間接的であっても気分が落ち込む場合もある
家に帰ると――リビングにおっちゃんが居た。一休みしていたように見える。
「ただいま」
「おう、おかえり」
「こっちに居るってことは、タオはもう帰った?」
「ああ、少し前にな。今は足りない基礎をやらせているが、それでも錬金術は錬金術だ。それでも楽しいらしく、自主的に切り上げることができないようで、うっかり帰宅時間を逃すところだった。迎えの御者さんが教えてくれなかったら危なかったな」
うんうん、と頷くおっちゃん。まあ、おっちゃんも錬金術が好きなようだし、それはタオもそうだ。楽しいと楽しいがかけ合わさって時間は気にしなくなるだろうな。その姿が容易に想像できる。迎えの御者さん。お疲れさまです。
「昨日まではアルンが居たから止めてくれたが、俺一人だとまた同じことになりかねないし、今後はどうにかしないといけないな……決まった時間を知らせる魔道具でも作るか」
悩み始めるが、そこはおっちゃんが自制すればいいだけでは? と思うが、多分無理なんだろうな。なんとなく、たとえ時間を知らせる魔道具を作って使ったとしても、気付かないか、うるさいと壊して終わりな気がしないでもない。……迎えの御者さん。頑張れ。
「まあ、こっちのことはこっちでどうにかするさ。それで、アルンの方はどうだった?」
「ん? ああ、望むスキルを獲得してきたから、これで一気に進むことができる。今日はその獲得で遅くなったから、明日からこれまで通りに進んでいくつもりだ」
「そうか………………そうだな。早く手に入るなら早い方がいいのは確かだ。頑張れ」
「そりゃ、頑張るけど……え? 何? まさか、イシスに何かあった?」
帰ってきたばかりだけど、エリアスト王立学園に忍び込んで学園のダンジョンに行っとく? いや、その前に妹の様子を見て――。
「まあ、慌てるな、アルン。今のは俺の言い方も悪かったかもしれない。大丈夫だ。イシスに何かあった訳ではない。容体も安定している。マージク嬢の作った魔力回復薬の効果が高いおかげだ。丁度良かったとも言える。だが、効果が高いのを使うというのはいいことばかりではない。それが必要なくらい病状が進行したということだ。最近になってイシスが寝てばかりなのも、『魔障』が進行して抜ける魔力量が多くなり、それだけ身体への負担も大きくなっているからで、その内寝ていてもきつくなっていく。イシスは先天的な魔力量が多いようだからまだ余裕はあるが、これで発汗が止まらず、呼吸が荒くなれば……いよいよ時間の問題だ」
おっちゃんが覚悟を問うような目を俺に向けてくる。
「ああ、わかっている。だが、そうはならない。俺が必ず必要な素材を揃える。そのための準備も大体終わった………………あっ、一つ抜けてた」
必要な情報が一つ足りないことを思い出す。
「……締まらないな。なんだ? 俺でわかることなら答えるが」
「ハイ・オーガが学園のダンジョンの主に地下28、29階に出るとは聞いた。そこまでは直ぐに行けると思う。抜けてたのはその次、ミノタウロスの情報だ。どの階に出るとか知っている? まあ、どこかから手に入るならそれでもいいけれど」
「ああ、ミノタウロスか。俺は実際に見た訳ではないが、学園のダンジョンの地下31階以降に稀に出るらしい。特に目撃情報が多いのは地下35階以降だが、現役冒険者であってもそこまで行ける者は限られているから無理はするな……と言いたいが、どうやら他からの入手が相当難しくなっている」
「というと?」
「俺の方でも知り合いにお願いしていると言っただろ。そこからの情報で、『魔障』の治療楽に使うということでミノタウロスが乱獲されて、地上では中々見つけられなくなったようだ。残るはダンジョンだが、ミノタウロス出現場所まで行ける者は限られているし、そもそもミノタウロスは強い魔物だからか出現数が少ないため、入手するのが相当難しくなっているという訳だ」
「なるほど。でも、だからといって俺は諦めない。見つけられないというのなら見つかるまで探すだけだ。必要なら地下35階以降にも行く。行ってみせる」
「そう言うと思った。まあ、根性論だけなら止めるが、アルンには『全適応』がある。もしかするともしかするかもしれない。だから、俺も希望を捨てない」
おっちゃんが頷き、俺も頷く。一気に進む必要がある。まずはハイ・オーガ……いや、一旦地下30階の転移魔法陣を使えるようにした方がいいかもしれない。出現場所はそこからの方が近いし。
そんな感じで明日からの学園のダンジョンをどう攻略していくかを考えつつ、おっちゃんから今日のことを聞かれ、スキル「罠感知」を獲得する際に地下24階のモンスターハウスを攻略したことを話すと――。
「その罠。俺が学生の頃にもあったな。モンスターハウスとわかっていれば、どうとでも対処できるし。ただ、実入りが魔物素材だけだし、そもそもそこに行くまでに出てくる魔物ばかりだから、あんまり人気はなかったな」
「え? 魔物素材だけ? あの宝石は?」
「ああ、アレか。アレは宝石ではなく模造品だ。売っても安いぞ」
……ふ~ん。まあ、別に、だから何? という話だし。そんなのに期待してないし。そもそも、「罠感知」を獲得するために手に取っただけで、獲得した時点で俺の勝ちだし。……くっ。
その後は、落ちた気分が少しでも上がるように、できるだけ楽しくなる雑談を心掛けた。




