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24.小さな太陽

「ここが……操縦室ではなく、動力源か」


十蔵が息を詰まらせながら近づく。


「黒船で見た……蒸気機関に似た構造……だが、これは……まるで生物そのもの。まさか“船”が生きているとは……」


源田が酸欠で体がうまく動かないのか、ふらりと膝を折った。


「ぐっ……息が……もたん……」


もはや時間はあまり残されていないことを全員が悟っていた。


見ると、パイプから時折ピシッとした火花のような光が走り、“太陽”が脈動するたびに、周辺の粘膜が膨張と収縮を繰り返している。


荒木が疼く肩口を押さえ、かすれる声で言った。


「火薬が……ない以上、どうにもならん……のか。くそ……!」


おキヌは浅い呼吸を抑えつつ、ぐるりと“太陽”の周囲を見回す。


「荒木さま……あきらめてはダメ……」


「おキヌどの、しかし……!」


荒木は片腕で刀を振りかざし、思いきりパイプの一本を斬りつけた。しかし一瞬、液体が噴き出したかと思うと、別のパイプが絡まるようにしてすぐに修復してしまう。

おキヌが目を丸くし、「こんなの、どうやって……!」と息を飲む。


「ならば直接、“太陽”を狙うしか……」


荒木は刀を投げようとするが、体が震えて刀を手放しそうになった。苦しげに視線を交わした十蔵が、首を横に振る。


「刀を投げ込んでも……吸い込まれるだけだの」


“太陽”を前にして全員が焦っている。呼吸はもう限界だ。


吉六が「旦那方……おいら、もう……」と座り込む。


「源田殿、しっかりしろ!」


十蔵が源田の肩を揺さぶるが、源田はとうとう完全に意識を失った。鍛え抜かれた男でも、酸欠には勝てなかったのだ。


間もなく荒木も視界がちらつき、「くっ…」と膝を折る。絶体絶命だ。


「一刻の猶予もないというのに……情けないが……策がない」


十蔵は首を振って意識を保とうとするが、脳内が霞むのを感じる。


と──


次の瞬間にはおキヌが自らの手首に小刀をあてがい、スパッと切り裂いた。


「な……!?」荒木が呻き声で叫ぶ。「おキヌ殿!なんてことを……!」


おキヌの血が床へと滴り、紅く広がる。痛みを堪えているはずなのに、彼女はかすかな微笑を浮かべた。


十蔵も酸欠で倒れそうになりながら、口を開くも声が出ない。


おキヌは震える手を見ながら、したたり落ちる血を見つめ、“太陽”へ近づいていく。彼女の体がふらついて倒れそうになるたびに、深紅の血がぷつり、ぷつりと床へ落ちる。その先には、鼓動する“太陽”が熱を放ち、まばゆい閃光を揺らめかせている。


「荒木さま……どうか……ご武運を」


乾いた声でおキヌがそう囁いたとき、視界が白く揺れ、荒木の意識は遠ざかっていった。倒れ込み、肉の壁に頬をつけながらも荒木はひたすらおキヌを目で追った。


床に滴るおキヌの血が、パイプ群を通じて“太陽”へ吸い寄せられていくように見えた。果たして、おキヌが何をしようとしているのか――荒木には分からない。ただ、自分にできる術がもう何もないことだけが悔しくてたまらない。


やがて、脈動が一際大きく鼓動し、“太陽”全体が赤い光を放ち始めるのを荒木は薄れゆく視界の端で捉える。生きているのか、死んでいるのか、それすら分からなくなっていく中、粘液の海に沈むように意識が闇へ落ちていった。

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