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バッドエンドのその先へ【総合5000pv突破感謝】  作者: 蕩けた蜂蜜ウサギ
第0.5章 追憶の先にあるもの
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第十四話 徒花の咲く頃に⑩


 リンドウとヴァールが先へと進み、シオンたちとの合流を目指して行動をしていた時から時間を少し遡る。

 分断されたシオンたちは慌てた様子を見せていた。



「リンドウ!ヴァール!」



 目の前で隔離壁が下りて彼らの間を遮った。かなり重さを感じる音を響かせながら壁と床が、接触する。

 予想外の事態に遭いながらもハッとした様に隔離壁へと近づくが簡単に動かせるものではない。



「シオン隊長!どうしましょう!」


「・・・開けられそうにはないわね。」



 いくらワルキューレが常人を超える力を持っているとはいえ、隔離壁を持ち上げる事は流石に難しい。

 混乱の中で最初に行動に移そうとしたのはユリだった。特大剣を構えて力を込める。そこに一切の躊躇はない。彼女にとってこの障害物は敵という認識なのだろう。普段と何ら変わらない。"妹"と姉である自分との道を遮るというのであれば排除するのみだ。



「ユリ、リンドウたちを傷付けたいの?」



 しかし、それは直前でシオンによって止められた。カルミアもユリが何をしようとたのか理解してか、ユリを抑えに近づいた。



「なんでそうなるの?」


「この壁を壊したとして、その破片は何処へいくと思う?当たりでもしたら無事ではすまされないよ。」


「うぅ・・・、それは。」



 邪魔をされて不機嫌そうなユリであったが、それに続くシオンの言葉を聞いて手に込めていた力を緩めた。



「あちらの通路と繋がっている場所もあるだろうから焦らないで。」


「・・・うん、分かった。」


「それじゃあ合流ポイントを探そうか。」



 シオンが通路を指示してそちらへと移動を始めた。シオンは少なくともリンドウたちが直ぐにどうこうなるとは思っていない。危険な場所である事は変わりないが、災害の使徒やその眷属がいるでもしない限りは逃げ切る事が出来るだろうと考えていた。それに汚染度が高いとはいえ此処に来るまでに見てきた災害の数が少ないのだ。

 ユリは後ろ髪を引かれるように壁の方を見た後、カルミアに連れられてシオンの後をついていった。



「びっくりしたんだからねユリちゃん。」


「だって、リンドウが・・・。」


「・・・、直ぐに死ぬなんて事にはならないでしょ。姉だって言うなら少しは信じたら。」


「うぅ・・・。」



 カルミアからは注意を受け、エリカからも小言を言われた事でユリは小さな身体を更に縮こまらせた。

 数は少ないとはいえ、いつ災害が出て来てもおかしくはないのでシオンたちは警戒を怠らずに奥へと進んで行く。


 上階に比べて下の階へ行くほど荒れている。破壊痕が目立ち、此処で行われていたであろう戦闘の激しさを物語っている。



「・・・。」



 そうして進んだ先で物音を耳にしてシオンはカルミアたちに合図を出した。声を出さずに頷き足音を立てない様にした。

 聞こえる足音はゆっくりとしたもので、明らかに災害のものではない。



(・・・人の足音だろうか?足音は一つリンドウたちじゃない。なら、他の生存者?)



 シオンはそう当たりをつけた。もう一度合図を出した後に、念の為警戒を続けながらも前へと出た。



「まだ災害がいやがるのか。たくっ、相変わらずしぶといな。って、人か。」



 そこにいたのは、あの花びらの記憶で見た主任と呼ばれていた人物だった。シオンは驚きの表情を見せた。生存は絶望的だと思っていたからだ。



「・・・!・・・、連盟の人間じゃなさそうだな。一体、こんな辺鄙な場所にまで何の用だ?」


「私たちは天威所属のワルキューレだよ。この場所に来たのは、元々は調査の一環だね。」


「天威ねえ・・・。元は、つう事は今は違うのか。」



 主任はシオンたちを見回した後、驚きの表情を見せた。直ぐに平静に戻るとシオンたちへと問いかけた。主任は探るようにシオンたちを見ていた。



「今は救助を優先しているよ。」


「救助だって?」



 シオンの返答にまるであり得ない事を聞いたかのような視線を向けた。確かにこの研究施設の惨状はとてもではないが人が生きているみたいには見えない。シオンたちもヴァールがいなければ廃墟だと思って調査していた事だろう。

 シオンは意に介した様子もなく、そのまま問いかける。



「貴方の他に生存者はいるだろうか。」


「生きてる奴なんて俺以外にいるとは思えんが。」


「・・・それは、ヴァールが悲しむね。」



 今の言葉をヴァールが聞いていなかった事が幸運であるかは分からない。遅かれ早かれ知ることを考えればただの先送りであるかもしれない。シオンたちは想像通りの結果に落胆を見せていた。

 そんな様子の中で全く違う反応を見せた人物がいた。何気なく呟いたシオンの言葉。それを信じられないといった様にシオンたちへと主任は視線を向けた。



「今、なんて言った?・・・ヴァール、ヴァールだって?」


「うん?何かおかしな所でもあるだろうか。」


「生きてんのか、・・・ヴァールが。」



 まるで奇跡にでも遭遇したかのようなリアクションを主任は見せていた。シオンたちはそのリアクションに若干戸惑いを見せた。

 ただ、このような状況で仲間が一人でも生き残っている事を知れば、こんな反応にもなるかと納得した。



「仲間を助けて欲しいと願ったのは彼女だよ。」


「はっ、・・・何だそりゃ。」



 彼はそっぽを向いた。顔を背けた事でその表情は隠れて見えない。奇妙な反応を見せた主任にエリカは怪訝そうに問いかける。



「どうしたのよあんた。」


「何でもねえよ、それであいつは今何処にいる。姿が見えねえが。」


「恥ずかしい話だけれど。それが、先程はぐれてしまったばかりなんだ。」



 シオンは隔離壁が下りて道が分断された事と、別の道から合流出来ないか探していた事を簡潔に伝えた。

 主任はそれを聞いた後、直ぐにとある提案をした。



「隔離壁ねえ・・・、分かった。合流出来るポイントに案内しよう。」


「合流には賛成だけど、此処で何があったか聞いてもいいだろうか?・・・とある計画を進めていた、という事くらいしか知らないんだ。」



 歩き出していた主任はシオンの言葉を聞いて直ぐに足を止めた。考える素振りを見せた後に口を開いた。



「まったく、あいつは機密ってのを知らねえのか。・・・ああ、分かった。移動しながら簡単に話てやるよ。」


「どうか彼女を余り責めないでほしい。どうにも記憶が曖昧で、その際に色々と聞いてしまったこちらが悪いんだ。」


「記憶か・・・いいさ、見ての通り研究施設はこの有様だ。今更隠すもんでもねえのさ。」



 そう言うと主任は歩き出した。その足に迷いは無く勝手知ったるといった感じだ。シオンたちもその後をついて行く。



「先に一つ聞きたいんだが。今は何年だ?」


「2016年だけど、あんたも記憶が曖昧になってるって訳?」


「・・・そうか。少し確認しときたかっただけだ、あんがとよ。」



 主任の問いにエリカが答えた。エリカは少しの疑念を混ぜながら主任を見た。主任はそれを気にした様子もなくお礼を告げた。

 


「ラプラスについても知ってるんだろ。・・・ま、簡潔に言やぁ、俺たちは災害に負けたってだけだがな。」


「この場所のエーテル濃度が高いのは、それだけ激しい戦闘があったからだろうか。」



 エクサルス大森林は使徒との戦いで汚染された立ち入り禁止区域だ。通常であればその様な禁域は自然には生まれない。天威が放置する事はないからだ。

 これだけ汚染されエーテルが残留していると言う事は激しい衝突が起きたという事が考えられる。しかし、返って来た言葉は予想とは違っていた。



「いや、此処のエーテル濃度が高かったから、この場所に研究施設を建てたのさ。」


「どういう意味よそれ。」


「言葉通りだ。研究には莫大なエネルギーを確保せにゃならんからな。危険と隣り合わせだが、十分受け入れられるリスクだった。」



 エネルギーという面で見ればエーテルは多くの利益を人類にもたらした。とはいえエーテルも無限にある訳ではない。使い続ければいずれは枯渇する。ここでいう枯渇とは一部の場所での話しだ。その場所のエーテルを使い尽くせば再びかき集める必要が出て来る。

 主任の言っている事は、そうであるなら最初からエーテルが大量にある場所でやった方がいいという考えだ。



「それでこの壁という訳だね。」


「中々のモンだろ?この案を通すのに大分苦労したんだぜ。」



 シオンが壁を触ってそう言った。天威であっても限られた場所でしか使用されていないエーテルを遮断する材質で出来た壁だ。

 少なくともこの壁があったからこそ外部へとエーテルは漏れ出ていなかった。下の階へと行く程、汚染度が高くなっていったのは災害によって多くの壁が破壊されたからだろう。



「それってリスクを承知で此処に建てて、最後は災害に押し負けたって訳?」


「はっはっ、言うねえ嬢ちゃん。普段、湧いてくる災害の対処は何も問題無かったさ。」


「なら、予想外の事が起こったって事ですか?」



 エリカの挑発する様な言葉にも主任に怒った様子は見られない。その姿は何処にでもいる大らかなおじさんみたいだ。威厳なんてものは無く、主任という役職が当て嵌まらないようにさえ思える。

 彼は初対面であると言うのに好意的と言っていいか、少なくともシオンたちに協力的であった。


 主任は少し考え込むとこう切り出した。



「災害がどうして現れるのか知ってるか?」


「そんなの知らないわよ。」



 カルミアの言葉に賛同するようにエリカも首を横に振っていた。急な話題の転換に、その真意はなんだろうとシオンは思考を巡らせる。

 災害がどうして現れるのか。つまりは災害の目的とは何かという事だろう。



「結果論で言やぁ目的は人類の絶滅だろうさ。あいつらにまともに会話する能力何てねえから、ただの推測だがよ。」


「それが今の状況と何の関係があるのよ。」


「まあ聞きな。どういう訳か、奴らは人類の発展を許さない。その"発展"の際に災害は狙ってやって来る。」



 主任の話によれば災害は人が成長する事を阻むとの事であった。



「それはつまり、此処で行われていた計画が災害の目に止まった、と?」


「ああ、くそったれな神様に目をつけられたって訳だ。」



 結果論で見れば災害が人を狙っている事は自明の理だ。しかし、人類の発展を狙って潰しにやって来るというのはエリカたちには初耳であった。シオンもまた不思議そうに主任を見ている。



「その口ぶりだといずれは災害が引き寄せられるって分かってたのよね?なら、どうして撃退の準備をするなりしてから計画を行わなかったのよ。」



 そう、口振りからして計画の最中に集まった災害を見てそう推測したのでは無く、元からその事については知っていたようであった。となれば計画を通す段階でその件についても思案に入れられていた事だろう。



「あー、時間が無かったのさ。使える時間がな。」



 曖昧に誤魔化す様な主任の言葉に対して詳しく聞こうとした所で、聞き慣れた音が耳に入った。出来るなら聞きたくはない音ではあるが。最初に口に出したのは意外にも主任であった。


 

「と、災害だな。すまねえが、今はまともな武装がねえ。頼めるか。」


「構わないよ。後ろに下がっていて。」



 主任はシオンたちに災害の相手を頼んだ。シオンたちはそれを了承した。救助を目的としているので主任に戦わせて怪我でもあれば意味が無くなってしまう。シオンたちは前へと出ると災害との戦闘を始めた。






◆ ◆ ◆



 戦闘は無事に終わった。イレギュラーも無く、加えて災害の数も少なかった。リンドウがいないとはいえシオン隊として十全に動く事が出来ていた。



「なあ、お前さんらはその天威とやらの組織内で強さ的にはどのくらいだ。」


「・・・部隊としては中堅より上くらいだろうか。」


「・・・ふむ、そうか。」


 

 シオンの返答に主任は考える様子を見せた。少しして結論が出たのか主任は口を開いた。



「助けられた礼にいい話しをしてやるよ。お前さんらはエーテルがどうして湧いて出てくるのか知っているか?」


「知らないです。」



 そもそもエーテルから災害が誕生する事さえ知らなかったのだ。エーテルの発生原理についてなど知る由もなかった。



「なら災害はどうやって生まれる?」


「それは汚染、エーテルが集まっている場所で誕生します。」



 カルミアの言葉にシオンは頷いた。



「そうだな、災害はエーテルの集合体みたいなもんだ。純エーテルが集まって身体を形成し、そこから核となる部分が生成され災害になる。」



 講義をする教師のように淡々と主任は話を続けていく。



「災害には個体毎に核がある。大きさはまちまちだがな。勿論、それは使徒にもある。使徒の核の調査データを見る機会があったが、あれは別格だ。災害の核がそれ単体で自己完結しているとしたら、使徒の核はエーテルが際限なく湧き続ける通路みたいなもんだ。」


「・・・通路。」



 シオンの呟きに主任は頷いた。



「そうだ、通路だ。それはエーテルの発生場所と良く似た現象を見せた。その違いは溢れ出るエーテルの量くらいだ。自然発生のエーテルは滲み出る程度なんだよ。」


「つまり二つは同種のものなんだね。」


「ああ、原理は同じだと考えられている。」



 同じ災害に分類されるものだ。ルーツが同じでも何ら不思議は無い。

 その話が事実であるなら、エーテルの発生、いや災害そのものの発生を食い止める方法も見えてくるのではないだろうか。



「何故エーテルが湧いてくるのかだが、それは何らかの原因で空間に亀裂が生じ、そして、その空間の先からエーテル流れて来てるって訳だ。」


「空間の先、・・・そうよね、その理論が確かなら供給元があるのよね。」


「その場所はこの地球上ではないのは確かだろうがな。」



 エーテル溜まりが最初から地球上に存在しているのであれば、その場所から多くの災害が現れていた筈だ。その様な場所が観測されたという話しは聞かない。であれば、地球上ではない何処かと言う結論になるのだろう。



「それって異次元にでもあるって事ですか・・・?」


「・・・さてな。サービスは、ここまでだ。今の話を信じるかどうかはお前さんらに任せるさ。と、ここだな。」


「閉まっているようだけど。」


「カードキーで開くさ。」



 主任の話を聞いて移動している内に、気づけば目的地に辿り着いたようだ。扉は閉まっていたが電気は通っているようだった。シオンが言われた通りカードキーを使うとロックの解除される電子音が聞こえた。



 主任は扉を開けて先へと進んだ。






◆ ◆ ◆



 ロックのかけられていた扉の前でリンドウとヴァールの二人は座り込んでいた。二人ともカードキーを持っていなかった事もあって扉を開けられ無かったのだ。



「もし、災害がなくなったらリンドウはどうしたいですか。」



 その質問にリンドウは少し考え込んだ。



「・・・みんなと一緒にいたい。」


「可愛い・・・。あっ、うん。その願いが叶うといいですね。」



 リンドウの思考は単純なものであった。災害が無くなって戦う必要のなくなった世界であれば天威の存在理由は無くなる。であれば、一緒にいられなくなるかもしれないのだ。リンドウは出来るなら災害の無くなった世界でも知り合った人たちと一緒にいたいと考えた。

 ヴァールは何がしたいかを聞いたつもりであったが、可愛いのでこのままでいい気がしていた。純粋なリンドウの願いに思わず本音が漏れ出ていた。



「許可がおりれば天威にも行ってみたいな。ワルキューレは女の子ばかりみたいですし・・・、此処にはあんまり女の子がいなかったから、女子会とかしてみたかったんですよね。」


「・・・カルミアに言うといい。」



 多分ユリが話しに乗ってヴァールの望みも叶うだろうとリンドウはそう思った。



「あれ、リンドウは参加してくれないんですか?」


「・・・?女子会に男がいてもいいの?」



 ヴァールの言葉にリンドウは湧いた疑問をそのまま告げた。時間が一瞬止まったかの様に空間が凍った。処理しきれない情報にヴァールは動きを止め、ぎこちなくリンドウに視線を向ける。



「男?誰が・・・?」



 リンドウは自分を指差した。ヴァールの頭の上にはハテナマークが浮かんでいた。リンドウの頭の上にもハテナマークが浮かんだ。



「リンドウが、・・・男?」


「・・・。」



 リンドウは頷いた。ヴァールが何故そんな事を確認するのか分からなかったのでリンドウは不思議そうにヴァールを見ていた。多分、一番その表情をしたいのはヴァールだろう。



「ええーーー!!!」



 廃墟に似つかわしく無い溌剌とした声が響く。



ーーーガチャ



 そのタイミングで扉が開いた。状況を何も知らない主任とシオンたちがやって来る。



「何叫んでやがるヴァール。」


「うわぁあああ!!??主任!?」



 再会は少しだけ愉快なものとなった。






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