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時には無理を押し通すことも必要

 翌日。授業が終わって、サーフェ、ナリとお昼ご飯を食べた後、職員室へ。


「失礼しま~す」


 マウマウ先生の下へ。ダンジョンで籠ることについて聞きたいことがあると伝えると、マウマウ先生は少し考えた後、「部屋を変えましょう」と案内されるまま付いていくと、「生徒指導室」と書かれた札がかけられている部屋の中へと入る。中には長テーブルを挟む長ソファが置かれていて、マウマウ先生と対面するように長ソファに座る。


「………………えっと、何か指導されるんでしょうか?」


「え? 何か指導されるようなことをしたんですか?」


「………………」


「………………」


「いえ、何も」


「怪しい素振りですね」


 マウマウ先生が鋭い眼光を向けてくる。いや、本当にない。ただ、チラッと「私は壁(背景の一部です)」と「俺は床(構わず踏んでいけ)」はほんのり犯罪臭がしそうなスキルだな、と思っただけ。それだけ。本当にそれだけ。他にはない。本当に。でも、マウマウ先生は鋭い眼光のままでジッと見てくる。いや、止めて欲しい。そんな目で見られ続けると、本当に何もしていないのにゲロってしまいそうになる。……ゲロ……ゲロ……カエル? いやいや、そうではなくて、俺がマウマウ先生にゲロってしまうようなことは………………思わず、マウマウ先生の顔から下に視線が行きそうになるが、本能が駄目だと危険を知らせるのでグッと堪えた。


「……まあ、いいです。それで、私に話とはなんですか? アルンくんのことですから、もう地下30階に到達して転移魔法陣が使えるようになりました、とかですか?」


「あ、そうです」


 どうやら、何を考えていたのか察していないようでホッと安堵した。でも、さすがはマウマウ先生である。俺が話をする前に話の内容を言い当てるとは……と思ったのだが、マウマウ先生がぽかんと口を開けて固まってしまった。目の前で手を振ってみるが反応なし。事態を理解するのに時間がかかっているという感じだ。こうなると手持ち無沙汰なのだが……どうしよう。マウマウ先生の覚醒を促したいところだが、自然覚醒を待つべきか? 揺さ振ってみるか? あるいは、ぽかんと開いている口の中に指を突っ込んでみるか? ……いや、最後の選択肢はないな。やった瞬間に殺されそうな気がする。そもそも、そんな勇気は俺にはない。勇気があればやっていいということでもないが。


 そんなことを考えている間にマウマウ先生が覚醒した。


「――はっ! まさか自分の言ったことが、と飲み込むのに時間がかかりました! 一応、確認しますが冗談とかではないですよね?」


「はい」


「嘘でもない?」


「はい」


「あっ、やっぱなし?」


「はいいえ」


「どっちですか!」


「いや、今のはマウマウ先生が悪いですよね。答えは、いいえ。なしではなく本当のことです」


「そうですよね。失礼しました。ふう~……まさか、入学してからこの短期間で。しかもソロとなると、これまで聞いたことがありませんので、エリアスト王立学園の歴史に名を遺す偉業ですよ」


「興味ありません。そんなことよりも、俺がマウマウ先生に聞きたいのは、学園のダンジョンに籠る際にどうすればいいのか、です。一応、おっちゃんに聞きましたが、何か条件が変わっているかもしれないのでマウマウ先生に聞いた方がいい、と」


 そこで俺は、何故学園のダンジョンに籠りたいのかを話す。聞き終えたマウマウ先生は納得するように頷いた。


「なるほど。そういうことですか。『全適応』は本当に強力なスキルですね。アルンくんが地下30階に到達したことを疑うようなことはしません。ですが、目的とする魔物を見つけられるかどうかは運次第ですし、少しでも確率を上げたいのなら、確かに籠るのが一番手っ取り早いのは間違いありません。何しろ、ダンジョン内に居る時間が増えるということですから。……ああ、条件の方は、生徒は一度に二泊まで、ということが決められているくらいで、あとは特に変わっていませんよ。担任が許可証を出して、拠点に担当者が居るので許可証を見せる、というのは……ただ、アルンくんの場合は……」


「俺の場合はなんですか?」


「やはりソロというのが……それに、これまでの件もあってEクラスの中でも顔と名前が少しは伝わっていますから、地下15階の拠点であっても、そこに一人で姿を現すとなると少し目立つかもしれませんね」


「……それは、どうにかなりませんか?」


 ここまで目立たないようにしてきた意味がなくなるのは、ちょっと……。


「ええ、わかっています。それを回避するとなると私が出張るのが一番なのですが、そうすると予定とか手続きとかあって直近が難しいという問題があります。一応確認しますが、アルンくんは私が出張るまで待てますか?」


 少し考える。


「………………いえ、できれば早くがいいです」


「ですよね。妹さんのためにも。そうすると……むむむ……」


 マウマウ先生が唸る。一番の解決方法が時間的に使えないのか……無理を押し通したいが、ただお願いするのも……あっ、そうだ。昨日、おっちゃんが悪い顔をして教えてくれた方法を使ってみるか。あれなら、ただではない。


「……そこを、なんとか、お願い、できない、でしょうか?」


 お願いしつつ、「アイテムボックス」の中からクリスタル素材を長テーブルの上に積み重ねていく。最初は戸惑いを見せていたがクリスタル素材の小山ができると、マウマウ先生の視線はクリスタル素材の小山に固定された。おっちゃんが言ったようにマウマウ先生にとっても垂涎の素材らしいので続ける。


「マウマウ、先生しか、居ないです。無理を、承知の上で、どうか、協力して、くれませんか?」


 そろそろ崩れそうなのでもう一小山作ろうかな? と思ったところで、マウマウ先生が俺を見る。


「……アルンくん。一つ確認です。これは、所謂賄賂というヤツですか? もしそうなら、教職員として受け取ることは」


「いいえ、日頃お世話になっていることへの感謝の印です」


「そうですか。感謝の印なら無下にはできませんね。……ですが、これはウルケストくんが考えた案ですね?」


 そっと目を逸らす。答えを言っているようなものだが、口にしていないことが重要なのだ。


「……まあ、いいです。わかりました。これがあれば多少の無理は通せます。アルンくんがダンジョンに直ぐ籠れるように手配します。先生に任せなさい」


「ありがとうございます!」


 上手くいって良かった。ただ、多分だけど、この後おっちゃんはマウマウ先生に詰問されるんだろうな。でも、きっとおっちゃんも覚悟の上だろうから、大丈夫なはずだ。

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