我慢にも限界があります
まさかここで再びレアボスを引くとは思わなかった。いや、待てよ。違う。赤黒いミノタウロスは俺が引き当てた訳ではない。あいつら……えっと、そう……あの………………ともかく、俺ではない。その後もレアボスには遭遇していないし、今回が初めて独力でレアボスを引き当てたということだ。……独力? 特に何もしていないが? まあ、細かいことはいい。そもそも、細かいことを気にしている暇はないのだ。
クリスタルゴーレムがクリスタル製の巨剣を薙ぎ払う。大きさからかなりの広範囲攻撃だ。飛び上がって避けようとしたところで、巨剣の軌道が上に向く。飛び上がり急遽中止。床に伏せる。巨剣が頭上を通り過ぎていく。ついでにスキル「俺は床」を発動。クリスタルゴーレムは俺を見失ったようで、戸惑うように身動ぎする。俺はフッと消えたようにでも見えたのだろう。直で相対していても効果があるんだな、これ。かなり有用スキルではないだろうか? と思ったところに、身動ぎしていたクリスタルゴーレムが足を前に出してくる。見えてはいないと思うが……うん。それ、俺が潜んでいる場所にドンピシャ。潰される前に跳び起きて、勢いそのまま飛び退いて回避する。目の前を足が通過していった。危なかった。ついでに、動いたことで「俺は床」は自動解除。身動きできなくなるのは欠点だな。
俺を発見したクリスタルゴーレムが襲いかかってくるので、一旦距離を取る。「全適応」さん、今どんな感じ?
《――……ふむぅ。どうやら、同じ空間に居ても経験は積まれないようです。逃げ続けて時間を稼いでも意味はありません。触れて体験する必要がありますので攻撃してください――》
だよね。感覚的だけど、俺もそうだと思った。となると、「全適応」さんが言ったように攻撃しないといけないが……誰だって痛い思いはしたくない。俺だってそう。まさか、今のSTRの攻撃が通用しないどころか、こちらが逆に痛みを感じる硬さの魔物が居るとは思わなかった。クリスタルゴーレム……やるな。でも、適応するためには攻撃しないと……いや、待てよ。必要なのは体験であるし、触れるだけでもいいのではないだろうか? 試してみる価値はある、とクリスタルゴーレムが振るう巨剣をかわしながら足下まで駆け抜けて、足にソフトタッチ。ひんやりすべすべで気持ちいい。クリスタルゴーレムが身動ぎしたところで離れる。どうよ?
《――……一切経験が積まれていま……いえ、毛ほどくらいは積まれたような……とりあえず、1%も積まれていないのは確かです――》
駄目だった。希望は砕けた。後は、痛い思いをしながら攻撃するしかない。クリスタルゴーレムの背後まで回り込み、拳を放つ――が巨盾に止められる。これも痛い。というか、なんで巨盾? 背後に回り込んだのに? と見れば、クリスタルゴーレムの上半身だけがぐるっと回ってこちっらを向いていた。器用だね。
「てめえ! 人型だってんなら、体の構造も人であれよ!」
ゴーレムはゴーレムだということだが、文句の一つくらいは言ってもいいだろう。その後、さらに攻撃を繰り出していくが、そのほとんどは巨盾によって防がれる。また、何度か体の方を打つことはできたがヒビ一つ入っていない。速度は俺の方が速いので早々にやられるということはないが、手が痛いだけの結果である。
《――集計結果が出ました――》
集計結果? 何の?
《――経験の積まれ方を確認したところ、巨盾よりも本体に攻撃を当てた方が、攻撃の方も威力が高ければ高いほど、より経験が積まれるようです。結果。本体に強烈な一撃を与えることが、一番効率がいい、ということがわかりました――》
なるほど。でも、それって反動は考慮されていないよね? より痛い思いをするってことだよね?
《――頑張ってください――》
まあ、応援するしかないよね。下手に時間をかける訳にはいかないし、適応するまでの経験を積むためにはやるしかない。大丈夫。痛いことに変わりはないが、痛いとわかっていれば我慢はできる。クリスタルゴーレムの上半身が回転するとわかったので、こちらも殴ると見せかけて殴らないといったフェイントを入れて隙を作り、巨盾を抜けて胴体部分を思い切り殴る。ゴン! と鈍く大きな音が響く。殴った胴体部分に衝撃は伝わったかもしれないが、ヒビは一つも入っていない。本当に、どれだけ頑丈なんだ、こいつ。拳の痛みに関しては我慢――。
「い……くぅ……」
想定していた以上の痛みで、声にならない声を上げる。我慢したからって何? 痛いものは痛い。悶えたいところだが、クリスタルゴーレムが巨盾を叩き付けようとしてきたので、急いでクリスタルゴーレムから離れる。もう少し痛みが引くまで待っていて欲しかった。というか、これを続けた場合、先に俺の手の骨の方にヒビが入りそうだ。……まだ入っていないと思う。
《――いいね。いいですね。今ので大きく経験が積まれました。ですが、100%にはまだ遠いのでどんどんいきましょう――》
……もつかな、俺の拳。




