決してそのようなことに使ってはいけません。そう、決して
地下30階
漸くここまで来た。直前で踏まれたことも気にしない。……気にしない。寧ろ、反応していたら俺のことがバレていた訳だし、あれで正解。だから、気にすることはないのだ。……とりあえず、妹やおっちゃんにはスキルと効果のことは話しても、踏まれたことは黙っておこう。心の平穏のために。
ともかく、地下30階だ。あとは、ここのボス部屋を見つけて、ボスを倒して、転移魔法陣を使えるようにすればいいだけ。それが今日の目的であり、終われば帰る。できるだけ遅くなることは避けたいが……まあ、特に手間取ることがなければ許容範囲内で帰れると思う。なので、時間の節約も兼ねて早々に行動開始。まずはボス部屋を見つけないといけない。
………………。
………………。
地下30階に下りる直前で冒険者パーティと遭遇したから警戒したのだが、杞憂だった。「気配察知」で人の気配はしない。魔物は居るが、何度か戦ってみて問題ないことは確認済み。文字だとわかりづらいが、今の俺のステータスは相当高いようだ。地下30階のボスにも通用すると思う。なので、後はボス部屋を見つけるだけ。高速移動は続ける。
直ぐ見つかった。いや、別に運が良かった訳ではない。地下30階がそう広くなかったからである。少し進めば大扉の部屋があって、その周囲にいくつかの小部屋が規則的に並んでいる、といったものだった。大扉の部屋がボス部屋だろう。それはいい。いいのだが、問題は地下30階が広くないということだ。一応、ハイ・オーガを倒すために一度は地下28階か地下29階に戻らないといけない。その際に人が居ると隠れる場所がなく、見つかる可能性が高い。……でも、今回獲得した二つのスキルがあれば……まあ、大丈夫か。また踏まれることになるかもしれないけれど。……あれ? この床と認知させるスキルだけど、場合によっては相手がスカートだと……いや、駄目だ。これ以上は考えてはいけない。そんなことに使うつもりはない。あくまで、緊急時の潜伏である。その際に見えてしまったのなら……それは仕方ないことだ。
思考が逸れたが、今はボス部屋だ。大扉を見ていても中が見える訳ではない。
「失礼しまーす!」
開けられるということは中に人は居ないということで、確認した後に声を上げながら中に入る。声を上げたのは気分だ。中は、かなり広い。大きいのが大暴れしても問題ないくらいだ。だからか、天井も少し飛び上がっても問題ないくらいに高い。その理由は、ボスを見て納得した。
俺の三倍以上の高さがある、でっかい人型ゴーレムだった。ただ、普通のゴーレムではない。これまでに出会ったのは土のゴーレムだったが、目の前に居るのは輝いているが宝石……ではないな。初見だから自信はないが、多分クリスタル。クリスタルゴーレムだ。それだけではなく、巨体に合わせたクリスタル製の巨剣と巨盾を持っている。感想を言えば、全体的に硬そうで、俺のSTRでも砕けるかどうかわからない。いや、感覚だけで判断するなら砕けない気がする。
そう思って見ていると、クリスタルゴーレムが巨剣を振り上げて、振り下ろす。狙いはもちろん俺。かなりの速度が出ているが、俺の方が速い。サッと避けるが、巨剣が床に当たった際の衝撃が強く、少しだけ体が流される。驚いたが、傷を負った訳ではないので問題ない。というか、斬られる前に圧し潰されそうな気がして怖い。それでも前に出て、クリスタルゴーレムの足部に拳を打ち付ける。渾身ではないが、それなりに力を込めた。
――でも、クリスタルゴーレムの体にはヒビ一つ入っていない。寧ろ、打ち付けた拳の方に痛みが走った。
「いった!」
思わず声が漏れてしまう。痛みよ、飛んでいけ、と打ち付けた拳を振る。そこにクリスタルゴーレムが蹴りを放ってきたので、咄嗟に受け止めるが巨大な質量を止めることができずに蹴り飛ばされて、勢いそのままに壁に背を打ち付ける。大きな衝撃音が響くが、背に痛みは走っていないので大丈夫。けれど、蹴りを受け止めた手が痛い。痛みよ、飛んでいけ、と両手を振る。
これまでにわかったこと。強い。クリスタルゴーレム、強い。今のステータスで通用するとか思っていたが、どうにも通じそうにない。というか、地下30階までに出てきた魔物と比べて、隔絶した強さを持っていることに違和感を覚える。
「全適応」さん。これってもしかして……。
《――適応していないのでここの正規のボスが何か知りませんが、おそらく地下10階でのミノタウロス(希種)と同様に通常ではないボスであると思われます――》
だよね。俺もそう思った。となると……どうする? 一応、AGIは勝っているので、逃げようと思えば逃げられる。大扉を開けるくらいの時間は稼げそうだ。でも――。
《――この場からの逃走は推奨しません。ミノタウロス(希種)よりも強ければ適応者をより強化できる絶好の機会です。適応するのに相応しい相手であると思います――》
だよね。より強くなれる機会があるのなら、なっておいた方がいいに決まっている。
「……それじゃあ、クリスタルゴーレム。相手になってもらおうか」
《――適応を開始します――》




