それは背景の一部です。
翌日。気持ちの切り替えはバッチリ。模造品だからって何だい、と吹っ切ってエリアスト王立学園へ向かう。Eクラスの教室に入り、サーフェ、ナリ、タオと順に挨拶を交わす。勢いに任せて残る二人の女生徒にも挨拶しようか少し悩んで……口が止まった。いきなり過ぎるか。戸惑われるか、警戒されるのがオチだ。心の平穏、大事。マウマウ先生の授業を受けて、終わればサーフェ、ナリと一緒にお昼ご飯。サーフェはまた傷が増えたように見えるが大丈夫か? ……強くなっている実感があるから大丈夫、と。ん? ナリも頑張っている? 何を頑張っているかは……秘密? そうか。わからないが、頑張れ。俺も学園のダンジョン攻略を頑張る。大丈夫だ。見つかっていない。見つからない方法も得た。大丈夫。本当に大丈夫だから。……なんで俺の時だけそんな心配するの? うっかりしそうだから? はっはっはっ。否定できない。お昼ご飯が終われば、互いに頑張っていこうと励まし合って……俺は学園のダンジョンへと向かう。
行くぞ! うおおおおおっ!
―――
地下24階
もちろん、誰にも見つからずに、昨日来たモンスターハウスの罠があるところまで一気にここまで来た。今日はここから攻略開始だ。気合を入れる俺の視界の端に、台座の上で赤く輝く宝石を映る。いや、宝石ではなく模造品だ。………………けっ。近くに手頃な石でもあれば投げつけて割るのに、残念ながら手頃な石はない。ああ、本当に残念だ。そこらの壁でも壊して作り出すか? 何もないところから手頃な石を作り出す。これも錬金術だろうか? ……これを錬金術と言ったらおっちゃんが怒りそうだから言わないでおこう。ともかく、先へと進もう。目指すは地下30階の転移魔法陣。行くぞ。
………………。
………………。
相変わらず広い。「自動地図化」があるから迷いはしないが、地下25階への階段が中々見つからない。それに、人が少なくなったとはいえ、居ない訳ではなく、自然の中ではなく人工物――神殿内の通路を進んでいくということは、通路上だと隠れる場所がなく、やり過ごすことができずに隠れられる場所まで引き返すことしかないため、時間だけが過ぎていく。時間の無駄だ。何かしらやり過ごす手段が欲しい。それか、早々に先へと進む階段を見つけるか。う~む。
悩む俺の「気配察知」に反応。複数人……一パーティが走っている感じだ。といっても他に反応がないので、何かから逃げているのではなく、先を急いでいる感じ。………………先を急いでいる? つまり、地下25階に向かっているのではないだろうか? いや、向かっているに違いない。うん。後を付けよう。時間の節約。時間の節約。
………………。
………………。
ふははははは。キミたちのAGIで、俺のAGIからは逃れられない。追うのが楽しくなってきて、妙なテンションになってしまった。それがいけなかった。追い付き過ぎたというか、角を曲がって少し行けば件のパーティが居る、みたいな距離まで近付き過ぎていたことに気付く。危ない。危ない。うっかり姿まで見せるところだった。まあ、「隠密」は当然使っているので、多少姿を見せてもバレな――。
「誰っ! 後ろの曲がり角から人の気配がするわっ!」
ドキーン! え? それってもしかしなくても俺ですか? いやいや「隠密」使用中だから大丈夫――と思ったが、件のパーティが足を止めたかと思うと、警戒しているのか足は遅いが、こちらに向かってくる。確認ですか? そりゃ、ここはダンジョンの中だし、不確定要素があれば確認しますよね。気のせいでどうにかなりませんか? ……駄目っぽい。件のパーティはこちらに向かっている。しかし、何故バレた?
《――適応者が適応して獲得したスキルを上回る強いスキルであれば通用します。跳ね除けるのであれば、その強いスキルに適応する必要があります――》
なるほど。つまり、件のパーティの発見者は、俺の「隠密」が通じない発見系のスキル持ちということか。……え? 詰んだ? ここまで誰にも見つからずに来たのにバレちゃう? くっ。「隠密」さん。いえ、「隠密」さま。実は「隠密」さまが本気ではなく、やれやれ少しは本気を出すか、みたいな感じで強化されてどうにかなりませんか? ……なる訳ない。わかっていた。知っていた。だから、心に傷は負っていない。
こうなったら察知されているので怪しい動きになるが引き返すしか――ひっ! 別のパーティが引き返そうとしている道から来ている。不味い。挟まれた。近くに逃げ込める部屋はない。これだから通路を進むのは。くそお。どうする……どうすれば………………どうにか誤魔化されないかな、とやけっぱちになって壁に背を預ける。
俺は壁。俺は壁。俺は壁。神殿の壁。………………。
《――100%。得られた経験により「壁」に適応しました。「気配察知」、「隠密」の経験を活かし、スキル「私は壁」を獲得しました――》
うん。どういうこと? 不思議に思うのは一瞬。そこは適応。理解した。壁に背を預けたまま……俺は壁……それ以外は考えない……俺は壁……壁なのだ……そうすれば、相手は俺を壁だと認識するスキル……だから、俺は壁……。
―――
件のパーティが曲がり角から身構えながら飛び出す。だが、そこには誰も居ない。ただ、通路があるだけ。ただ、壁があるだけ。
「……どういうことだ?」
「気配を感じたんだけど……」
そこに、通路の先から別のパーティが姿を現す。件のパーティは警戒したが直ぐに解く。知り合いだったからだ。だから、これ幸いと件のパーティは別のパーティに尋ねる。
「そっちに誰か来なかったか?」
「は? いや、来なかったが?」
「そうか」
「……私の気のせいかな。最近スキルレベルが上がったから、それでレイスを感じ取ったのかも」
まあ、そういうこともあるかもしれない、と件のパーティは一応納得する。それでも警戒はしておいた方がいい、人の目は多い方がいい、と目的地――地下25階へ向かうのは同じということで、別のパーティと共にこの場を後にした。
―――
………………。
………………。
ふぅ。危なかった。




