なあに、いざとなれば実力行使よ
近付き過ぎるのは危険だという反省を活かして、「気配察知」でギリギリ察知できる距離を保って、地下25階に向かうと言っていた件のパーティの後を追っていく。どうやら、察知できる範囲は俺の方が上のようで、件のパーティが引き返してくるようなことはない。良かった、と本当に思う。まあ、件のパーティは現在別のパーティと行動を共にしていて、先頭は件のパーティ、後方を別のパーティで進んでいるので、その別のパーティさえ失わなければ問題ない。別のパーティの方は俺を発見というか察知できる人が居ないようなので、安心して後を追うことができるのは助かる。件のパーティと別のパーティが行動を共にしている経緯については壁として存在している時に目の前でやり取りされたことなので知っている。その時は本当に緊張した。心臓の音がうるさくて、相手に聞こえていないか心配したくらいである。まっ、聞こえていなかったみたいだけど。ああいうのは自分だけに妙に聞こえるものなのかもしれない。でも、「私は壁」は有用だと思う。使い道は色々ありそうだ。ただ、スキル名だけはどうにかならなかったのかな? とは思う。
ともかく、地下25階への道筋はできた。見つからないようにこっそりと後を追っていき………………漸く地下25階への階段を見つけた。といっても、これまでと違って直ぐには下りない。後を追って誰かが現れるかもしれないと、件のパーティと別のパーティが警戒を続けているかもしれないからだ。地下25階の構造もわからないし、察知範囲外から見張られていること考えられる。少しだけ間を置いてから、警戒しながら下りた。
―――
地下25階
下りた先の小部屋から続くのは、一直線の通路だけだった。曲がり角は見えるが、そこまで人は居ない。また、曲がり角は察知範囲の中にあるので、そこに人が潜んでいるということもない。見張られてはいないようだ。面倒がなくて良かった。通路を進みながら思い出す。地下15階は魔物が出ないので拠点と化していた。ということは、地下25階もそうなっているのではないだろうか? と考える。もしそうなら、ここは一時的に人が多い可能性が高いということだ。何も考えなしで進んでいると見つかってしまうかもしれない。そのことに気付いて良かった。
――それは正しかった。曲がり角を何度か曲がるが、それまでに小部屋はなく、魔物も居ない。このまま通路が続いていくのかと思ったら……不味い状況が見えた。曲がった先の通路に大きな扉があって、開いている。それだけではなく、その大きな扉の両脇には冒険者二人が見張りのように立っていた。「気配察知」で確認すると、大きな扉の先には多くの人の気配が感じられるので、そこが拠点場所になっているのだろう。問題なのは、通路はそこで終わりではなく続いているということだ。地下26階の階段があるのは通路の先だと思われる。ということは、先へと進むなら、見張りの冒険者二人の前を通っていかないといけないということだ。……あれ? 詰んだ。これ。そんなことできる訳がない。姿を見せずに目の前を通過できる訳……いや、今のAGIならピュンといけるか?
………………。
………………。
考えてみたが駄目だな。たとえ姿を見られないくらい速く動いたとしても、そんなの風どころか衝撃波が発生しそうな速度なので、何かが通過したのはわかる。そうなれば何事だと警戒されて、後を追われる……下手をすれば地下12階の時のように話題に挙がって要警戒になって要らぬ注目を集めかねない。つまり、見つからないように抜けることが、俺にとっての前提なのだ。どうすれば……待てよ。スキル「私は壁」で、壁として移動して抜けられないだろうか?
………………やってみる価値はある。でも、いきなり本番だと怖い。まずは練習。壁に背を預けて、手足を伸ばしてぴったりと壁にくっ付く。スキル発動。……ああ、俺は今壁と一つに……壁……壁……いやいやいやいや。危ない。何か流されるところだった。まずは、これで移動できるかだ。……ずり……ずり……。激しく動くことはできないが、すり足でどうにか移動はできる。スキル効果も切れていないと思う。……ここは度胸だ。やってみるしかない。
……壁……壁……俺は今壁なのだ……ずり……ずり……。
―――
地下25階の拠点入口には、念のためにと見張り二人が立っている。その見張り二人の内、一人が首を傾げる。
「………………ん?」
「ん? どうした?」
「いや、なんかそこの壁、動かなかったか?」
「いや、壁が動くってなんだ?」
「そうだよな。おかしなこと言っているな、俺」
「なんだ、疲れてんのか? そういや、ダンジョン入って少し経つな。色町でも恋しくなって、行った時の話しのタネにとダンジョン内での怖い話でも考えていたか?」
「ばっ! そんなんじゃねえよ。まあ、目当ての子が居るから恋しいのは確かだがな」
「おっ、誰だ。教えろよ」
「お前の目当ての子を教えたら教えてやるよ」
緊急時でない限り、地下25階に流れる空気は緩い。見張り二人はそのまま雑談を交わす。
―――
「………………ふぅ~~~~~」
長く息を吐く。危なかった。一瞬、バレたのかと思った。でも、どうにか通過することはできたが……この先に地下26階への階段、あるよな? まさか、あの扉の向こうは言わないよな? それだとさすがに壁では無理があるから……最悪見張りを倒すことになる。いや、倒すのは駄目か。まあ、先に確認してからだ。地下26階への階段がありますように、と祈りつつ先へと進むと……下に向かう階段があった。
「ほぉ~~~~~」
良かった。




