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バッドエンドのその先へ【総合5000pv突破感謝】  作者: 蕩けた蜂蜜ウサギ
第0.5章 追憶の先にあるもの
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第二十一話 追憶の先にあるもの


 リンドウたちは走った。ルビアがドアのロックを解除した後、急いで来た道を戻ってシオンたちと合流した。



「リンドウ・・・。」


「ヴァールは・・・?」


「彼女は、・・・もう。」



 リンドウたちが再びラプラスがいる部屋へと到着した時、全てが終わった後だった。戻って来たリンドウたちを見てシオンが悲しそうに目を伏せた。

 シオンたちはヴァールを助け出す事が出来なかった。そもそも最初から彼女は助けなど求めてはいなかった。生き残る事を考えてもいなかったのだろう。



 花びらが宙を舞う。粒子となってキラキラと輝いている。桜吹雪が舞うように、その光景は美しくも何処か寂しげにさせる。



 彼らの記憶に触れた気がした。






◆ ◆ ◆



「ヴァールちゃん。悲しまないで欲しいっす、・・・何も悲しむ事なんてないんすから。」



 三人が走って行く。その内の一人は今にも引き返して来てしまいそうだ。上げた手を下ろし振り返る。暴虐の足音が聞こえる。視界には至る所に傷跡を残しながら迫る災害の姿が多数映っていた。

 男の手のひらには花びらが一枚のせられている。小さく笑みを浮かべ大切に仕舞った。



 役目は単純明快だ。彼女が無事にこの施設から脱出出来るように時間を稼ぐ事。手に持っている弓を強く握りしめた。



 あの子は優しいから悲しむのだろう。でも、いつか乗り越えられる日がやって来る。彼女ならその日に辿り着ける。ウルは頭の片隅でそんな事を思っていた。



 だから、彼女が歩き出す為の道を整えるのだ。



「・・・さーて。休む前に、一仕事終わらせるっすよ。」



 緩やかな動きで矢をつがえる。弦を引き絞り、矢が放たれた。

 瞬く間に一矢、ニ矢と速射された弓矢が数匹の災害の核を貫いた。


 災害に接触した衝撃でエーテルが矢を覆い強化を施す。放たれた矢は容易く災害を貫いてみせた。ただの弓矢ではない、エーテルを生み出せないものでも扱える対災害用の武装だ。



 崩れ落ちた災害に足を取られ道が詰まる。彼らの何とちっぽけなことか。その光景を見て、長年苦しめられてきた存在が途端に小さく見えた。



 彼の心は十分に満たされていた。



「お前はだらしない何てよく言われるっすけど、これでも手を抜いた事はないんすよ?」



 酷いっすよねー、と世間話でもするみたいに言った。誰に聞かせるでもない独り言。

 押し寄せる数多の災害に微塵も恐怖を感じていない。その瞳にあるのは過去を懐かしむ優し気な色だけだった。


 災害が屍を乗り越えてやってくる。その歩みを止める様子はまるで無い。



「何ていうか、やり切ったって言う感じっすかね。」



 一分、数分、十分と時間が過ぎていく。



(・・・流石に数が多いっすね。)



 一手のミスが全てを瓦解させる状況で針に糸を通すように耐え続ける。圧倒的に不利な環境の中で無傷ではいられず、段々とその身体に傷が刻まれていく。

 矢は的確に災害の急所を貫いていくが処理が追いつかない。人一人の力はちっぽけなものだ、数には敵わない。矢の量も十分とはいえない。



「ほんと・・・悪くない人生だった。」



 やがて、災害がウルへと辿り着き、その剛腕が振るわれた。

 時間としては十分だろう。足止めとしての役目は十分にこなした。生み出した戦果は誇れるものだ。



 床を大きく損壊させ、土煙が舞う。




「だから、・・・。」




 煙を突き破ってエーテルで構成された矢が現れ災害を削り取っていく。

 簡易の展開型エーテル壁によって災害の攻撃は逸らされウルへと届いてはいなかった。まるで疲労を感じさせない力強さが迸っている。



「アンタら、目障りなんすよ。」



 災害はいつだって大切な人々を奪い去っていく。美しい思い出は災害によって影が差す。白と黒、はっきりと別れた色はお互いを際立てている。

 鋭い眼差しが災害を射抜く。その瞳には確かな怒りが込められていた。



(・・・もうひと頑張りするっすよ。)



 ヴァールも、ラプラスもこれからも頑張り続けるのだ。それがどのくらいの時間になるかは分からない。けれど、そんな彼女たちの前で無様に倒れるなんて真似をすれば笑いものだ。

 そんな光景を思い浮かべてウルは小さく笑みを浮かべた。



「ここから先に行かせはしない、なんて甘っちょろい考えだと思わない事っすね。」



 空になった注射器が地面へと落ち音を立てる。

 ウルのエーテルへの適性は決して高いものでは無い。一般人より多少は保つ程度だ。加えてエーテルを自ら生成する事は出来ない。



 なら、どうするか。外部から取り込むしかないだろう。



 体内にエーテルを取り入れて、一時的にエーテルを扱えるようにしたのだ。ただ、これは無理矢理ブーストしているに過ぎない。

 身体はエーテルの侵蝕に耐え切れず崩れ去るだろう。残された時間は多くない。



 それでも目の前の災害を打ち倒すには十分過ぎる時間だ。



「一匹たりとも逃さないっすよ。」






◆ ◆ ◆



「ヴァール、どうか泣かないで。・・・そうじゃないと寂しいわ。」



 二人を見送る女性が一人。別れの言葉としては簡素過ぎるだろうか。

 道を別れ、彼らとは別の方向へと災害を誘導していく。災害がヴェルの元へと勢いよく流れ込んでいる。



 受け取った花びらを優しく撫でた。



(・・・悪い癖ね。もうあの子は子供じゃない。)



 いつまで経っても子供のように見てしまう。彼女は立派に成長した。ウルがそうであったように。

 ウルとヴァールは似ていた。二人は助けられた側の人間だからだ。だからだろうか、ウルはヴァールの事をよく気にかけていた。


 今という時間はやがて全てが過去に埋もれる。辛い事も、悲しい事も全部がだ。ただ、それは決して悪いことではない。いつかそれは、歩く為の強固な道になる。

 あの子は自分の足でこれからも歩いていける。



「ほら、こっち。貴方たちの目標は此処よ。」



 狙い易い位置へと移動する。災害の攻撃を誘う。獲物は此処にいると見せつける。

 まんまと誘いに乗った災害が近づいてウルへと攻撃を加えようとした。



「遅過ぎるんじゃない?もっと、やる気を出しらどう。」



 気づけば災害は振り抜かれた刀によって両断されていた。後の先、この距離は既にヴェルの領域だ。

 淡々と災害を斬り刻んでいく。武装に内蔵されたエーテルが途切れれば、カートリッジを取り外し流れるように付け替える。刀身は再びエーテルを帯びた。


 死はありふれたものだ。生きとし生ける生命には必ず終わりがやって来る。だから、今度は自分たちの番が来ただけに過ぎない。

 ヴェルはその事を良く理解していた。それに対して声を荒げるつもりはない。



「本当に、・・・つまらないわね、貴方たち。」



 背後にも災害が生み出され挟撃されたが、ヴェルはそれすらも意に介さなかった。込められたエーテルの斬撃は災害を突き抜け、そのまま壁までも斬り刻んだ。


 やがて訪れる死を受け入れるが、ヴェルは無慈悲な災害の侵略を受け入れた訳ではない。

 あれらの存在に心は無い。慈悲もなく与えられた役割をこなすだけの木偶に過ぎない。可能性とは正反対の存在だ。それ以上でも、それ以下でもない。



「貴方たちという存在が何であれ、同じ舞台に立ったのだから覚悟はあるのでしょう。」



 刀を構え直した。これが最期の戦いだ。その戦いが大切な誰かを守る為のものなら、これ以上ない終幕だろう。



(あの子の行先に、どうか幸運がありますように。)



 例え神様が相手でも、容赦するつもりはなかった。



「一匹足りとも逃さないわ。」






◆ ◆ ◆



「生きるのを諦めるなよ。お前の人生が悪く無いものだったって言えるようにな。」



 隔離壁が重たい音を立てて降りた。もう姿は見えない。

 これからも彼女が立って歩いて行けるかは分からない。それを選択出来るのは彼女だけなのだから。だけど、こんな絶望的な状況にあってなお不思議と心は落ち着いていた。



「ったく。あいつら、張り切り過ぎじゃないか。」



 ウルとヴェルが作り出した時間は十分過ぎるものだった。一向に災害が後を追ってやって来ない。彼は苦笑いをした。同じ気持ちを共有している事を理解したからだ。



 こうして一服する時間だってある。



 ポケットから箱を取り出して、中から一本の

たばこを取り出す。

 使った様子の無い新品のライターを取り出す。カチッ、カチッと音を鳴らしライターに火が灯る。揺らめく炎の温かさは変わらずそこにある。



「ちっ、つかねえな。・・・しけってやがるぜ、まったく。」



 しかし、タバコに火がつく事は無かった。結局、主任はタバコを吸う事を諦めたようだ。

 そこへ新たに生み出された災害たちがやって来る。



「おいおい遅刻かぁ?もう少しで寝ちまうとこだったぜ。」



 しかし、災害たちは主任の元へと辿り着く前に次々と倒れていった。災害が次々と足止めを受け上手く進めていない。

 それは通路に張り巡らせられた数々の罠だった。災害の歩みを鈍重なものへと変えている。



「ここは俺の、・・・俺たちの家だ。土足で上がってただで済むなんて思ってねえだろうな。」



 罠には限りがある。現れる災害が増えていけばやがて機能しなくなる。加えてどれも罠の威力が足りていないのか災害を倒すには至っていない。

 けれど主任に慌てた様子は見られない。全てが予定調和に過ぎないからだ。


 数多の災害が迫ってくる。それを見ても一歩も引き下がる様子は無い。



「お前らはここで終わりだ。俺が責任もって地獄に落としてやらあ。」



 端末を操作するとドローンが空中を駆けていく。これも研究の副産物であるが使えるものは何でも使う主義だ。

 ヴァールの特性を模倣し再現した特殊武装。エーテルを集める事が出来るのなら、エネルギーに方向性を与える事は容易い。



 周囲の純エーテルが収束し閃光を撒き散らす。



(生きろよヴァール。止まったって、失敗したっていい。だが、・・・まずは生きてなきゃ始まらねえ。)




 配置した複数のドローン装置を使いより広くから純エーテルを収束させ、一点へと集めていく。廊下に仕掛けられたトラップは災害をその場に留まらせる為のもの。全ては飽和したエーテルを消費して災害を一掃する事。

 ドローンが展開され巨大な砲台に変形していく。



(そんで、自由に生きろ。・・・まっ、負けず嫌いのお前が立ち止まっていられる訳ねえかもしれないがな。)



 収束させたエーテルがやがて圧縮され球体へとなる。小さく、小さくなったそれは見た目に反比例して威圧感を放っている。


 

「まっ、・・・悪くない人生だったぜ。」



 全てが光に呑み込まれて消えていった。






◆ ◆ ◆



 記憶に形は無い。とてつもなく不安定で掴みどころのないものだ。一瞬の様で、長い時間を過ごしたかのような感覚を覚えた。

 まるで夢から覚めたかの全てが泡のように消えていった。



 辺りには静けさだけが取り残されている。



 災害はラプラスとヴァールの戦いに巻き込まれて消滅している。ラプラスが正気を取り戻した事でエーテルの通り道が塞がれた事や、多くのエーテルが消費された事で新しく災害が生み出される様子は無い。



「初めまして新たな人類、私の名はラプラス。これより『明日への方舟計画』は正式に稼働します。」



 ラプラスが前がその姿を見せそう告げた。実体ではなく、その身体はホログラムだ。投影されたものに過ぎず、加えて機能が損傷しているのか時折りノイズが入っている。

 瞳はあの時のように反転したものではなく、普通に戻っている正気に戻ったという事なのだろうか。



「聞きたい事は山ほどあるでしょう。ですが、今は時間がありません。」



 リンドウはラプラスの言う通り今すぐにでも聞きたいことがあった。此処にいる筈の人がいない。口にしてしまえば現実となってしまいそうで言葉を紡げなかった。


 端末に光が灯る。そちらへと視線を向けるとデフォルメされたラプラスの姿が表示されていた。



「直ぐに此処を離れて下さい。」


「・・・確かに此処に留まるのは危ういね。」



 床や壁は綺麗な部分を探す方が難しい有様だ。戦闘の余波で今にも崩れてしまいそうである。むしろよく保っていると言うべきだろう。

 この場所が崩れてしまえば幾ら頑丈なワルキューレであっても助かりはしない。


 ラプラスの言うように急いで離れる必要があるだろう。



「いいえ、新たな危機が迫っています。それも世界規模の災害が。」



 しかし、続いた言葉は予想だにしないものだった。

 この出会いは始まりに過ぎない。終末を呼び込む大罪はまだ終わりを迎えてはいないのだ。






◆ ◆ ◆







 漆黒の中を歩く。



 歩いて、歩いて。



 進んだ先にあるものは、変わらない暗闇。



 それでも歩みが止まる事はなかった。歩く事を止めない限り道は続くのだから。



 気の遠くなるような時間の壁を乗り越えて、一筋の光を掴んだ。




「ヴァール。」



 名前を呼ぶ声が聞こえる。聞き慣れた声だ。居心地の良さからか瞼が開かない。



「もしかして寝ちゃったすか?」



 柔らかな木漏れ日。温かな日差しが辺りを照らしている。



 これは何でもない日だ。特別でもない、普通のありふれた時間だ。



「疲れてるのね、沢山頑張っていたから。ほら、少し休みましょう。」



 髪を撫でられながら、強い睡魔に身を委ねる。 



「ほら、主任も何かないんすか?」


「そうね、一言くらいは欲しいわね。」



 一言で表すなら幸せだ。



 これ以上無い、幸福だ。




「よくやった、ヴァール。」




 幸せだったから、もっと一緒に生きたかったと思ってしまうのだろう。













 漆黒の中を歩く。



 歩いて、歩いて。



 進んだ先にあるものは、変わらない暗闇。



 それでも歩みが止まる事はなかった。歩く事を止めない限り道は続くのだから。



 気の遠くなる様な時間の壁を乗り越えて、一筋の光を掴んだ。




「ヴァール。」



 名前を呼ぶ声が聞こえる。聞き慣れた声だ。居心地の良さからか瞼が開かない。



「もしかして寝ちゃってたっすか?」



 柔らかな木漏れ日。温かな日差しが辺りを照らしている。



 これは何でもない日だ。特別でもない、普通のありふれた時間だ。



「疲れてるのね、沢山頑張っていたから。ほら、少し休みましょう。」



 髪を撫でられながら、強い睡魔に身を委ねる。 



「ほら、主任も何かないんすか?」


「そうね、一言くらいは欲しいわね。」



 一言で表すなら幸せだ。



 これ以上無い、幸福だ。




「よくやった、ヴァール。」




 幸せだったから、もっと一緒に生きたかったと思ってしまうのだろう。






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