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バッドエンドのその先へ【総合5000pv突破感謝】  作者: 蕩けた蜂蜜ウサギ
第0.5章 追憶の先にあるもの
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第二十二話 ある日の一幕③

皆さまが残業戦士にならないで済む事を祈っております。


【ver.マリー・スミレ】



 カチャカチャとコントローラーを操作する音と共に、テレビ画面からは軽やかな電子音が鳴り響いている。



「そう!その調子だよ!」


「・・・呑み込みが早いね。流石はわたしたちの妹弟子。」



 マリーとスミレ、それからリンドウは一室でテレビゲームをしていた。


 画面上では特徴的なキャラクターたちが忙しなく動いている。状況から見て三人は共闘して敵MOBと戦っているようだ。

 二人は順当に慣れていくリンドウを褒めながらプレイを続けていく。



「よーし、後ちょっとでボス戦だ!」


「・・・どんどんいくよ。」


(・・・平和だ。)



 災害との駆け引きは無く、命のやりとりも無い。リンドウはこの瞬間を平和だと感じていた。

 ワルキューレとしての職務から離れ、こうして遊んでいる二人の姿は何処にでもいる普通の女の子みたいだ。張り詰めた雰囲気は無くリラックスしている。


 リンドウは彼女たちに呼ばれて寮室へとお邪魔していたのだった。



「あ、こっちのお菓子も遠慮なく食べてよ!」


「・・・飲み物のおかわりもある。」


「・・・ありがとう?」



 二人はリンドウに机の上に並べられた食べ物や飲み物をあれもこれもと勧めている。

 何処か芝居がかかったようにも見えるがリンドウは余り疑問には思わなかった。何せ普通に遊ぶという経験がまともに無かったから、何が変であるのかも分からない。


 娯楽の結晶であるゲームも、複数人でゆったりと過ごすのも新鮮だ。



「・・・やられた。」



 画面ではリンドウの操作していたキャラクターがダメージを受けてダウンしてしまった。とはいえ初心者にしては健闘した方だろう。

 リンドウの表情は殆ど変わっていないながらも何処と無く悔しそうだ。



「ボクたちに任せて!」


「・・・仇は取る。」



 リンドウがダウンしてしまったのを見て二人が意気込んで連携してボスへと攻撃を加えたていく。

 そのまま見事なコンビネーションによってステージをクリアした。



「よーし、ステージクリア!リンドウに出来ない事はボクたちに任せてよ!」


「・・・三人で一人前。」


「・・・うん。」



 有限実行した二人は何処と無く得意げだ。元々はマリーとスミレの間での口癖であった二人で一人前という言葉は、今ではリンドウも含めた三人で一人前というものに変わっている、

 一人前の動きをするのに三人必要という意味ではなく、力を合わせればどんな事にも対処出来るという意味合いで言っているのだろう。



「そろそろ休憩しようか。結構長い時間遊んでたし続きはまた今度にしよう。」


「・・・うん、また今度。」


「・・・分かった。」



 一区切りがついたからかマリーたちはコントローラーを机へと置いた。確かに時計に目をやればそれなりに時間が経っていた事に気がつく。思っている以上に熱中していたようだ。

 訓練ではないとはいえ休憩は必要だ。マリーとスミレの言葉に頷いてリンドウもコントローラーから手を離した。



「その、・・・今日来てもらったのはリンドウにちょっとお願いしたい事があったんだ。」


「・・・手を貸して。」



 そもそもの話だ。リンドウが彼女たちの部屋へとやって来たのには理由があった。

 何か用事があるからと事前に言われていたのだ。その事をリンドウは今になって思い出した。決してゲームというものに夢中になっていた訳ではない。


 だから、これから言う事が彼女たちの言う本題になるのだろう。リンドウは姿勢を正した。



「・・・何でも言って欲しい。」



 普段の活発な様子とは違い、歯切れが悪くかなり言い辛そうだった。それほど重要なことなのだろう。

 彼女たちには沢山助けられていることもあって、リンドウは出来る限りのことをしたいと思った。


 受けた恩は返せる時に返すべきなのだろう。



「うー、・・・その、この前リア姉さんを怒らせちゃって。」


「・・・?」



 怒らせたという言葉を聞いてリンドウは先に疑問を覚えた。アルメリアが怒っている姿を想像出来なかったからだ。勿論マリーとスミレの行動にアルメリアが苦言を呈すことは確かにあったが、どれも本気で怒っている訳ではなかった。

 だからリンドウは何が原因で怒らせる事になったのか気になった。



「まあ、怒らせたって言うのは誇張し過ぎたかもだけど・・・。」


「『他の支部に行ってみませんか?』、・・・なんて言われたんだ。」


「だから、気づかない内に何か怒らせるようなことしたんじゃないかって。」


(・・・なるほど。)


 

 スミレなアルメリアの話し方に寄せて言われたことをリンドウへと伝えた。結構声真似が似ていた。

 話を詳しく聞けば、アルメリアはかなり唐突に他の支部への移動を薦めたそうだ。ただ、完全に支部を移り変わるという訳ではなく短期的なものだそうだ。



「本当に急なことでびっくりしちゃったよ!それで、考えておいて下さいなんて言われて、呆然としてたら聞き返しそびれちゃった。」


「・・・どんな理由でも支部を離れたいとは思わない。」


「うんうん、リンはどう思う?リア姉さん怒ってるかな?」


 

 そもそもとしてアルメリアと付き合いの一番短いリンドウに聞くことが合っているのかという事は一先ずおいておくとして。

 もっと急を要することなのかと思ったが、そうでもないと知ってリンドウは内心でほっとしていた。



(・・・多分、考えすぎな気がする。)



 まず大前提として支部間の移動は珍しいものだ。よほどの事情が無い限り支部を移り変わることは無い。

 リンドウの場合はその特異性の件が絡んでいたからこそのものである。


 とはいえ短期的なものであれば話は変わってくる。

 シオンがリンドウをイミルナ支部へと送り出したのと同じ理由であれば分からなくもないものだ。一種の武者修行と思えばいい。そう結論付けたリンドウは二人に己の考えを伝えることにした。



「・・・怒っているとは思わない。きっと、大丈夫。」


「うーん、リンはそう思う?ボクとスミレだと付き合いが長い分あれこれ考えちゃうんだよね。」


「・・・リア姉さんは普段からいろんな事を考えてるから、不安。」



 二人は何か別の考えがアルメリアにはあるのではないかと思っているようだった。リンドウにこうして聞いたのは異なる視点からの考えが聞きたかったのだろう。



「悩み事があってもリア姉さんはボクたちに頼ってくれないから困りものだよ!」


「・・・いつもはぐらかされる。」


「うんうん、だからボクたちは勝手にやりたいことをやるんだ。」



 マリーはリンドウにウィンクをした。その表情はイタズラが成功した子供のように無邪気だ。



「という訳でリン、これから用事に付き合って貰ってもいいかな?」


「?・・・大丈夫。」


「よし、それなら善は急げだね、出発しよう!リン、行くよ!」


「・・・何処へ?」



 結局彼女たちの言うお願いがなんだったのかを理解出来ずリンドウは少しだけ首を傾げた。

 リンドウは一つ勘違いをしていた。彼女たちの用事は別にアルメリアが怒っているかどうかを確認するものではなかった。


 彼女たちはそんなことで悩むよりも、その時間を使ってアルメリアの負担を減らしたり、リラックス出来るような方法を考えるのだ。



「何処って、プレゼントを買いにだよ?あっ、リンにはまだ教えてなかったかな。」


「・・・もう直ぐリア姉さんの誕生日。」


「いつもリア姉さんはみんなの事を気遣ってる。だから、盛大にお返しをしないとね!」



 二人がリンドウを呼んだ理由はアルメリアへの誕生日プレゼントを買う為だった。

 やっと事態を把握したリンドウは随分と気持ちが軽くなった気がした。人間関係というものに触れたばかりの初心者では、まだまだ難しい問題であった。何にせよ、マリーとスミレがアルメリアと喧嘩するような事は無さそうで安心した。



「プレゼントは何がいいかな?」


「・・・ペンダント?」


「おー!攻めるね!・・・うーん、よし!どうせならみんなを巻き込もうかな。」


「・・・いいね、流石は妹弟子。良いアイデア。」


「・・・?」



 ぐいぐいと引っ張られていくリンドウ。奥手なリンドウを連れ出すにはこれくらい強引な方が良いのかもしれない。


 なんであれ三人は楽しい時間を過ごすのだろう。






【ver.エリカ】



 見慣れた姿を見つけてリンドウは足を止めた。

 そこにはベンチで休憩しているエリカの姿があった。本を読んでいるようだ。普段は任務か訓練中でしか会う事が無かったので違った印象を受ける。リンドウのもつエリカに対するイメージは静よりも動なのだろう。


 

「・・・?」


「なによ?・・・はぁ、立ってないで座ったらどう。」


「・・・有難う。」


「こんなことで礼なんてする必要ないわよ。」


 

 エリカがリンドウの事を認識すると呆れたようにそう提案をした。促されるままにリンドウは静かにベンチへと腰を下ろす。エリカは本へと視線を戻した。

 二人の間に沈黙が流れる。どちらかが話し始めでもしない限りはこの状態が続く事だろう。


 先に音を上げたのはリンドウの方だった。リンドウはエリカへと会話を投げかけた。



「・・・訓練はしないの。」


「ふん、詰め込み過ぎたら逆効果になるわよ。休むことも訓練の内。」


「・・・なるほど。」



 確かにその通りだとリンドウは納得した。訓練した時間がそのまま強さに反映される訳ではないのは良く理解している。効率を求めるのであれば適度な休憩も必要だ。

 だからこそエリカはこうして休んでいるのだろう。



(・・・こうして休んでいるのは合理的なのに何故だか違和感を感じる。)



 ただ普段見ていた姿が殆ど訓練している姿である為かリンドウは物珍しさを感じていた。


 こうして落ち着いて考える時間があると今になって思う事があった。

 ルースト支部にやって来る者は何かしらの問題を抱えている。リンドウはその事についても耳にしていた。



 リンドウには災害を引き寄せてしまう不運がある。イレギュラーを呼び寄せてしまう体質は作戦には不向きだ。



 カルミアは自己犠牲の気があると言えるのだろうか。一人で残される事を嫌っているように感じた。誰かを守る為に彼女は動いてしまう。



 ユリはまだ子供だ。前線に出る年齢では無い。戦力は確かに高いが本来であれば、まだ戦うべきではないのだろう。



 ルビアは極端にコミュニケーションを避けている。シオン隊にいる時でさえ会話は最低限であり、まともに会話をしているのはリンドウに対してのみだ。



 そして隊長であるシオンは、優し過ぎるのだ。



 リンドウはエリカへと視線を送った。それに気がついたのかエリカもリンドウをちらりと見た。



「何よ。」


「・・・何でもない。」


「そ。」



 エリカはどうだろうか。多少は人付き合いを拒絶している節があるが、会話が出来ない訳ではない。任務中での指示には従っており訓練にも熱心で、戦闘能力も高い。

 他の人にそれらしい理由は見つかるが致命的な理由はエリカからは思い浮かばなかった。


 リンドウの知らない理由があるのかも知れなかった。



「この前。」


「・・・?」


「この前、イミルナ支部に行ったのよね。」



 何も言わなくなったリンドウにエリカが言葉を投げかけた。

 どうやらエクサルス大森林での任務の前の事を言っているようだ。その事を話題に出したエリカの様子は何処か上の空だ。なんてことは無い世間話のように、ともすれば独り言のように話した。



「あっちで訓練してたって聞いてるわ。」


「・・・うん。」



 どこか的を射ないエリカの普段しない話し方。

 エリカが言葉選びに迷っているのが伝わって来た。ただ、ぽつりぽつりと言葉を重ねていく。



「それで、・・・あの人はどうだった。」


(誰のことだろう・・・?)



 あの人と聞いて一瞬誰の事か分からなかった。ただ訓練と前置きしたのであれば対象は自ずと絞られてくる。

 リンドウは一番可能性の高そうな人物の名を口にした。



「アルね、・・・アルメリアの事?」


「・・・そうよ。」



 エリカは名前を聞いて少しだけ強く目を閉じた。何かを考えているのだろうか、それとも何かを思い出しているのかも知れない。



「強かった、・・・それにたくさんの事を教えてくれた。」


「そう。・・・そう、でしょうね。」



 エリカはリンドウの言葉を聞いて顔を僅かに伏せた。


 普段と様子の違うエリカにリンドウはとあることを思い出す。

 彼女は以前、ワルキューレとして戦う理由に『自身を許せないから』と言っていた。であれば、彼女から感じられる後悔が少なからずそのことに関係しているのかもしれなかった。



「アンタは『優しい狼』って知ってるかしら。」


「・・・?」


「本の題名よ、それで知ってるの?」



 そう言って読んでいた本の表紙をリンドウへと見せた。唐突なことに首を傾げる。



「・・・読んだことない。」


「まあそこまで大した内容でもないわ。」



 どんな本かも知らないリンドウへとエリカはざっくりと内容を纏めて教えてくれた。



『それは群れの仲間の為に羊の群れに忍び込んだ狼の物語。


目的は羊を逃がさないように狼のテリトリーに誘い出すことであった。


しかし、羊に絆された狼は出来なかった。


そこへ痺れをきたした仲間の狼がやって来た。


心優しい狼は羊を助けられなかった。』



 リンドウはその話を聞いてあまり好きな物語ではないと感じた。

 頑張っている人には幸せであって欲しいと思っているリンドウには、この誰も救われないような物語が好きではなかった。誰かの為を思っての行動が無駄に終わってしまうのは悲しいだろうから。



「・・・もし。」



 エリカはまたポツリと呟いた。



「もしこの狼みたいに取り返しのつかない間違いをしたとしたら、・・・アンタはどうする?」



 それが彼女の内にある疑問だったのだろう。言ってからエリカは自分が何を口にしたのかを理解した。

 エリカは小さくため息を吐いたあと、この話題を切り上げようとした。



「・・・いえ、今のは忘れ。」


「まずは、・・・謝る、と思う。」



 エリカがこうして口に出したという事は少なくとも聞きたい事なのだとリンドウは理解した。


 リンドウにとってエリカは同じ部隊の大切な仲間だ。それはエリカ側がどう思っていようとも変わらないリンドウの気持ちだ。

 他のメンバーにも言えることではあるが、これまで何度も助けられてきた。戦闘の面でも、心の面でも。


 後悔があるのなら残しておくべきでは無い。解消が出来るのなら動くべきだろう。だからエリカの言葉を遮ってまでリンドウは答えていた。



「その間違いで被害を受けた人に謝る。」


「・・・そうね。そうするのが普通よね。」



 取り返しのつかない間違いというものを理解しているとは言い難いけれど、それがリンドウが思いついたことだった。

 それは彼女の欲しかった答えだったかは分からない。ただ、彼女の表情は変わらなかった。


 エリカはリンドウの返答を聞いた後、ポツリと言葉を続けた。それはリンドウに対しての問いというよりももっと別の仲間かだったのかもしれない。



「でも、この狼は・・・誰に謝ればいいのかしらね。」


「・・・それは。」


(・・・羊?それとも仲間の狼?)



 リンドウは言葉に詰まった。最初は一番の被害者である羊に謝ると答えようとした。

 しかし、仲間であった狼に対しても裏切っているのだ。羊に謝って、狼にも謝ったとして、それは本当に謝罪になるのだろうか。


 それでは自身の犯した過ちに対して謝っているだけで、被害を受けた者への謝罪ではない。その姿は些か滑稽に映ることだろう。



「・・・・・・。」


「・・・いいわ、別に答えが欲しかった訳じゃないもの。」


「・・・でも。」



 エリカは首を横に振った。リンドウはなんとか言葉を捻り出そうとしたが、結局答えは出なかった。



「そこまで真剣になる必要もないわ、これはただの物語で、答えなんてないわ。」



 そうしてリンドウが悩んでいると、そうエリカは言い残して席を立った。






【ver.ユリ】



 雲一つ無い快晴だ。青々とした空が何処までも広がっている。太陽が燦々と輝き大地を照らしつける。帽子や日傘をお供にしたいくらいだ。

 そんな中を二人は外出していた。側から見れば年の離れた姉妹に見えるだろうか。容姿は似てはいないので子守だと思われているかもしれない。


 ユリとリンドウはとある場所へとやって来ていた。普段の生活とは真逆の娯楽に満ちた場所だ。



「もう直ぐ入れそうだよ!」


「・・・うん。」


「楽しみだね!」


(・・・人が多い。)



 ユリは待ちきれないのかアッチを見たり、こっちを見たりとキョロキョロと視線を踊らせている。楽しみにしていただろう事が伝わって来る。別の理由があるとはいえ、リンドウとこうして遊びに来れたことを嬉しく思っているのだろう。


 二人が今いる場所は入場ゲートだ。遊園地へとやって来ていた。

 目の前には多くの人だかりがあったが、漸くユリたちの番になりそうだ。まだ入り口ではあるが華やかな音楽と来場者の賑わい、それから甘い匂いが外まで伝わって来ている。


 リンドウは大きな荷物を背負いながらユリと一緒に開演の時を待つ。



「それでは楽しんで行ってらっしゃいませー!」



 自分たちの番がやってくると入場チケットをスタッフへと渡し手続きを済ませる。スタッフの挨拶を背に受けながら遊園地へと足を踏み入れた。


 活気に溢れた賑やかさが伝わってくる。普段感じることのない非日常に少しだけ気圧された。



「んー、どこから回ろう!リンドウは何から行きたい?」


「・・・分からない。」


「よーし、それならお姉ちゃんに任せてね!」



 自信満々なユリに一抹の不安を感じながらも従う。これまでにリンドウは勿論遊園地になど来た事は無かった。そもそも遊園地という存在を何処かで聞いた事があるような、やっぱり無いようなといったくらいなのだ。

 何処へ行くのか以前に何があるのかさえ知らなかった。そんな調子だったので、リンドウは付き添いくらいの気持ちでいた。



「ほらー!こっちこっち、早く行くよー!」


「・・・。」



 ユリはリンドウの手を握ると勢いよく走り出した。リンドウは転ばない様に気をつけながら手を引かれていく。こうした姿を見ていると年相応の少女に見える。

 ユリの後ろ姿に一瞬視界が二重に交差する。突然の違和感に頭を振った。


 小さな手に引っ張られながら、ただただ、リンドウはこの時間が長く続けばいいとそう思った。



「まずはこれから!メリーゴーランド!ここの次はあっちのコーヒーカップね!」



 最初に案内されたのはメリーゴーランド、その次に行ったのはコーヒーカップだ。どちらも回るアトラクションであり軽快なメロディと華やかな景色が過ぎ去っていく光景は此処でしか味わえないものだろう。

 ただコーヒーカップに乗った際に、ユリが手動の回転機構を回し過ぎたせいで少し目が回ってしまったのはここだけの話だ。ここぞとばかりにユリはリンドウを連れまわしていく。


 その次に訪れたのはジェットコースターだった。曲がりくねったコースが目に映る。

 


「もう少し大きくなったら、またいらして下さいね。」


「えー!そんなぁ!」


「・・・。」



 しかし、身長制限に引っかかってしまって乗る事は出来なかった。ユリはまだ子供で当然身長が足りていない。当然と言えば当然だ。

 例えジェットコースターから落ちたとしてもワルキューレであるリンドウやユリが死ぬ事はないだろうが、ルールを破って乗る訳にもいかない。



「むー、なら次はこっち!」


「・・・分かった。」



 名残惜しそうにしていたユリであったが直ぐに切り替えて次に行く場所を選んだ。パンフレットを閉じて歩き出す。リンドウもしっかりとついていく。

 

 道中で売られていたチュロスを購入し、ついでに飲み物も買ってリンドウとユリは園内を回って行く。

 視界の端にラビの着ぐるみを着たスタッフが映る。



(・・・暑くないのかな。)



 もしリンドウの心の声を聞ける人物がいたなら『中の人などいない』と伝えていただろう。夢の詰まった世界では現実など必要ないのだから。


 ラビがいることからも分かるとおり、この遊園地も例に漏れず天威と関わりのある場所だ。尤も関わりの無い場所を探す方が難しいかもしれない。幅広く手を出していることもあり、普段の生活やこうした娯楽の中にも紛れ込んでいる。

 話によれば様々な分野へのパイプを作っておくことで連携が楽になるとのことだ。災害という怪物の存在は一般人には隠されている。その為の小さな布石というものなのだろう。



「どうぞこちらへ、衣装のレンタルで宜しかったですね!」


「うん!ありがとう!」


「・・・。」


「わっ!とてもお可愛らしいですね!こちらの衣装がきっとお似合いですよ!」



 ユリの目的地は遊園地のエキストラが着ているような服を試着出来るコーナーだった。遊園地内の雰囲気により浸れるようにと追加されたものだ。

 用意されているものの中にはラビの着ぐるみなんかもあれば、アニメキャラクターの服装を模したコスプレ衣装もあった。リンドウには預かり知らぬ世界だった。



(・・・暑い。)



 女性二人に囲まれるシチュエーションは男性なら嬉しい展開だろう。

 リンドウは無表情で棒立ちだ。よく見れば死んだような魚の目をしているかもしれない。というのも理由は明白だ。リンドウが今着ている服装はドレスなのだから。


 側から見れば確かに似合っている。絵本から出て来た人形のお姫様だ。髪を伸ばしていればより映えた事だろう。



「それではごゆっくりお楽しみください!」


「お姉さんありがとう!」


「・・・。」


(・・・何かおかしくないだろうか。)



 最近になって少しだけ違和感を感じ始めたリンドウであるが、この場には助け舟を出す者はいない。男である自覚を持つんだリンドウ、お前は何も間違えちゃいない。

 結局、リンドウはユリと一緒にドレスへと着替えてアトラクション巡りを再開した。



 しかし、辿り着いた先でリンドウは足を止めた。



 アトラクションの外観は華やかな遊園地に似つかわしくないおどろおどろしい雰囲気で、時折り来場者の悲鳴が聞こえてくる。



 ここはお化け屋敷だ。



「・・・危ないかもしれない。」


「?大丈夫だよ、安心して!何かあってもユリが助けてあげるから!」



 リンドウは遠回しに引き留めようとしたがユリが気にした様子は無い。むしろ姉心をくすぐられたのか胸を張ってリンドウに安心するようにと伝えた。リンドウは気が気じゃなかった。

 ユリはより強くリンドウの手を握るとそのまま入り口の方へと引っ張って行った。


 二人の姿が屋敷の中へと消えていく。




◇ ◇ ◇


【ver.???】



 彼女は休暇を満喫していた。久しぶりに連絡の取れた友人と日々のリフレッシュを兼ねて遊園地に来ていた。

 道中で買ったラビ耳カチューシャをつけて気分も上々だ。もふもふとした垂れ耳が特徴的だ。


 あっちこっちと日頃のストレスを吹き飛ばすくらいに遊び倒しながら楽しんでいく。記念にと撮っていた写真がどんどんと増えていく。



「やっぱり味変って大事よね!」


「はぁ、本当に行くのですか?」



 友人が選んだのはお化け屋敷。友人の足取りは軽いものだが、対称的に自分の足取りは重かった。正直、ホラーは苦手なので遠慮したい所ではあるが偶の一回だと渋々了承したのだ。それに、こんなに楽しそうにしている友人に水を差すのも悪いだろう。

 足取りは重いが友人の後ろを付いてお化け屋敷へと入っていく。



「すっごく怖いって評判だよ!こんなの行かなきゃ損でしょ!」


「入る前から怖がらせようとするのはやめて下さい。」


「そんなこと言ってー、ホントは楽しみなんでしょー?」


「いいえ、そんなことありませんから。」



 流石は一大遊園地だけあってお化け屋敷も凝った作りとなっている。友人の言う通りなら見かけ倒しでは無く、実際に怖いのだろう。この選択をしたのを早くも後悔してきた。

 見た目は巨大な洋館だ。館内の明かりは最小限でまるでゲームの世界がそこにあるかのように感じられる。


 案内に沿って進んでいく。外からでも聞こえていた来場者の悲鳴や、バタバタと走る足音がより鮮明に聞こえる。



「めっちゃ叫んでる人いるね!」


「もう、一体どうしてそれで嬉しそうにするのですか。」


「えー!楽しみにならないの?」


「なりません。」



 立体映像が投影され、不気味な見た目の執事がオープニングをつとめる。



『ようこそおいで下さいましたお客様方。』


「わぁっ!びっくりした。」


「本当にそこにいるみたいですね。」

 

 

 大袈裟な身振り手振りを混じえながら、この屋敷について説明をしてくれる。



『 その昔、この館の主は多くの財宝を所有していました。


 しかし彼の死後、どれだけの月日が経とうとその財宝が見つかることはありませんでした。


 それは調査へとやって来た人々が次々に行方不明となってしまったからです。


 やがてとある噂が広まりました。


 それは屋敷の主が死後に怨霊となって彷徨い、やって来た者を連れ去っているのだと。


 しかし、手が届かないものにこそ人は惹かれるものでしょう?


 本日、訪れたあなた方のように。』



 屋敷が呼応するかのようにガタッと揺れた。何処からか笑い声も聞こえる。まるで馬鹿な獲物がやって来たと嘲笑しているかのように。

 この執事の言葉を要約すれば、お客は財宝を見つける為にやって来た命知らずといった立ち位置になるのだろう。



『おや、随分と自信がお有りのチャレンジャーですね。残念ですが此処へは四人以上で入って頂きますよ。』


「へぇー、少人数で入った方が怖そうなのになんでだろ?」


「一人ずつ入りでもしたら今頃入場ゲートまで待機列が伸びているでしょうね。」


「しぃー!!雰囲気台無しだよー!」


「おっと、すみません。」



 スタッフに案内され、もう一組と同時に館内を回る事となった。

 個人的には人が多い方が安心出来る為この仕様に心の中で感謝していた。



『どうぞ次のチャレンジャーの方々、前へとお進みください。無事にこの館から出られるよう祈っております。』


「いよいよだね、心の準備はいい?」


「今からでも帰りたいくらいです。」



 もう一組も女の子二人組みたいだ。顔は暗くてよく見えなかった。一人は同じくらいの年の子で、もう一人は年の離れてそうな少女だ。

 二人ともドレスを身に纏っており、あの衣装貸し出しの店で借りたのだろう。流石に自分には手を出す勇気がなかったので羨ましく思った。


 一人は背中に大きなギターケースを担いでおり、ドレスとのアンバランス差が印象的だった。



(何処かで演奏していたのでしょうか。)



『それではごゆっくりどうぞ。』



 凝った作りの扉をスタッフの方が開けると中へと行くように誘導された。

 扉の先は更に暗く、所々で赤黒い光が灯っている。絶え間無い悲鳴に足音と今から引き返しても間に合うかと考えてしまうほどであった。



「よーし、行こう!」


「探検だー!」



 しかし、そんな考えも束の間、友人ともう一組の方の少女が我先にと走って行ってしまった。

 こうなってしまえば一人だけ帰る訳にも行かない。渋々ながら後を追うことにした。



「もう、どれだけ楽しみだったのですか・・・。」



 歩き出そうとした所でもう一組の置いて行かれた子(なんだか親近感が湧いてきた)が、立ち止まっているのを見て思わず声をかけた。一人置いていく訳にもいかないだろう。



「その、大丈夫ですか?・・・早く行かないと置いていかれてしまいそうですね。」


「・・・大丈夫、有難う。」


「・・・ぁ。」



 思わず息を呑んだ。小さな明かりがこちらを見る彼女の顔を照らした。

 精巧な人形だと言われても納得するほどにアイドル顔負けの整った顔立ち。言うなればコスプレメイクのように完成した美貌だ。漫画の中から飛び出してきたかのような美少女がそこにはいた。



「どうか、した?」


「ぁ、・・・いえ、なんでもないです。」



 彼女は私の視線の先に何かいるのかと思ったのか振り向いた。

 これ幸いにとその隙に息を整えた。流石に見惚れてましたなんて言う訳にはいかない。



「えっと、行きましょうか。」


「・・・うん。」


(可愛すぎないですか!?)



 リアクションまで可愛いとは漫画の中から飛び出してきたと言われても今なら信じてしまいそうだ。

 彼女の手は空を彷徨っており、本当は誰かに手を引いて貰いたいのだろう。まるで幼い子供のような反応にギャップを感じる。


 おっかなびっくりといった感じでゆっくりと歩いており、誰かの悲鳴が聞こえると肩をびくりと震わせている。

 それでもプライドからか決してこちらに近寄ろうとはしない。



(・・・誘ってくれたあの子には感謝しないといけませんね。)



 この場にはいない友人に心の中で感謝した。自分一人であれば息抜きで遊園地にまで来なかっただろう。そうであればこんな機会は一生巡ってこなかった。


 何を隠そう私は可愛らしいものに目がない。しかし、同性の中では身長が高く、何なら男性の平均よりも高い。そのため可愛らしい服というものに、これまでの人生で縁がなかった。

 周囲からのイメージもあって可愛い物を手元に置いておくのも憚られた。



 抑圧された可愛いものが好きという感情が今解き放たれているのだ。

 


 既に此処がお化け屋敷であるという事を忘れてしまっていそうだ。

 目の前に餌を吊り下げられた状況で手を伸ばさずにいられるだろうか。そんな人間はいないだろう。寧ろ手を伸ばさなければ失礼というものだ。


 此処には自分とこの子しかいない。これ以上ない好気だ。気付けばとある閃きを直ぐさま実行に移していた。



「あの、・・・怖いのが苦手で、手を・・・握ってくれませんか。」


「!・・・任せて。」


(勝った!!)



 この女、頭のネジが外れているのだろう。擁護するのであれば日々の仕事疲れ、抑圧された感情、この瞬間を逃せばもうないだろうという焦燥感が重なり合った結果だ。

 彼女は人生で初めて告白するかのような小学生男子の心持ちで勝利を手にした。現実を直視してはいけない。



(もう何も怖くありません!・・・ふふ、早く終わらせるのはもったいな、いえナンセンスでしょう。せっかくのお化け屋敷ですからじっくりと楽しませていただきます。)



 怖いのはお前だ。彼女の内面を知る者がいればそう言ったことだろう。

 犯罪者予備軍であろうとまだ法には触れていないのでギリギリ問題は無い。行動だけ見れば良い人の範疇だ。・・・その方がより怖くないだろうか。



(この手の柔らかさに小ささたまりませんね。守らなければ女が廃るというものですね。)



 微かに震えているのを感じ取り、決意を新たに一歩前を出てホラー演出から守るように動く。

 行動だけ見れば騎士のようにカッコいいだろう。この場に内心を覗ける者はいないのでそれが全てだ。



ーーーイィヒッヒッヒッ!!



 突然の笑い声に彼女はビクリと身体を震わせて握っている手に力を込めた。

 いくら身体で視界を塞いでも音による脅かし要素には無力だ。



「・・・ッ!?」


「大丈夫ですよ、怖くないですから。ただの演出です。」


「こ、怖くない、・・・大丈夫。」



 明らかに無理をしているのが丸分かりだ。口では怖くないと言っておいて、目は極力開けないようにしており手はより握る力を強めている。



(今だけは運命の神に感謝しましょう。)



 このかよわい生き物を連れ帰って大切にお世話すると心に決めた。



 二人は先へと行ってしまったアホの子たちを追いかけるように進んでいく。

 進むペースが遅いこともあってか合流出来る気配すらしない。財宝を探すというストーリーがこの屋敷にあれど、あくまで前へと進むだけのアトラクションだ。つまり謎解きのような要素がある訳でもないので追いつくことは現実的ではないのかもしれない。



(上手くいけばここを出るまでは二人きりでいられますね。)



 そんなことを考えていたからだろうか、事態は思わぬ方向へと転がっていく。



ーーードンッ



 鈍い音に何かが崩れる音が何処かで聞こえた。

 建物の壊れる音に加えて他のお客だろう人の悲鳴。楽しさの混じった悲鳴とは異なる、本当の恐怖を感じた悲鳴だ。明らかに本来想定していないような事態が起きている。



「今の音は・・・。」


「・・・ここで待っていて。」


「えっ、何処へ行くのですか!?」



 一言だけ残すと彼女は走り出して行ってしまった。暗闇の中を少しも立ち止まらずに。先程までの怖がっていた様子はまるで見られない。



(この場所で一人にする訳にはいきませんね。)



 何故自分の周りにはこうも勝手に走り出してしまう人が多いのかと自問しながら後を追いかける。

 待っていてと言われたが、こんな所で彼女を一人にする訳にはいかない。



『 お客様方へ緊急のアナウンスです。


 現在予期せぬアクシデントが発生したため原因を究明中です。


 その場を動かずにスタッフの誘導をお待ち下さい。』



 館内アナウンスが流れ異常事態が発生していることを確信した。

 一刻も早く合流するべきであるが、その後ろ姿は一向に見当たらない。他のお客とすれ違うが、先へ進めど彼女だけがいない。



(一体どこまで行ったのでしょうか?)



 探すことに注視していたせいである事を失念していた。館内を移動するほど危険と遭遇する可能性が高まることを。



「・・・ッ!!」



 目の前に現れたのは彼女たちではなく災害だった。生身の状態で接敵すれば一般人は死あるのみだ。

 壁を突き破り災害が現れた。運悪く壁の破片を踏んでしまい、避けられるような状況ではない。



(まずいっ・・・!?)



 せめてもの抵抗として拳を握りしめるが、視界にあの少女の姿が映った。

 こちらを狙いに定めた災害が鋭利な身体で突き刺そうとする。間一髪という所で浮遊感を感じた。



「・・・怪我はない?」


「は、はい。」



 災害から守るように俗に言うお姫様抱っこで助けられたのだ。


 そもそもとしてユリとリンドウが遊園地に来ていたのか。それは任務によるものだった。

 天威は広く手を伸ばしており、細かな連携をとっている。その一つにエーテル濃度の局所的な活性化の検知と除去がある。


 あくまで局所的なものに過ぎず、災害が形成されたとしても災害との戦闘経験のある者であれば十分対処可能な範疇だ。実際、現れたのは飛行型の小型な災害のみであった。



「・・・よかった。」



 とはいえ一般人には対処が難しい。故にその調査へとリンドウたちはやって来ていた。

 スタッフには支配人から連絡がいっており、ギターケースに隠した武装も呼び止められることもなく持ち込めた。あくまで極秘の任務だ。ここだけの話であるが、災害が現れなければただの観光になるので休暇にもなる。



「・・・直ぐに終わらせるから。待っていて。」



 リンドウは彼女を背にして災害と対峙した。






***






 ドタバタと足音が聞こえる。スタッフが災害鎮圧の連絡を受けて来園者の避難誘導を始めたのだろう。

 災害を討伐した彼女が端末を操作して連絡をしたのだろう。体格に似合わない武器をケースへと仕舞うとこちらへと近寄ってきた。

 


「・・・今のは内緒。」


「わ、分かりました。」



 災害の存在は一般人には秘密だ。本来であれば天威の関連施設で事情聴取が行われるものだが、被害が限定的であればその場のワルキューレに判断は一任される。

 実際ネットでこの事を書こうと信じてくれる人はいない。良くて都市伝説、もしくは釣り扱いだ。



「ん、・・・それと。・・・その、有難う。守ってくれて。」


「ぁっ、・・・はい!!」



 何はともあれ無事に任務は完遂されたのだった。




***




 緊急のメンテナンスということでお化け屋敷から来園者の避難が済んだ頃。

 アトラクションの周辺にはまばらに人が残っていた。暫く入れないのであれば仕方ないとその数を減らしていた。その中には彼女たちの姿もあった。



「セットが壊れたみたいでさ、誰も怪我とかなくてよかったよー。」


「ええ、本当にそう思います。それと、次は置いて行かないで下さいよ。」


「あはは、ごめんごめん。」



 視界には彼女が写っている。明るい場所で見るとより際立って見える。

 先程まで身の丈にも迫る大剣を操っていたとは到底思えない華奢な身体だ。



「リン!ごめんねぇ!」


「・・・大丈夫だから。」



 遠ざかっていく二人を流し見する。あちらも無事に合流出来たようだ。

 被害は建物だけと考えれば最悪の事態は免れたという事なのだろう。謎の怪物に襲われ可愛らしいお姫様に助けてもらうというシチュエーションは中々見ないものだ。一般人であれば今日のことは夢のように心の内で消えていくものであった筈だ。



「可能であれば、・・・もう会うことがなければいいのですが。」


「ん?何か言ったアイビー?」


「いいえ、何でもありませんよ。」



 アイビーは奇妙な縁を感じながらその場を離れた。



「それはそれとして可愛らしかったですね。」


「あれ?何か嬉しいことでもあった?すっごく嬉しそうじゃん。」


「さて、どうでしょう。」


「もー、勿体ぶっちゃって!」






◇ ◇ ◇



 ユリとリンドウの二人は観覧車に乗っていた。

 ゆったりと空へと上っていき景色も色づいていく。無事に任務も終えてこの時間を満喫するだけだ。


 初めての遊園地を巡りはリンドウにとって記憶に残るものだった。未だに娯楽全般に疎いとはいえ、この場所がどうして生まれたのかが分かった気がした。

 すれ違う人が皆笑顔で笑い合える場所。だからか、災害が現れた時にいつもよりも剣を握る力が強くなったのは。



「また絶対来ようねリン!今度はお仕事なしでだよ!」


「・・・。」



 泣く子はどこへやら、幼い少女が満面の笑みでリンドウへと微笑む。リンドウは何故だかその光景を見て言いようのない感覚を覚えた。


 時折り彼女はリンドウの事をリンと呼ぶ。普段はリンドウと呼んでいるにも関わらずだ。

 勿論、気分で呼び名を変えているのかと思いもしたが、本当にふとした拍子にリンと名前を呼ぶのだ。


 名前を縮めて呼んでいるだけ、それだけだと思っていたが一緒にいる内にあることに気づいた。

 彼女がリンドウのことをリンと呼んでいるとき、リンドウを見ているようで別の何かを見ているような感覚がするのだ。自分を見ているようで、その奥にある何かを見ているような。



「どうしたのリンドウ?」


「・・・何でもない。」



 どうやら気づかない内に長考してしまっていた。ユリが不思議そうにこちらを見ている。

 きっと考えすぎだとリンドウは思考を打ち切った。結局の所は全て主観に基づいた一方的なものに過ぎない。ユリが何を考えているのかは、本人にしか分からないのだから。



「あっ!見て見て!夕焼けがとっても綺麗だよ!」


「・・・そうだね、綺麗だ。」



 街が夕焼けに染まっている。美しい景色は心に安らぎをもたらした。






0.5章はこれにて完結です。ここまで読んで下さった方々に感謝を。

感想や評価等頂けると執筆の励みになります。

(0.5章をもう一度加筆する予定なので第一章を投稿するのはまだ先になりそうです。)


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