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22.地鳴りの果て

“フシュー……ギギッ……”

化け物がムカデのような長い胴体をくねらせながら、地を這うように逃げていく。体長は五メートル以上か。まるで妖怪絵巻から抜け出した大蛇のごとき不気味さを放ち、十蔵と源田がすかさず追いかける。しかし、化け物の異様な素早さに追いつくことができない。


闇に溶けるように、ムカデ化け物は船内の奥へと姿を消した。


「くそっ……!」


源田が奥歯を噛みしめる。短い呼吸の合間に、十蔵がじっと周囲を警戒した。


「もはや、船ごと爆破するしか……」


十蔵が低く提案するが、源田が首を振る。


「手持ちの火薬はもうない。一旦、外に戻らねば」


そのとき、かすかな足音が背後から聞こえた。荒木が倒れこむおキヌに付き添おうとするなか、岩陰から声が聞こえた。


「旦那方……それは無駄でさあ……」


突然の吉六の登場に、目を丸くする一同。


「吉六、なぜここに?」源田が言った。


吉六は土まみれの顔を上げ、涙を流している。

「火薬は全部使い果たしたんでさあ。竜義隊のみんなは……化け物の大群を相手に、一歩もひかねえで……源田隊長、あんたの命令どおり、見事に守り抜いた……」


その表情で、全員が竜義隊の全滅を悟った。


源田は怒り狂うかと思いきや、静かに「そうか」とだけ呟いた。続けて十蔵が「さすがに源田殿が鍛えた男たちだの」と語ると、「ああ……」と力なく絞り出す。


だが、源田はすぐに目を閉じ、一瞬だけ胸に湧きあがる思いに身を任せた。頭の中を隊員たちと過ごした日々、厳しい訓練をともにした日々のことが駆け巡る。そして、隊員たちの妻や母、そして子供たちの顔があふれんばかり、脳裏を埋め尽くしていく。


(すまん、皆。俺もすぐ追いかけるからな……)


整理できるはずのないさまざまな感情。それを必死で振り払い、源田は刀を抜いた。


「ならば斬るしかない。そうだろ? 和辻」「むろん、それしかないの」源田と和辻は視線を交わす。


「大丈夫かの?」

そう言いながら十蔵が荒木とおキヌを振り返った。荒木は片腕を失った痛みに必死で耐えつつ、刀を杖代わりに体を支えている。おキヌも辛うじて意識が戻ったようだが、血に染まった衣のまま立ち上がるのがやっとだ。


「立てます。まだ……」おキヌの目は死んでいない。

荒木もうなずく。「刀さえあれば、俺は……」


ゴゴゴゴ……!


地鳴りのような音が轟き、船内の壁が奇妙な光を放ち始めた。源田がサッと身構えると、まるで地割れが起きるかのように金属質の振動が下から突き上げてくる。


「なんだ……この揺れは……!?」


荒木は「落盤か……?」と反射的に辺りを見回す。天井はきしむような振動を伝えてきた。あるいはあのムカデが爆薬を仕掛けているのかもしれない——そんな不安が一同の脳裏をよぎる。


「落盤じゃねえ……地震か?」


吉六が土埃を払いながら震え声で告げる。

源田は奥歯を噛み、「とにかくここを脱出だ!」と言い放つ。傷ついたおキヌと荒木を後ろで支え、十蔵が先頭に立って狭い通路を進む。

壁が脈動するように動き、まるで生き物そのものが揺れているかのようだった。


「船の入り口を目指せ!」


源田の短い指示を合図に、迷路じみた道を必死にたどる。道中、“フシュー”という微かな呼吸音がどこかから聞こえたが、化け物の姿は見当たらない。

下から突き上げるような衝撃に何度も膝をつきそうになるが、どうにか踏みこらえる。


曲がりくねった通路をまた一つ抜けたとき、十蔵はふと右手の壁面に奇妙な光が差し込むのを見つけた。


「……あれは?」

僅かに首をかしげ、壁の亀裂らしき箇所へ近寄ると、朝日のような淡い光がそこから射し込んでいる。


「外……なのか?」

源田が息を呑む。吉六がぶるぶる震えながらつぶやいた。

「船底が割れてるんじゃねえのか……?」


荒木はその光を見ながら、頭が混乱していた。ともかく覗いてみるしかない。十蔵が手でヒダのような部分を押し開くように裂くと、透明な窓のような膜が見え、その向こうに広がる風景が目に飛び込んだ。


「こ、これは……!」

朝焼けに染まる田園風景だった。畑と川、そして小さな集落。見慣れた地上の景色が、はるか下に広がっている。そこを雲がゆっくり横切っていた。


「まさか……空を飛んでいるというのか?」


荒木が思わず声を震わせる。先ほど感じた揺れや風は、落盤などではなく、この船自体が上昇した振動だったようだ。


朝日に照らされた大地が、どんどん小さくなっていく。徐々に上昇しているのがはっきりわかる。

おキヌが岩壁にもたれかかるようにしながら、息を小さく飲む。


「嘘でしょう……私たち、空に……」



“フシュー……”


かすかな息遣いが遠くから聞こえた気がした。

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