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バッドエンドのその先へ【総合5000pv突破感謝】  作者: 蕩けた蜂蜜ウサギ
第0.5章 追憶の先にあるもの
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第十二話 徒花の咲く頃に⑧


 暗闇の中で音が響く。目の前に広がるのは一面の黒。

 ドン、ドンッと、何かを強く叩く音が聞こえる。それは災害の足音のようで、聞く者の恐怖を掻き立てる。嵐が過ぎ去るのを待つ子供みたいに身体を縮めて堪えるしかない。 


 暗黒の中に一筋の光が差し込む。光が漏れ出ている場所へと近寄り、押し上げるように扉を開けた。視界には物置小屋の簡素な内装が見える。今までいた場所が地下蔵みたいな場所だったのだと理解した。農具が無造作に置かれ地面が剥き出しだ。

 地面に直置きされた一枚の皿にパンが数切れが置かれており、横にはコップに水が入っている食事というには簡素でお粗末だ。それに手を伸ばし、黙々と食べ始めた。



『此処が、わたしの生まれた村です。』



 何処からか声が聞こえる。その声は直ぐ真横から聞こえて来るようで、頭の中で響いているような不思議な感じだ。

 周りを見回そうとして身体を自身の意思で動かせ無いことに気づいた。今この瞬間があの花びらの記憶の世界である事を思い出した。つまりこの世界はヴァールの記憶であるという事だ。



(?・・・ヴァールの声が聞こえる。それに、今見ているのはヴァールの記憶?)


 

 明らかにあの研究施設とは異なった場所だ。それに視界に映る身体や手の大きさからして、まだ子供だった頃の記憶だろうか。


 今まで花びらの記憶の中で、誰かが共にいた事はなかった。そんな戸惑いをよそに記憶は進んでいく。

 ドンッと扉が開かれる音がした。木製の扉は今にも壊れてしまいそうだ。そちらへと目線を向けると一人の女性が立っている。何処となくヴァールの面影がある。ただ、その表情には嫌悪や侮蔑が浮かんでいる。加えて体調が良くないのか血色も悪くやつれていた。



「お前さえいなければ。」


「どうして、お母さん・・・。」


「うるさい!黙ってなさいよ!」



 近寄ろうとした所で、女性の振り抜いた手が壁へと強く叩きつけられた。その音に驚き肩を震わせる。

 怖がっている娘に目もくれず、女性はぶつぶつと何かを呟きながらその場を後にした。



『あの人がわたしのお母さん。』



 ヴァールの声色は硬いものだった。だが、そこに何故か嫌悪や憎悪といった感情は見られない。一人きりの小屋の中で啜り泣く少女の泣く声だけが聞こえる。

 リンドウにはどうする事も出来ない。これは過ぎ去った過去であり、ただ記憶を覗き見ているだけだ。手を貸す事も、慰める事も何も出来ない。



(これが、・・・ヴァールの子供の頃。)



 時折り見られたら自己肯定感の無さはこの事が関係していたのかとリンドウは思った。それと同時にどうしてこのような目にヴァールが合わなくてはならなかったのかと考えてしまった。

 それから、幼い少女にとって長い時間が流れた。涙も枯れた頃、そんな日々に転機が訪れた。



「こんな・・・。ああ、怖かっただろうに。」



 不自然に思った村人の一人がヴァールを見つけたのだ。老婆は優しく抱き寄せると小屋から連れ出そうとした。



「いい、他の誰も!・・・誰も、そいつの事を気にしていないわ。呪われてるってみんなが知ってる!」


「この子が虐げられていい理由にはならないよ。」


「こいつがいたから・・・!どうせあんたもそうするわ!」



 あの女性の声が聞こえる。しかし、その姿は老婆に隠れて視界に入る事はない。老いを感じさせない力強さが宿っていた。



「後悔する時が来るわ!」


「それは、・・・あたしが決める事だよ。」



 一通り捲し立てると女性は離れていった。小さくため息をつくと老婆はヴァールへと歩み寄った。一見厳しそうな顔つきの老婆は可能な限り優しくヴァールを立たせた。



「来るのが遅くなって、悪かったね。さあ、温かいスープを出すよ。・・・それとも、先にお風呂かねえ。」



 老婆に連れられて外へと連れ出される。あの暗闇が当たり前となっていた少女に、この光はどう映っていたのだろうか。太陽の日差しが強くなる。少女はただ、眩しさに目を細めていた。

 手を引かれて村の中を歩いていく。視界の端に他の村人の姿が見える。ヒソヒソと何かを話していたが聞き取れない。ただ、決して好意的な視線ではないのは確かだった。ヴァールは顔を上げずに俯きながら老婆へと着いていく。



「どうしてこうも変わってしまったんだろうね・・・。あの一件は貴方の所為ではないというのに・・・。」


「・・・。」


『あの小さな小屋からお婆さんがわたしを連れ出してくれました。彼女は村長という立場を使って助けてくれたんです。』



 逆に言えば村長という立場が無ければ助ける事も憚られたという事でもある。ヴァールが口にしていたエーテルの影響を受けずに元気だったからというだけではこの状況は説明がつかないだろう。

 


「・・・あり、がとう。」


「お礼を言われるような事ではないよ。むしろ謝りたいくらいさ。」


『彼女はこの村の現状にやるせなさを感じていたのかもしれません。』






◆ ◆ ◆



 視界が移り変わる。老婆は幻みたいに消え、先程まで歩いていた村の中から木々が生い茂る森の中へと姿を変えた。



『最初からこうではありませんでした。』



 ヴァールは最初からこのような扱いを受けていた訳ではなかった。父と母、それから姉と自分で楽しく過ごせていた日々があった。

 全ての歯車がずれ始めたのは、本当に些細な事だった。



「お父さん!今日はもっと奥の方に行ってみたい!」


「仕方ないな、転ばないようにするんだよ。」


「大丈夫、私が見守っているから。」



 住んでいたのは小さな村だ。娯楽は少なく、やれる事は限られている。だから、とある日に近くの森へと遊びに父と姉と三人で行ったのだ。

 ヴァールと思われる幼い少女は先程見た様子と打って変わって明るい。楽し気に森の中を歩いている。穏やかそうな父親に、しっかりとした姉と何処にでもいる普通の家族だ。



 何の不安もなく、いつも通りの楽しい一日になる筈であった。



 三人は森の奥へと進んでいく。森の奥と言っても子供の尺度だ。村からはそう離れていない場所。進んだ先では綺麗な湖が広がっていた。しかし、視界に映るある物にリンドウは気づいた。



(あれは・・・、結晶?・・・この場所は汚染されているみたいだ。)



 結晶、それは汚染区域で見られる物質だ。目で分かる汚染の有無だ。大きさはそれ程大きくは無いので、まだ禁域と呼ばれるほど汚染が進んでいる訳ではないが一般人には毒である。だが当然、彼らはそれらの知識を有してはいなかった。



 そこから先は幼い少女にとってまごう事なき悪夢だった。



 最初に異変が起きたのは父親だ。汚染だ、エーテルへの適性が低いからだろう。



「ぐぅ・・・、はぁ、はぁ。」


「お父さん?どうしたの、顔色が悪いよ?」



 急に呼吸が荒くなり胸を抑えると、その場に倒れ込んでしまった。まず一人、頼るべき相手が最初に倒れ伏した。



「お父さん・・・!目を開けて!」


「ど、どうしたら。」



 姉が呼びかけるが目を開ける様子は無い。ヴァールは戸惑うばかりでどうする事も出来なかった。

 次に不調になったのは姉だった。女性であっても人によってエーテルへの適性は大きく異なる。運の悪いことき彼女も汚染に耐え得る身体ではなかった。



「お姉ちゃん?お姉ちゃん!」


「よく、・・・聞いて。村の人を、呼んできて・・・、早く。」


「で、でも!」



 父親に続き姉も倒れたとあってヴァールはパニックになっていた。明らかにに正常な判断は出来ていない。それは仕方の無い事だろう。こんな状況を目の当たりににして冷静でいられる者など少数だ。

 姉はヴァールに不安を与えまいと気丈に振る舞ってみせる。



「大丈夫、お父さんは、・・・私が見てるから。約束、ね?ほら、行って。」


「・・・う、うん。分かった!」



 安心させるように、優しくヴァールを村へと誘導した。慌ててヴァールは来た道を引き返して行く。

 早く、早くと自分に言い聞かせながら、小さな足で森の小道を駆け出す。落ち葉を踏む音が、カサカサと大きく響く。田舎道は、舗装されていないガタガタ道。石ころにつまずかないように、木の根っこに引っかからないように、走って行った。



「お父さん・・・、これで、いいよね?私はお姉ちゃん、だもの。・・・あの子を守らないと、ね。」



 のちに残されたのは沈黙だけであった。



『村の人たちが二人を森から連れ帰って、お母さんは付きっきりで寝ずの看病をしましたが、・・・助かりは、しませんでした。』



 過去の罪でも告白するみたいにヴァールはそう言った。



『それから、救助に行った大人たちも不調を訴え始め、あの場所へと行って無事だったのはわたしだけでした。それが全ての始まりです。』



 小さな村だからこそ、その話は直ぐに伝わった。客観的に見れば一人だけ無事なのは不自然な事だろう。ヴァールもまた被害者であるのに、まるで加害者であるかのように村人からは見られたのだ。

 事実がどうであれ、彼らの多くはそう結論づけてしまった。


 人は楽に流されやすい生き物だ、彼らはヴァールへと責任を押し付けて自分たちの負の感情を発散していた。






◆ ◆ ◆



 傷付いた心を完全に癒すには時間が足りないが、それでも村長との生活は心が休まる時間になっていた。



「すまないねぇ、不自由を課してしまって。」


「そんな・・・こと、ない。わたしが悪い、から。」



 村人が亡くなった事も、ヴァールだけが無事だったというのも事実だ。

 この未知の脅威に踊らされ直接的な手段に訴える人が出て来るかもしれないと村長は考えた。だから村長の付き添いが無い時は極力家から出ないようにしていた。


 

「どうして、そう思うんだい?」


「わたしが森に行きたいなんて言ったから。それで、お父さんも、お姉ちゃんも・・・。」



 父親と姉を失い、母親にすら否定され、ヴァールの心は限界寸前であった。彼女の中にある心は締め付けられたみたいにきゅっと縮まっていた。後悔が渦となってヴァールを縛る自縄自縛となって付き纏っている。



「ふん、それならあたしの責任でもあるねえ。」


「え・・・?」



 思いもよらない言葉にヴァールは村長へと視線を向けた。

 いつもの険しい顔のまま村長はそう口にした。その瞳は真っ直ぐにヴァールを見つめている。



「二人を助けに救助を村の男連中に頼んだのはあたしで、それで、助けられなかったのもあたしだよ。」


「ち、違う・・・!」


「あたしのせいでないのなら、あんたのせいでもないさ。助けに行って欲しいと言った事が悪い事じゃないのなら、森に行きたいと言ったあなたも悪くないだろう?」



 自分が悪いのなら、そこには理由がある筈だと幼いヴァールは考えていたのだろう。そして、その根本は森の奥へと行きたいと言った事。



(・・・それは悪い事でも何でもない。悪かったのは、・・・運だけ。)



 当然、それは責められる事なんかでは無い。村長は自分を引き合いに出してヴァールに否定させないようにしたのだ。



「・・・そんなの、ズルい。」


「大人はズルいものさね。」



 幼い少女では言い返す事も出来ず、ただそう口にした。

 穏やかな時間は長くは続かなかった。高齢であり、病に伏せていた老女ではヴァールをずっと守り続ける事が難しかった。



「なあ、村長さん!俺たちはどうしたらいい!」


「慌てるんじゃないよ。蔵の書物を確認するのにも時間が必要さね。」


「皆んな死んじまうよ!」



 加えて、村では原因不明の不審死が起きていた。それは病みたいに蔓延していっている。



『誰も災害やエーテルについて知りません。彼らにはこれが純エーテルによる汚染だと知る術もありません。』



 どれだけ書物を漁ろうと分かるものでは無い。これは病と似ているようで、まったく違うものなのだから。

 悪意が村を侵食していた。負の感情は伝播し、人の感情を易々と黒く塗りつぶしていく。

悲劇というのは何処にでも転がっているものだ、これもその一つに過ぎない。



「・・・お水を取ってくるね。」



 連日の無理が祟ったのか村長は部屋で寝込んでいた。

 ヴァールは水を取りに行く際に、ある事を思い出した。それはヴァールが熱を出して寝込んだ際に母親が置いてくれた香りのいい花。それが村の直ぐ側で取れる事を知っていた。森の奥という程の距離でもないので、ついでに摘みにヴァールは外へと出た。


 だが、この瞬間を待っていた者たちがいた。村での不審死、その原因と思われている少女が一人で歩く瞬間を。

 ヴァールが花を摘んで村へと戻って来ると、その腕を掴まれ家の物陰へと連れて来られた。周囲には村の男たちが数人集まっている。



「いっ、・・・!」


「なんで、お前みたいな疫病神がまだ生きてやがる。」


「あの偏屈な婆さんが匿ってなきゃ、こんなもんさ。」



 件の少女を匿っているとあれば不満や悪感情が募るというものだ。

 乱暴に連れて来られ、ヴァールは地面へと倒れ込んだ。摘んできた花は地面へと落ち、握られた腕は赤く腫れており痛々しい。幼い子供のヴァールでは、大人の男性に囲まれては逃げ出せる筈もなくただ、震えて嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。


 彼らはヴァールに対して文句を一通り言い満足すると驚くべき事を言い出した。



「村長もぼけちまってんのさ。」


「そうだ、いい事を思いついたぞ。なあヴァール、あの死に損ないを殺せよ。今夜までにな。」


「いいな、それ!」



 彼らはそれが本当に素晴らしい提案であると信じ込んでいた。仲間内の軽いノリのように普通では有り得ない要求をヴァールへとした。しかし、その目は据わっており、決して冗談を言っている訳では無さそうだ。



『・・・彼らも被害者、ですね。純エーテルの影響を受けて思考を狂わされています。』


(・・・だからと言って許される事じゃない。)



 ヴァールの表情は伺えない。彼女が今、どんな気持ちでこの光景を見ているのかは分からない。決して気分の良いものでは無いのは確かだろう。



「お前を森の奥に捨てて来る事だってできるんだからなあ。」


「ほらよ、こいつを使えよ。」


「明日までにあのボケ老人が死んでなかったら、死ぬのはお前だからなあ。」


 

 そう言って鋭く磨がれたナイフがヴァールの目の前へと投げ置かれた。



『当時のわたしには、どうすればいいのか分かりませんでした。差し迫った死は怖く、それ以上にお婆さんは大切な人でした。』



 男たちはヴァールを置いてその場を後にした。震えた手で手渡されたナイフを持ちながら、ヴァールは暫くの間その場から動け無かった。



 花は踏みつけられて、潰れていた。






◆ ◆ ◆



 日が暮れて夜の帳が降りて来てもヴァールは決心出来ずにいた。何処かで、誰かが助けてくれるのを期待していたのかもしれない。けれど、この場にヴァールへと手を差し伸べてくれる人はいない。唯一頼るべき相手を、害そうとしているのだから。


 寝静まった時間。虫の鳴き声だけがやけに耳へと響く。ヴァールは村長のいる寝室へとゆっくりと入った。

 それは恐怖心からだろうか。それとも気づいて欲しかったからだろうか。間違いを犯す前に、見つかって、その末に命を落とすのなら諦めがつくだろうと。



「おや、ヴァールかい。」


「・・・!」


「悪いねぇ、調子が悪くて身体を動かせそうにないよ。」



 近くへいらっしゃいと、村長は言った。ただ、ヴァールの方を決して見ようとしなかった。

 ヴァールは少しだけほっとした。何故ならこれで終わりだと思ったからだ。ヴァールは強引に刺そうとは考えてもいない。その先に待つのが自身の死だけならそれでもう良かった。


 だけれど村長がいるベッドの直ぐ傍まで来て、幼いヴァールは漸く理解した。今、この老婆は自身の命を投げ出そうとしているのだと。



「・・・なん、で。」


「こんな時間に部屋までやって来るなら、よっぽどの事なんだろうからねえ。それに思い当たる節はあるさね。」



 何処かのタイミングで村長は気づいたのだろう。いずれはこのような瞬間がやって来ると。明らかに最近の村の、そこに住まう人々の様子がおかしくなっていた。

 ただ、彼女の予想では村の男たちがやって来るだろうと考えてはいたが、予想に反してやって来たのは保護した少女だった。それはきっと悪烈な脅しによるものだと簡単に想像がつく。



「ちが、う。それならなんで、・・・止めようとしないの。」



 ヴァールが聞いたのは何故黙って死を受け入れようとするのかだった。彼女が振り返ればそれで終わる。その筈だったのに。村長は決してヴァールの方を見ようとしていなかった。



「この老いぼれは、なんにも見ていないし。明日にはぽっくり逝っちまってるだろうねえ。そこにあんたが関与する余地は微塵もありはせんよ。」


「・・・・・・。」



 止める止めない以前の問題だと村長は暗に伝えているのだった。老いを感じさせない力強い言葉にヴァールは何も言えなかった。



「それに、夫を随分と待たせてしまったからねぇ。あの人も寂しがっているだろうから。そろそろ会いに行ってあげないと。」


「死ぬのが、・・・怖くないの?」


「気がかりな事は確かに残ってるけどねえ。死ぬ事に、この年になってまで怖いとは思わないさね。」



 ヴァールが絞り出した言葉に彼女はきっぱりとそう言い切った。



「いいかい、これは老婆の最後のおせっかいだよ。・・・生きていれば後悔する。それはもう山のようにね。」



 彼女もこの村の現状をもっと良く出来たのかもしれないと後悔しているのかも知れない。そうだったら、ヴァールにこんな事をさせずに済んだかもしれない。



「だから、ここぞという時に後悔しない選択をするんだよ。諦めて妥協すれば、後でそれが後悔になるものだからねぇ。ほら、約束だよ。」


「・・・!」



 これが彼女の後悔しない選択なのだろう。ヴァールが残される事でより辛い思いをするかもしれない。それでも、彼女は賭けたのだろう。良い未来が訪れる事を。



『わたしには選択出来ませんでした。だって、わたしの選択こそが後悔につながったのですから。』






◆ ◆ ◆



 翌朝、村長が亡くなっているのが発見された。死因は伏せられた。

 ただ、その事を気にしていられるほど彼らに余裕が無かった。



 村人たちが更なる理不尽に押し潰される。災害が家屋をまるで紙切れを千切るみたいに破壊していく。村のあちこちから悲鳴が聞こえる。大人も、子供も、老人も、若者も、男性も、女性も、全てを平等に殺していく。全てが崩れ去っていく。



(・・・汚染が現れたなら当然、次に来るのは災害。)



 ヴァールは腕を強く握られて、連れられていく。その腕を掴んでいるのは彼女の母親だった。荒々しく村の中を二人は駆けていく。

 その最中、星々が輝く夜空に一瞬、純白の何かが映ったような気がした。



「こっちに来るのよ!」


「いた、いたいよ・・・。」


「うるさい!」



 そうして、あの地下蔵にヴァールを乱暴に押し込むと扉を閉める。



「ここから動くんじゃないわよ!これ以上、村に何もなせない!」


「お、おかあさん!」


 

 再び暗闇に覆われる。聞こえるのは破壊の音と悲鳴だけ。

 それからどれだけの時間が流れただろうか。やがて、災害が全てを壊し尽くしたのか音は止み静寂だけが残された。






◆ ◆ ◆



「この様子だと生存は絶望的だ。」


「まて、何かいる。そこ、そこの下だ。」


「瓦礫しかないが?いや、地下があるのか!」



 声が聞こえる。村人のものではないだろう。複数の声と足音が辺りから聞こえる。



「人だ!まだ生きているぞ!」



『彼らは連盟の救助部隊で、村からわたしを連れて行ってくれました。』



 彼らはワルキューレでは無さそうだった。殆どが男性で厳つい装備に身を固めている。連盟と呼ばれた組織は本当にあるのだろう。

 ヴァールは彼らに連れられて、破壊し尽くされもう村とは呼べなくなった場所を後にした。



「君のいた家から、回収出来たものはこれだけだ。すまないな。汚染が酷く時間を取れなかった。」


「・・・ありがとう、ございます。」


 

 そう言って渡されたのは頑丈そうな箱だった。ヴァールはそれに見覚えがなかった。

 箱を開けると中には色々な小物が入っていた。



「これ・・・。」



 姉と二人で作って渡した押し花や、父や姉の三人で協力して編んだマフラー。それ以外にもたくさんの小物が大切そうに保管されている。



「お母さんに、・・・あげたプレゼント。」



 つまり、これはヴァールのお母さんの遺品という事だ。そうやって一つ一つ取り出していくと箱の一番奥には手紙が隠されるようにあった。

 ヴァールはそれを手にとった後、ゆっくりと開けて読み始めた。



『ヴァールへ


 本当にごめんなさい。いくら謝っても足りないくらい貴方には酷い事をしてしまった。貴方にこの手紙が届くかどうかも分からないし、むしろ貴方の目に映らない方がいいのかもしれない。

 貴方からすれば私は憎むべき対象になっている事でしょう。


 あの日から自分自身の感情を抑えられない時があるの。それも頻繁に。もしかしたら、この手紙を次の瞬間には破り捨ててしまっているかもしれない。直接謝ろうにも、貴方を目にしただけで言いたくない言葉ばかり口にしてしまう。


 貴方は何も悪くない。それは、貴方のお父さんも、お姉ちゃんもきっと思っている事よ。どうか、自分を責めないで。貴方は私たちの自慢の娘だから。貴方の笑顔が恋しいわ。

 それを奪ってしまったのは私で、一番辛い思いをしている貴方に言っていい言葉ではないでしょうけれど・・・。貴方がもう一度誰かと笑い合える日が来る事を願っている。


ヴァール、愛してるわ。』



(・・・ヴァールの母親もエーテルの汚染を受けていたんだろうか。)



 ヴァールの母親が最期に取った行動も、もしかしたら、彼女を守る為のものだったのかもしれなかった。

 ただ、それを証明する手立ては残っていない。村も、そこで住む村人もみんな死んでしまったのだから。






◆ ◆ ◆



 場面が変わる。目の前には白衣を着た女性が座っている。



「貴方は稀有な特異性を持っている!エーテルを吸収し、取り込む。だから、あの汚染された場所で生きながらえ、加えて村の壊滅を遅らせらたんだろうね。貴方が一種の浄化装置の役目を果たしていたみたい。」


「・・・。」


「貴方がもし希望するなら連盟は貴方を歓迎するよ。」



 そうして伸ばされた手を少女は掴み返した。






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