いきなり引くような状況に遭遇する時もある
落ち着くまでの時間が必要なのだろう。多分、おっちゃんは天を仰いだままなので、俺は床の上のうつ伏せのまま待機する。
………………。
………………。
「………………何、これ?」
妹の声が聞こえた。振り向きたいが、こんな姿の俺を見ないでくれ、と思う気持ちが強くて振り向けない。そもそも、もう姿は見られている。ならば、正直に言うべきだ。
「おっちゃんに謝罪をしている!」
「……意味がわからない。余計に体調が悪くなりそうだけど、そういう遊び? どういう遊び? まあ、妹として付き合いたいところだけど、水差しの水を入れに来ただけだから」
妹がリビングから続く台所に向かう足音がして、水を入れる音が聞こえた後、そのままリビングから出て行――かずに足を止めた。
「もし、私のことが負担になってそんな奇行に走っているなら」
「「それは違う!」」
俺とおっちゃんの声が重なる。急いで立ち上がり、正気を取り戻したおっちゃんと共に、妹にそんなことは決してないことを勢い良く説明した。妹はわかってくれたようで、「でも、無理はしないでね」と笑みを浮かべて部屋へと戻っていく。
おっちゃんと共に安堵の息を吐いた。
―――
「……とりあえず、なんでそんなことになったのか、説明してくれるか?」
「もちろんだ」
リビングで一から説明を始める。地下12階の出来事からタオ・マージクにレスキューフィンガーの新たな中指として、サーフェ、ナリと共に目を付けられたこと。そこからのちょいちょい当たっている推理。否定はしたが、その後に後を付けられていて、俺が地下20階以降に行っていることがバレる。それでも否定して、どうにか誤解は解けたが、その後に知ったタオ・マージクの目的に反応してしまい、話だけはしてみる――と今に至るまで。それと、「全適応」さんからの情報も合わせて話した。
「……という訳で」
「………………」
おっちゃんからの反応はない。目を瞑り、両腕を組んだまま動かない。思考中のようなので、俺はおっちゃんが答えを出すのを待つ。
……少し待った後、おっちゃんが口を開く。
「まあ、数日でいいそうだが、アルンに『錬金術』を教えるのは別に構わない。寧ろ、嬉しいくらいだ。だから、それはいいのだが……その、女生徒、えっと……」
「タオ・マージク」
「そう、そのタオ・マージクについても、魔力回復薬の質が良くなって量が増えるのなら、それに越したことはない。だが、一つ確認しておきたい。そのタオ・マージクの目的だが、アルンの他に知っている奴は居るのか?」
「え? 他に? いや、俺が聞いた時は俺しか居なかったけど……それ以前についてはわからない。でも、誰にでも言っているような感じではなかったから、知っている人が居たとしても極少数とかじゃないかな?」
「そういう感じか……まあ、アルンから聞いた限りだと俺から『錬金術』を学びたいとかそんな感じだろうから、俺のことを秘匿することを条件にとか、やりようはあるが………………わかった。とりあえず、明日でもいいから向こうの都合がつく時に連れて来てくれ。その時に俺が判断する」
「いいのか?」
雰囲気的には大丈夫そうだったので、念のために聞いてみたのだが――。
「過去の自分と向き合うことになると思うと今から挫けそう……」
おっちゃんが闇を纏った。かと思えば直ぐに自ら払い除けた。
「だが、これでイシスを助けられる確率が上がるのなら……覚悟を決める! どーんとかかって来い! ……いや、やっぱり来るなら来るで手加減して欲しい。どう手加減してもらうかさっぱりだが」
勢いが弱まったが……大丈夫だろう。多分。きっと。
その後、俺の「錬金術」学習は準備もあるので明日からと言われたが、心を立て直す準備もあるのだろう。申し訳なく思うが、よろしくお願いします、と頭を下げた。
―――
翌日。Eクラスの教室に入ると、タオ・マージクが目を輝かせて俺を見る。朝から眩しい、と目を細めた。入って直ぐの席ということもあって、既に来ていたサーフェが声をかけてくる。
「……おはよう。だ、大丈夫なのか? なんか昨日より圧が強くなっているように見えるんだが?」
「……おはよう。まあ、大丈夫だ。大体の話は昨日で片付いているから」
苦笑いを返しておく。ナリも心配そうにしていたので、そちらにも。でも、二人共、俺を置いていったのは忘れていないからな。まあ、予定が会ったのなら仕方ない、とも思うし、俺が二人の立場だったならきっと同じことをしたとも思う。責めるに責められない。
席につく。タオ・マージクは俺の隣の席だ。俺の方に体ごと向いてきた。
「おはよう。それでどうな」
「おはよう。慌てるな。今は授業が優先だ。でないと、マウマウ先生が怒るぞ」
タオ・マージクもそれは嫌なのだろう。しぶしぶといった感じではあるが前を向く。ただ、こんなことはなかったからか、サーフェとナリはまだしも、他の二人の女生徒は少し間だけ、驚くようにこちらを見ていた。
「――おはようございます。今日も一日に元気に授業を……おや? なんですか? この雰囲気は? もしかして、青春ですか?」
マウマウ先生は首を傾げた。




