もう一回を断ち切るには強い意思が必要です
地下27階
地下26階と同じで「気配察知」で魔物の気配は感じるが、人の気配はほぼないくらいに感じない。いや、居るかどうかも怪しい。……いや、居る。感じた。でも、漸くといった感じなので、居ないものと考えてもいいと思う。なので、地下26階に続いて高速移動で一気に進んでいく。「自動地図化」で位置を確認しながら、地下27階を駆け回ったが……詰んだ。違う。本当に詰んだ訳ではない。ただ、一か所を除いて、他はどこも大部屋、小部屋に辿り着いて行き止まりで進めない。そして、その一か所は少し距離のある直線通路なのだが、「罠感知」がビンビンに感じている。どこか一部分が、ではない。直線通路の床全体から感じるのだ。そんなところを通らないと、先へは進めない。製作者の悪意を感じる。製作者が居れば、だが……ダンジョンマスター? それとも、ダンジョン自体が? ……まあ、今考えたところで答えは出ないので、いっか。
何にしても、直線通路の床全体が罠となっているところを通らないといけない。この場合の罠となると……何が起こる? わからないので踏んだ。それがわかるのに一番早い。嫌な予感がしたので直ぐに足を引っ込めると、天井がブロックごと落ちてきた。一部ではなく、罠として感じる床部分全体に。圧し潰す気満々である。でも、攻略法がない訳ではない。ブロック天井は重そうだが、圧し潰される前に駆け抜ければいい。それなりの速度が必要だが。もしくは、ブロック天井を受け止めて、支えながら進めばいいのだ。相当どころではない筋力が必要そうだが。いや、もう一つあるな。壁からは罠を感じないので、壁走りでどうにか……少し距離があるから罠がないところに辿り着く前に落ちそうだけど。
………………。
………………。
どうするか考えている間に、ブロック天井がゆっくりと上がっていって天井に戻る。もう一回踏んでブロック天井が落ちる速度と、落ち切るまでの時間を確認。……うん。いける。少し後ろに下がって、ブロック天井が天井に戻った瞬間――助走を付けて一気に駆け抜ける。スライディングすることなく、罠がないところまで駆け抜けることができた。ふう、と息を吐くと後ろでドスンとブロック天井が落ち切る。AGIが高くて助かった。ブロック天井、受け止めて支え続けることができるかどうか自信がなかったので。
ちなみに、もう一案として「私は壁」で壁として抜けられるかどうか試してみたが駄目だった。壁となっても罠を踏むことに変わりはないので、当然と言えば当然である。
そして、どうやら地下27階はこの罠が一つの区切りとなっているようで、抜けた先は分岐が少なく、ほどなくして地下28階への階段を見つけた。良し。良し。いいペース……だと思う。軽く拳を握って喜びを表しながら下りた。
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地下28階
事前情報だと、ハイ・オーガが主に出てくるのはここからだ。本来なら、探索に力を入れるべきだろう。でも、今日の目的は地下30階の転移魔法陣を使えるようにすることである。……あれ? そういえば、地下30階の転移魔法陣を使えるようにするのは、当然地下30階のボスを倒さないといけない。そのボスがなんなのか、聞くのを忘れていた。うっかり。まあ、行けばわかるさ。多分。
という訳で、ハイ・オーガ探しは後回し。もちろん、探索中に出会ったのであれば倒すつもりである。寧ろ、今はそうなってくれた方が嬉しいが、期待はしない。期待して出ないとショックなので。でも、他とは違う強い気配を感じてしまうと、やはり期待はしてしまうもの。丁度、左からは何も感じないが、右からは強い気配を感じる、という分かれ道にさしかかり……うん。右に行く。進んだ先に居たのはハイ・オーガ――ではなく、普通のオーガ。
「お前かよ!」
思わず力を入れて倒してしまうのは仕方ない。……くそっ。期待はしないと思っていたのに。強い気配に惑わされてしまった。
次はない――そう思っていたのに、再び分かれ道にさしかかった時、今度は左から強い気配を感じ、右からは何も感じなくて……わかっている。期待はしない……期待はしないが、左に行く。進んだ先に居たのは……普通のオーガ!
「だと思ったよ!」
ごめん。本当は思ってなかった。期待していたよ。連続でそんなことにはならないって。でも実際は連続だった。オーガを倒すのに先ほどよりも力が入ってしまったのは……きっと、仕方ない。うん。仕方ない。
もう期待は絶対しない――そう思っていたのに、左から強い気配。右からは何も感じない分かれ道にさしかかった。絶対が揺らぐ。ダンジョンが俺を惑わせようとしている感覚に陥る。……わかっている。きっと、居るのはオーガだ。先の二体と比べてより強い気配のようだが、居るのはきっとオーガだ。間違いない。……でも、三連続なんてあるか? 普通、ないよな。ないない。ははは……もう一回。今度こそ――と左に行く。
オーガだった。
「くそったれぇ!」
これまでの最速で倒したのは、それだけ本気を出した証拠である。それだけ力を出しても、倒したのはオーガ。ハイ・オーガではない。もう惑わされない。もう一回、と思ったのが間違いだった。
そう思っていたのに、今度は左からは何も感じないが、右から強い気配を感じる分かれ道にさしかかる。ダンジョンに弄ばれている感覚がした。騙されるかよ。いや、騙しにはきていないのか。ともかく、今度は強い意思をもって、何も感じない左へと進んだ。
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ハイ・オーガは強い気配が迫ってきているのを感じていた。もう少しで自分の下に現れる。そう思っていたのだが、その直前の分かれ道で怒りを纏う強い気配は自分が居る場所とは違う方向に進んでいったのを感じ取った。逃げられたか、あるいは見逃されたか。それはわからなかったが、今自分は死んでいない――それだけはわかった。
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もう一回の誘惑を断ち切って左を進んだのは正解だった。進んだ先に地下29階への階段があったので、迷うことなく下りる。




