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17.船の外

「隊長たちは本当に戻ってくるんでしょうかね……」


竜義隊の面々は固唾をのんで船の入り口の先に広がる暗闇を見ていた。


 まばらな松明が照らす炭鉱の下層には、船を取り囲むように岩壁や崩落の痕が広がり、いつ何が飛び出してきてもおかしくない。彼らは源田不在のあいだ、留守を守る形で周囲に陣形を敷いていた。


 呟いたのは年若い竜義隊員だった。苛立ちと不安が入り混じった声に、仲間が「黙れ、動揺を口にするな」と制する。だが、皆その気持ちは同じだ。船の奥には恐ろしい化け物の巣があると聞いている以上、三人だけで大丈夫なのかという疑念がどうしても湧いてくる。


「心配することはない。俺たちは体調の命令に従う、それだけでいいんだ」


 源田の代わりに指揮を任されている男──大柄で彫りの深い顔をしている村上という隊士──が静かに声をかける。しかし、漂う緊張感は一向に消えはしなかった。もし、あの恐ろしい化け物が外から戻ってきたらここで迎え撃たねばならないのだ。


 周囲はいやに静かだ。奥からは時折、船の脈動とも思える重低音が伝わってくるだけ。岩壁に耳をすませば、かすかな風が吹き抜けるような乾いた音──


「……ん?」


 村上の隣で警戒に当たっていた別の隊員が、小さく呟いて刀の鯉口を切った。何かが動いている。よく見ると、かつて炭鉱夫たちが資材を置いていた痕跡のある横道の暗がりで、黒い影がうごめいているのが見えた。


「来た!」


 その声と同時に、すぐ傍にいた若い隊員が銃に手をかけようとして息を呑む。そこに立ちはだかるのは、蝙蝠でも犬でもない異様な四肢を備えた化け物。硬い殻のような体躯が光を反射し、天井を這うようにして静かに近づいてくる。


「フシュー」


 低い呼吸音が聞こえた瞬間、村上が素早く号令をかける。


「撃ち方用意――構え!」


 しかし、狭い炭鉱の空間では火縄銃や新式リボルバーを一斉に撃てば落盤の危険が高い。何発までなら許容か、判断が難しい。さらに、背後から二匹、三匹と続々と迫ってくる気配がする。オスの化け物が集団で帰巣してきたのだろうか。


「お、俺たちだけで食い止められるのか……!」


 若い隊員が怯えつつも銃口を向けるが、化け物は壁を素早く走り、一気に間合いを詰め、隊員たちの目前で不気味な影を落とす。仲間も刀を抜くものの、こんな怪物を相手に白兵戦をせざるを得ないとは想像もしていなかった。


「させるか……! 皆、陣形を崩すな!」


 村上が叫ぶや否や、化け物の一匹が宙を飛ぶように跳躍し、甲高い音を立てて手前の隊員へ斬りかかる。激しい金属音が響き、火花が散った。間一髪、刀でどうにか凌いだが、圧倒的なパワーに腕が痺れる。


「うわあああっ!」


 悲鳴に近い声を上げながら、隊員たちは必死に持ちこたえる。背中合わせに隊列を作り、一方が防いでいる間に他方が横から斬りかかる、あるいは短い距離での銃撃を試みるなど、必死の連携が繰り広げられた。


「撃てる者は一発ずつ撃て! 落盤を起こすなよ!」


 村上の指示でリボルバーの隊員が一発だけ撃つと、血飛沫こそ上がるが、化け物は動じない。喉かどこかに当たっても仕留めるには至らないらしい。逆に怒りを買ったのか、化け物が壁を蹴って高速で迫る。


「くそ……こいつら、本気で戦えば一瞬で全滅だ!」


 どうする、火薬を使うか? だがこんな近距離で爆破すれば、自分たちも逃げ場を失いかねない。


「耐えろ……俺たちが倒れたら、船の中の隊長たちが挟み撃ちに遭う。そんなこと……許されるか……!」


 村上が汗を滴らせながら声を上げる。竜義隊員たちの士気はぎりぎり保たれているが、既に重傷者が出てもおかしくない状況。実際、甲殻を持つ化け物の一撃を受けて、膝を崩しそうになっている者もいる。


 “フシュー、フシュー”と激しさを増す呼吸に、いまにも首を刎ねられそうな恐怖が隊員を包む。それでも彼らは、指を震わせながら銃に弾丸を装填したり、仲間を守るため剣を振るったりと、必死の戦いを続けるのだった。


「な……なんとか押し返すんだ!」


 後退すれば船の入り口にまで化け物が雪崩れ込み、内部へ突入される。そうなったら源田たちも危うい。竜義隊員たちは、己の命を懸けて盾となる覚悟を固める。それが、彼らに与えられた任務。

 地面を蹴り、壁を這い、凶器のような爪や尻尾で攻撃する化け物たちとの死闘は、いま始まったばかりだ。外の竜義隊も、また自分たちだけの地獄を目前にしていた。

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