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バッドエンドのその先へ【総合5000pv突破感謝】  作者: 蕩けた蜂蜜ウサギ
第0.5章 追憶の先にあるもの
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第七話 徒花の咲く頃に③


 少女の口から出た連盟という組織。天威の他にも組織はある。問題は連盟についてシオンを含めて誰も知らないということだ。

 記憶が定かでない以上は、今いるこの施設と少女の言う連盟を結びつけるのは早計かもしれない。ただ、本当に連盟がここに関係していたのであれば高い技術力をもった謎の組織が存在するということになる。そうなると無視出来ない存在になってくる。



「・・・同じ災害に対抗する為の組織だよ。さて、先を急ごうか。余り此処で時間を潰していたら助かる命も助からなくなってしまうからね。」


「そう、ですね?」



 シオンはヴァールの話しに合わせた後、強引に話を切り上げた。ヴァールは突然話を変えた事に疑問を抱いているみたいだが特に指摘する事は無かった。

 彼女からしてみれば誰を助けたいのかも分かっていないような状態なのだ。多少の違和感は違和感たり得ないだろう。


 実際今は危険な状態にあるのは確かな事でもある。本当に仲間がいるのなら、状況は刻一刻を争うかもしれない。救助に行く事を優先するのは何ら不思議な事ではない。



「貴方みたいに此処に残っている人を探すつもりだけど、ヴァールさんはどうしたい?」


「それなら、わたしも連れて行って下さい。あ、その、余り戦力にはならないかもしれないですが、これでも適合者ですから。」


「ここから飛行艇まで少し距離があるから、そちらの方が助かるよ。ただ、災害は私たちで対処するから安心してほしい。」



 ヴァールはついて行きたいと言った。シオンならヴァールを安全な場所、それこそ一旦施設の外へと連れて行くと思ったが同行する事を許可した。施設の状況がどうなっているのか分からない現状ではリスキーな選択だ。シオンらしくはない選択だ。

 逆に言えば連れて行きたい理由があったということなのだろう。



「あ、でしゃばってごめんなさい!」


「頑張り屋さんだねー!よしよししてあげるね!」


「ふぇっ!わっ・・・あ、ありがとう。」



 感情の浮き沈みが激しいのかヴァールの表情はころころと変わっている。もしかしたら、今の彼女が本来の彼女の性格なのかもしれない。気弱に三つ編みがぷるぷると揺れている。

 そんなヴァールにユリが頭を撫でようとしている。しかし、身長が足りなくて手が届いていない。彼女が屈んでようやく撫でることが出来ていた。



「それにわたしが言った事みたいですし、少しは役に立ちたいですから。」


「気を負う必要は無いよ。・・・任務が終わって天威に帰還したら、貴方の記憶が戻るよう最善を尽くすよ。」


「何から何までありがとうございます!」



 ヴァールは感謝の言葉を口にした。彼女の立ち位置に不可解な部分が多くあるが、いきなり横から刺されるような事態にはならないだろう。というより、なって欲しくはないというのが本音だ。

 シオンが端末を一つヴァールへと渡した。逸れたりした際の為の通信デバイスだろう。



「それじゃあ、行こうか。」



 ヴァールを加えたシオン隊は施設の奥へと進んで行く。先程災害が扉を壊して入って来た場所を潜り抜け生存者が残っていないか探して行く。

 内装はメインホールと思しき場所とそれほど変わらず、荒れ果てた様子である。赤色の非常灯が点滅しており、不気味さを引き立たせている。ホラー映画なら廊下の突き当たりに幽霊がひょっこりと顔を出してこちらを覗いている事だろう。



「そうだ、ヴァールさんにお姉さんはいますか?」


「姉、ですか?いえ、一人っ子ですけど。」


「そうなんだ・・・。あっ、あの花びらで聞こえた声がヴァールさんに似ているなって思ったんですけど。」



 廊下を進んでいく途中、カルミアはそんな話をヴァールに振った。それはシオンとリンドウが先程話していた内容と同じだった。カルミアも同様の疑問を抱いていたのか、これ幸いにと聞いたようだった。



「うーん、そうでしたか?全然気がつきませんでした。」


「あ、もしかしたらお母さんって事もあるのかな。」



 声質からしてヴァールよりも年上の印象をリンドウは受けていた。家族という線は捨てきれないだろう。兄弟姉妹がいないのであれば、母親という可能性は十分にある。しかし、ヴァールは悩む表情すら見せなかった。



「違いますね。」


「えっ?」



 きっぱりと否定されるとは思わなかったのかカルミアは驚きの声を上げた。表情が変わりやすいヴァールであるが、その言葉を口にした彼女の表情は驚くほど無表情であった。彼女の中ではその線は考慮するに値しないのかもしれなかった。



「ん?あー、いえ、その・・・ほら、流石に母親の声だったら聞き間違えたりしないですから。」


「あっ、そうだよね。・・・それなら、偶々声が似ているだけなのかな。」



 カルミアに驚きの眼差しで見られている事に気づくとヴァールは慌てて理由を説明した。ただ、咄嗟に思いついた事を口にしたみたいではあったが、カルミアはヴァールの話を聞いて納得したようだった。

 手がかりが無くなったなと、カルミアは少しだけ残念そうな表情を見せた。



「話の途中で悪いけれど、どうやら此処は閉じられているみたいだ。」


「鍵がかけられているみたいね。扉を壊すにしても、・・・随分と頑丈そうだわ。」



 秘匿された場所に建てられているだけはあるのだろう。一般的なセキュリティ以上に堅牢だ。それこそ災害を想定して作られた物に見える。

 区間毎にエリアが区切られているのかメインホールから此処までの道のりとは違い、そのまま素通りという訳にはいかなそうである。



「このタイプの扉なら覚えがあります。カードキーさえあれば開きますよ。」


「・・・それなら、この辺りを探してみようか。余り遠くに行かないように。」


「はい、隊長。」



 ヴァールが扉と連動しているだろう端末を確認するときっぱりとそう言い切った。リンドウはこのタイプのものを目にした事が無かったので直ぐには分からなかった。

 別れて行動する前にシオンがエリカへと目配せをした。その視線を受けてエリカが頷くとヴァールが探索に向かった方へと歩き出した。



(・・・今のは。)



 シオンにはシオンなりの考えがあるのだろう。どうやらヴァールの事を信用しているという訳では無さそうだった。監視の意味を兼ねてエリカに頼んだのだろうか。元々、怪しげな施設だったこともあり、敵対組織がいる事も想定していた。そういった視点でみるなら想定内と言えなくもないのだろう。

 エリカが向かったのなら問題は無いだろと、リンドウもカードキーを探す為に近くの部屋へと入っていった。部屋の灯りは当然点いてはおらず、スイッチを押しても反応はしない。ライトの光を頼りに辺りを照らしていく。


 部屋の中は乱雑だった。紙だったであろう物が散らばっており清潔とは真反対の場所であった。



(・・・急いで此処を離れたのかな。)



 机の上に置かれている紙は完全に風化しており、とても読める状態では無い。まともに換気されていない為か、腐敗した匂いが充満している。冷房がついている筈もなく、茹だるような暑さがある。この場所から得られる情報は少ないだろう。



「あっ、リンドウくん。」



 足音と共に後方から声をかけられた。急に呼びかけらてリンドウの身体が小さく跳ねた。そちらへと振り向く。リンドウの元へとやって来ていたのはカルミアだった。



「こっちはミーティングルーム、みたいな場所かな?」


「・・・カルミア。」


「隣の部屋にはカードキーは無かったよ、こっちにも無さそうかな。」


「・・・。」



 リンドウはカルミアの問いに頷いた。見るからに探している物は無さそうである。どうやらカルミアが探していた場所も不発だったようで、近くにあったリンドウの部屋へとやって来たみたいだ。



「ヴァールさんの言っていた連盟って何だろうね。」


「・・・聞き覚えはない。」


「そうだよね。もしかしたら、天威の呼び名を連盟だと聞いてる・・・みたいな事は、流石に無さそうかな。」



 自分で言ってそれは無いかとカルミアはすぐさま否定した。歴史に明るく無いとはいえ、リンドウは連盟と呼ばれる組織名を聞いていたら忘れたりはしないと思っている。連盟と呼ぶからには複数のグループからなる巨大な組織なのだろう。そんな災害と戦う組織があれば少しは耳にするものだからだ。



(・・・連盟。やっぱり聞いた事が無いかな。)



「あっ、さっき見た花びらの記憶も何だか変だった気がするんだけど、リンドウくんはどうかな。」


「・・・平穏過ぎた、とか?」



 リンドウの口を突いて出たのはそんな言葉だった。シオンたちのグループが見つけた記憶も、エリカたちが見つけたものも何かに備える為のものであったように感じた。

 加えて、花びらのあったその場所で、記録されたものだった。しかし、ヴァールと一緒に見たものはあの場所で撮られたものには見えなかった。



「平穏・・・?確かに、何て言うか普通過ぎるって言うのかな。日常の一コマって感じだったよね。」



 辺りを見渡していると一冊のアルバムを見つけた。写真の多くは色褪せて見えない。そういえば、花びらの記憶で写真を撮っている人物がいた事を思い出す。もしかしたら、彼女が撮ったものも此処にあったのかもしれない。

 今となっては判別がつかず、得られる情報は無さそうだ。



「ありましたー!」



 部屋の外から声が微かに聞こえた。ヴァールの声だろう。



「もしかして見つかったのかな?行ってみようか。」


「・・・分かった。」



 二人はヴァールたちの様子を見にこの場を後にした。






◆ ◆ ◆



 リンドウたちが声が聞こえた場所へと辿り着くと不思議な状況になっていた。



「よしよし、お姉さんが褒めてあげるね!」


「こんな小さな子に・・・、何だか情け無い気持ちでいっぱいなのですが。」



 そこにはユリに撫でられているヴァールの姿があった。その様子を見てエリカが呆れた目線を向けている。



ーーーくぅ



 小さく音が鳴った。辺りがうるさく無かった事もあってこの場にいる全員の耳に届いた事だろう。

 見回すと音の出所が直ぐに分かった。恥ずかしそうにヴァールが頬を紅く染めている。



「・・・その、わたしのお腹の音です。ごめんなさいー!」


「あはは、何か食べれる物を持って来てたらよかったんですけど。」


「いえ!いえ、お気になさらず!」



 少し緊張感のあった空気が和らいだように感じた。こうして見る限り普通のどこにでもいる少女に見える。控えめに笑っている姿も、恥ずかしそうにしている姿も自然体だ。とても演技には見えない。

 リンドウは少し警戒しすぎていたのかと思った。慣れない土地で、予期していないアクシデントに遭遇したからだろうか。



「此処を出たらみんなでご飯に行きましょう!」


「えへへ、約束ですね。」



 エリカがその様子を見て、やれやれといったようにまた小さくため息を吐いた。

 リンドウにはヴァールが悪い人だとは思えなかった。例え疑わしい部分はあっても、今は守るべき対象と思っていていいだろう。


 それに記憶が曖昧だという点はリンドウと酷似していた状況であった。嫌な親近感ではあるかもしれなが少なからず仲間意識を抱いている部分もある。記憶に穴が空いているというのは平静ではいられないものだから。



 彼女たちの邪魔をしない為か、一人離れた場所にいるルビアの元へとリンドウは移動した。



「・・・ルビアは何か見つけた?」


「・・・。」


(?・・・ルビアの様子がいつもと違う。)



 リンドウの問いにルビアは首を横に振った。あちらも発見と呼べるものは無かったようだ。資料の殆どがとても読める状態では無い事もあって生きている人を探した方がいいくらいだろう。

 本当に微かではあるがリンドウにはルビアの体調が良く無さそうに見えた。ただ、気のせいと言える範囲の微細な変化である。



「カードキーが見つかったそうだね。」


「はい、こちらで問題無いと思います。」



 奥の部屋から遅れてシオンがやって来た。全員が無事にこの場所に集まっているのを確認するとヴァールの元へと歩み寄った。



「先に進む前にカードキーを借りてもいいだろうか。」


「?はい、勿論構いませんよ。」


 

 ヴァールがシオンにカードキーを手渡した。シオンがカードキーをまじまじと見つめる。これならとシオンが小さく呟いた。



「まだ稼働しているデバイスがあったんだ。アクセスキーがあれば少しは此処の情報が引き出せるかもしれないからね。」



 先の見通せない探索にも少しだけ明かりが差し込んだようだった。






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