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サイド タオ・マージク

(――やった。やってしまった。早とちりしてしまった。恥ずかしい。とっても恥ずかしい。もちろん、理由がある。気が急いてしまった。漸くレスキューフィンガーに近付けると思って、焦ってしまった。行動力を出し過ぎてしまった。今考えると、これまで同じクラスとはいえ仲良くしてきた訳でもないのに、後を付けるとか普通にヤバい奴認定されてしまう。……いや、そもそも後を付けるのはヤバい奴か。……ともかく、やってしまって恥ずかしい)


 タオ・マージクの脳裏には自分がやってしまったことが走馬灯のように駆け抜け、自ら行った行動に恥辱を感じていた。真っ赤になった顔は両手で覆って隠しているが、未だ引く様子はない。それを見ているアルンは、追及すれば余計にこじれそうだと判断して手出しすることなく、タオ・マージクが落ち着くのを待つ。


     ―――


 タオ・マージクは、所謂貴族子女である。しかも、家は伯爵位と高位貴族であった。それなのに、エリアスト王立学園において不遇の扱いとなるEクラスに在籍しているのは、当主である父親を含めて家族からの扱いが良くないからだ。


 タオ・マージクの実家――マージク伯爵家は、エリアスト王国騎士団と同列の魔法師団の団長となった者を何人も排出してきた、エリアスト王国における魔法の大家である。だからこそ、マージク伯爵家の者は魔法に関することに非常に厳しい。外にも、内にも。それ故に、タオ・マージクにとって、マージク伯爵家は居心地のいい場所ではなかった。


 上に兄と姉が居る、マージク伯爵家の末娘として、タオ・マージクは生まれる。幼い頃は貴族子女として扱われていたのだが、それはそう長く続かなかった。魔法の大家ということもあって、マージク伯爵家では幼い頃から魔法の訓練が行われる。習得であったり、魔力増加であったり。そんな中で、タオ・マージクは幼い頃から魔力量が多く、将来が期待されていたのだが、魔法の習得は上手くいかなかった。まったくできなかった訳ではない。ただ、魔法を使える者なら誰でも使えるような簡単な魔法しか習得できなかったのである。


 タオ・マージクは、それでも良かった。というのも、魔法の大家に生まれても、魔法がそんなに好きではなかったからである。何故なら、タオ・マージクは魔法よりも物を作る方が好きだからだ。魔法を習得するよりも物作りに熱中する姿を見て、父親も、母親も、兄も、姉も、タオ・マージクに向けていた期待は反転して失望へと変わり、扱いは悪くなっていった。それでもタオ・マージクの精神が歪にならなかったのは、マージク伯爵家の使用人たちの態度が裏では変わらず優しかったからである。また、タオ・マージクは非常に賢い子であり、使用人たちが裏でしか優しくないのは、当主である父親と家族には表立って逆らえないよね、と悟ってもいた。


 これで、もし、エリアスト王立学園入学時のダンジョン初入りで手に入るスキルが魔法系統で有効なものであれば、扱いは反転して大きく変わっていただろう。だが、そうはならなかった。タオ・マージクが得たのは「錬金術」。本人は喜んだが、家族は違う。魔法の大家でありながら魔法系統のスキルではないことに怒り、本来はC、Dクラスでもおかしくなかったのだが、マージク伯爵家の力でEクラスへと落とされたのである。


 ただ、タオ・マージクはEクラスでも気にしない。それどころか、兄と姉は少し歳が離れているのでエリアスト王立学園には居らず、家族に干渉されない場所ができて晴れ晴れとした気持ちすら抱いたくらいだった。


 あとは、好きな物作りに邁進するだけ。また、「錬金術」もスキルとして得る前から独学で少し学んでいたので、それができるのが嬉しい。しかし、独学のままであれば、いずれ限界が来るか、行き詰まるのではないか? と悩む。一応、エリアスト王立学園にも「錬金術」を教える教職員は居るのだが、師事したいとは思わなかった。


 そんな時、タオ・マージクは素材集めのために学園のダンジョンに入る。誰でも使えるような魔法しか使えなくとも魔法の大家の出なのだ。タオ・マージクはソロでも地下13階まで行けるくらいには強かった。それでも油断は大敵である。素材採取に夢中になっているところを魔物に襲われ、奇襲されたことで不利な状況を覆すことができず、命を失い兼ねない危機的状況に陥ろうとした、その時――。


 タオ・マージクは運命の出会いを果たした。


「「「三人揃って――救いの手を差し伸べる! 我ら、エリアスト王立学園・救助部隊! レスキューフィンガー!」」」


 レスキューフィンガーに助けられる。そして、惚れ込んだ。といっても、レスキューフィンガーの誰かにではない。吊り橋効果はなかった。何に惚れ込んだかといえば、レスキューフィンガーの姿が、タオ・マージクの琴線に触れたのである。また、自分がスキル「錬金術」を持っているからこそ、レスキューフィンガーが身に付けている着ぐるみが「錬金術」によって作られたことが理解できた。


 これだ! これこそ今私が目指す物! とタオ・マージクは目を輝かせる。同時に、レスキューフィンガーが身に付けている着ぐるみを作った錬金術師に師事したい、と願う。


 それからは、どうにか接触して話せる時間がないかと、レスキューフィンガーについて調べていき……中の人が誰かはわからなかった――いや、中の人など居ないが、きっかけすら掴めずにいた時に、学園のダンジョン地下12階で何かが起こり、そこからの数日間でタオ・マージクの灰色の脳細胞が活性化して、これがきっとレスキューフィンガーと会うための突破口になるとアルンたちに突撃したのである。その後に、後を追ってまで確認したのは完全な暴走だった。


 それが自覚できたからこそ、タオ・マージクはやってしまったと恥ずかしかったのだ。


     ―――


 少し時間を置いたことで、タオ・マージクは漸く落ち着くことができた。顔の熱も引き、両手で覆う必要もなくなったので外す。タオ・マージクは「すみませんでした」と暴走したことを謝り、アルンは「まあまあ」と宥めた。そして、アルンは待っている間にふと思ったことを尋ねる。


「それにしても、レスキューフィンガーの中指を見つけたとして、どうしたかったんだ? なりたいのか?」


「違う。なりたかったんじゃない。誰かあんな風に救助ができるほど自分が強いと思っていない。私はただ、あの衣装を作った錬金術師を紹介して欲しかっただけ。『錬金術』スキルを得たから……それを高めて……いつか、あの衣装を超える物を……作り………………」


 タオ・マージクの言葉が途切れ途切れになっていったのは、アルンの様子がおかしくなっていったからである。何か不味いことを聞いたような苦々しい表情になったかと思えば、今は顔を両手で覆っていた。


 タオ・マージクはその様子を見て――。


「――! あなた、知っているでしょ! あの衣装を作った人を!」


 灰色の脳細胞が輝いた。

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