応、それでも注意点が一つあります」


「注意点?」


「はい。いくら私が魅力的だからといっても、先生と生徒という関係性です。禁断の恋という言葉に甘美な響きを感じ取ったとしても、夜這いはかけないように自制心をしっかりと持って宿泊するように、です」


 はは、と笑いそうになったが、自制した。違う。この場の正しい選択は――。


「はい。わかりました。気を付けます」


「よろしい」


 むふ~、とマウマウ先生は満足げだ。選択は間違っていなかったようである。ただ、生徒まで魅了するなんて、なんて私は罪作りな女なんでしょう、とか思っていそうなのが透けて見えた。それは別にいい。ともかく、明日だ。明日、ダンジョンに二泊するために、準備は終えているから体調をしっかりと整えておこう。

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