意識外だと見た目以上に痛い
「ちょ、ちょっと待て、アルン。今、それで『転移』ができるって言ったのか?」
「うん。できる。多分。おそらく」
「自信を持て!」
「そこは普通、なんでそんな自信なさげなんだ? て言うところじゃあ……まあ、いいけど。まだ一回も使っていないんだから自信の持ちようがないと思うけど? だから、使ってみる」
学園の転移魔法陣を使うように……行く先を脳内に思い浮かべて……起動のためのほんの少しの魔力を流して、発動。少しだけ体が浮いたような感覚を抱く。
「き、消えた! アルンが消えた!」
「いや、後ろ」
「え? おお! 目に見えない速さで移動したとかではないんだな?」
「まあ、それもできなくはないけど、今のは間違いなく、この『簡易版魔力補充式転移魔石』による短距離転移だよ」
「そんな速さで動けるのか……いや、今それはいい。それよりも、その『きゃん易ぎゃん魔力補ぎゅうじき』……うぅん。その『簡易版魔力補充式転移魔石』によるものということか!」
「そういうこと。これで学園のダンジョン攻略がさらに捗る。地下30階から地下28階とか一瞬で行けるな」
「いや、そういう目的でこれを! これはそれどころの話ではないぞ! おおお!」
興奮が抑え切れないようで、おっちゃんは両腕を大きく上げ――ようとして、真横にあった机を下から叩き、痛そうに悶えた。いや、今のは意識外だから痛い。落ち着くまで待ったが、落ち着いたおっちゃんに先ほどまでの喜びはない。何やら考えている。深刻そうに見えるのは……きっと気のせいではない。……何かあるのだろうか?
「……アルン。一つ聞きたい。俺の知っている限りだが、これまでに『転移』の魔道具が作られたというのは聞いたことがない」
「え? でも、学園のダンジョンの転移魔法陣が」
「アレは、ダンジョンとセットで元々備わっているものだ。こちらが後付けしたものではない。だから、アルンにもわかるように言えば、それは世界初の『転移』の魔道具になるということだ」
……おぅ。マジか。大事の予感。いや、まだ大事にはなっていない。
「なるほど。わかった。おっちゃんは、これが明らかになると大騒動になることを懸念している訳か」
「寧ろ、大騒動で済めばいいレベルの話だな」
「そんなに……でもまあ、安心して欲しいというか、これは俺が個人的に使うつもりのものだから、明らかにするつもりはない。おっちゃんが黙っててくれたらだけど。それに、確かに『転移』はした。でも、そこまで高性能という訳じゃないというか、精々学園のダンジョンからこの家に飛んでくるくらいの距離しか移動できないし、飛ぶ距離で消費する魔力量が変わるから、場合によっては連続使用ができない……そういうことじゃないのか?」
「それもあるが、重要なのはそうしてそこに確実にある、ということだ。どこから情報が洩れるかわからない以上、使うなら慎重にな。もし存在がバレれば、襲撃してでも手にしようとしてくる者は必ず現れる。いや、個人ではなく国が動くことも考えられる」
「国が……」
そう言われても不思議と恐怖は抱かない。多分だけど、そもそもこれは俺のMPが大量に増えて「転移」が自前でできるようになるまでの繋ぎなのだ。そういう認識だからかもしれない。それに、たとえそうなったとしてもどうにかなるというか、「全適応」さんが喜々としそうだな、と別のことを思ったからかもしれない。
《――そうなれば適応するものが選り取り見取りですね。ふふふ……腕が鳴ります――》
うん。喜んでいるなあ……。ただ、俺が黙ったのは危機感を抱いたと思ったのか、おっちゃんが安心させるように笑みを浮かべる。
「だが、大丈夫。手がない訳じゃない。いざという時はマウマウ先生を頼れ。そうすれば、悪いようにはならないと思う。……いや、先に話を通しておくべきか……悩むな」
ん? マウマウ先生? ……ああ、マウマウ先生を通じて学園長から国に報告を出してもらう訳か。なら、マウマウ先生に教えておくのもいいかもしれない。まあ、それで国に取られたとしても、魔石に魔法陣を彫るだけなのでまた作ればいいだけだ。おっちゃんが手伝ってくれなくても、魔石があれば使い捨て式で使えるのだから。
「わかった。おっちゃんが頼りとしているのなら、マウマウ先生に伝えておくよ。学園のダンジョンに籠る許可証をもらう時にでも」
「……そうだな。伝えるなら早い方がいいし、アルンがいいならそうした方がいい。……で、一応結論は出た訳だ。つまり、堅苦しい話は終わり。だから、アルン。それは、アルン以外でも使えるんだよな?」
「使いたいの? いいよ。えっと……」
おっちゃんに『簡易版魔力補充式転移魔石』を渡して、使い方を説明。魔石の魔力がなくなるまで、おっちゃんは短距離転移をしてはポーズを変えるとはしゃぎまくった。それで満足したようである。魔力補充は周囲の魔力を取り込んで行われるようで、非常にゆっくりだったので再使用までに時間ができたので、マウマウ先生からの学園のダンジョンに籠る許可証は早い内に出ること、それと籠るのに食料が必要なことを伝えて、おっちゃんと一緒に台所に立った。




