第三話 調査
二手に分かれて島を探索する事となり、リンドウはシオンとルビアと共に移動していた。
任務中は対災害用の装備を身につけている。災害と戦わなかったとしても、補助機能は変わらずあるので探索においても便利なのだ。
加えて今装備しているのは汚染度が高いエリアでも活動出来る特別なタイプのものである。前回のエクサルス大森林で使用していたものがそのまま支給されていた。
「天気もよさそうだ。これなら探索も捗りそうだね。」
空には雲一つ無い快晴だ。青々とした青空が広がっている。シオンの言う通り探索日和というやつだ。もし悪天候であれば探索の難易度は上がっていた事だろう。
カルミアたちのいるグループとは互いにデバイスで位置を把握しているので迷子になる心配は無い。
(・・・任務だけれど危険はそれほど無いみたい。・・・良かった。)
リンドウは心の中でほっとしたように胸を撫で下ろす。
リンドウたちはシオンの先導の元で島の探索を進めていく。海辺から離れ島の奥地へと足を進める。青一色だった今までとは打って変わって辺りは緑に包まれている。
「人の気配は無さそうだ、それに人の手が入っているようには見えないね。」
「・・・自然しかない。」
「本当に誰もこの島にはやって来ていなかったみたいだ。」
災害によって破壊された街も人の気配がまるでなかったが、それとはまた違った人のいなさだとリンドウは感じた。両者の違いはその地に人がいた事があるかないかだろう。周りに見えるのは木々や、草葉、大地と小動物だ。エクサルス大森林は死の大地ではあったが、こちらは生命が満ちているように感じた。
どちらかを選ぶ事があるならこちらの無人島の方が断然いいと答える事だろう。
「足元に気をつけるんだよ。この辺りは湿っているみたいだから。」
「・・・分かった。」
進んで行くほどに段々と道が険しくなっていく。人の手によって整備されていない場合、自然は人を妨げる壁となる。悪路を進んでいくしか道はない。
草木が生い茂っており、人の手が入ってはいなさそうだ。時折り獣道が見つかる事はあっても到底人がいたという痕跡は見当たらない。新たな発見が得られる事も無く、分かった事は此処が無人島という事だけだ。尤も、まだ探索仕切れていない場所も多くあるので、結論を出すのは時期尚早というものだろう。シオンたちは島の奥地へと進んで行った。
ワルキューレであれば山の斜面のような不安定な場所であっても活動出来る。
とはいえだ、活動の妨げるような大きな障害にはならないが、必ず大丈夫という訳ではない。
例えば今のみたいに。
「ッ!」
リンドウが草葉に足を取られ滑り落ちそうになる。
視界が大きくずれるがある一点で止まった。何かにぶつかったという訳では無い。柔らかな感触が身を包む。
「・・・危ない。」
「ごめん、・・・ありがとう。」
ルビアが間一髪の所で腕を掴み、そのまま引き寄せリンドウを抱き止めていた。シオンもほっとした様子でリンドウを見ている。
幾らワルキューレといえど斜面からの滑落が危険な事には変わりない。地面に叩きつけられでもしていたら幾らかの怪我を負う事にはなっていた筈だ。ルビアのファインプレーと言えるだろう。
「・・・このままでいい。」
「ふふっ、頼りになるお姉さんだねリンドウ。」
「・・・下ろして欲しい。」
ルビアはリンドウを横抱きにしながらそのまま進もうとする。ルビアの表情はとても満足気だ。身長は同じくらいであるというのに人一人を担いだまま、重さを感じさせない動きは流石はワルキューレといった所だろう。
ルビアの提案した内容に直様リンドウは反発した。何故ならとても恥ずかしいから。シオンが微笑ましそうにこちらを見ている事にも拍車をかけている。
「・・・・・・本当に?」
「もう大丈夫だから。」
ルビアは疑うような目でリンドウを見ている。数瞬の攻防が続いた後、名残惜し気にリンドウをすっと地面に下ろした。
ルビアは孤児院で生活していたあの時と変わらずにリンドウの事を守るべき対象として見ているのかもしれない。
「仲がいいね。ルビアとはどんな関係だったんだい。」
「・・・・・・。」
(・・・そう言えばこの話題をシオンに話した事が無かった気がする。)
そんな二人の様子を見てシオンがリンドウに問いかける。そう問われて殆どこの事をシオンに話した事が無かったと思い至る。実際、孤児院の事についてはシオンが聞くのを意図的に避けていたというのもあるだろう。どの部分がリンドウの辛い記憶を呼び起こすか分からなかったからこそシオンは無闇に話題を振る事をしなかった。
ルビアとの事であれば大丈夫だろうという判断の元でリンドウに聞いたのだ。
「・・・ルビアは姉で、とても頼りになる。」
リンドウは当時を思い出す。ルビアは今と変わらず口数が少なく寡黙であった。それでも何かあると一番前へと出て対応していたのもルビアだった。今思い返せばルビアが一番家族というものを重んじていたのかもしれない。
「ずっと助けられてばかりだった。」
「・・・そんな事はない。それに家族は助け合うもの。」
ルビアはそう否定したが少なくともリンドウは一方的に助けられていたと思っている。ルビアを助ける事が出来た時なんて無いとさえ考えている。
当時、孤児として拾われたリンドウは無知で道理を何も知らなかった。そんなリンドウを根気強く守り世話をして、今みたいにルビアは引っ張っていってくれていた。
だから、リンドウにとってルビアとの関係は家族であり、姉だ。
(・・・それから、それから?)
「・・・リンドウ?」
その先を思い出そうとした所で唐突な頭痛に見舞われ思考を中断する事となった。痛みからか頭に手をやる。シオンとルビアが心配そうにリンドウを見ている。
「少し休憩を挟もうか。リンドウ、あの丘まで歩けるかい?」
「・・・行ける。」
シオンの提案にリンドウは頷いた。これ以上無様な姿は見せられないと気を引き締める。ルビアが手を貸してシオンたちは再び移動を始めた。
少し歩いた先は丘上となっており辺りを一望出来る。涼しげな風が通り抜けていく。
「いい景色だね。此処で一休みしようか。」
視界が広がった様に感じる。海が一望出来、地平線から浮かび上がる太陽や、海に陽光が反射してキラキラと光る姿はまるで宝石みたいに綺麗だ。先程の頭痛もやわらいでいた。
「・・・綺麗だ。」
リンドウは輝く海を見つめ、シオンはその横で自然の音に耳を傾けている。ルビアは何処か遠くを眺めている。三人の間に穏やかな時間が流れる。
暫くそうして過ごした後、リンドウの体調が回復したのを見てからもう一度探索に出ようとした。
「エリカたちも順調にいっているといいのだけど。」
(・・・この場所からは、見えないな。)
シオンのその言葉を聞いてリンドウは内陸部を見渡した。ただ当然ながらエリカたちの姿を見つける事は出来ない。
「・・・あれは、何?」
(・・・何かの突起物?岩にも見えるけど何処か違っていそう。)
ルビアが指差した場所には木々の中に埋もれてポツンと異質なものがあった。言われなければ分からないくらいで先端部分だけが辛うじて見えている。巨大で鋭利な岩に見えなくもない。
「行ってみようか。・・・これでポイントはマークしたから、近づいてみよう。」
「・・・うん。」
シオンが端末を操作し、凡その方角と座標を入力した。三人は斜面を降りていく。今度は滑ってしまわないように注意しながら目的地へとその足を進める。
「ルビアはあれが何だと思う?」
「・・・少なくとも自然に出来たものでは無い。」
「それなら、誰かがこの島にいた可能性が高くなるだろうね。」
道中シオンはルビアに問いかけた。断定はまだ出来ないがルビアの言う通り自然物で無いのなら人の手によって作られた物になるのだろう。つまりこの島には人がいたと言う事になる。だが、その場合不自然な点が浮かび上がって来る。
(・・・これまでに人の痕跡が見つからなかったのに、一体どう言う事だろう。)
少なくともこの場所にやって来るまで確かに人がいた形跡は無かった。リンドウにはどう言う事なのか皆目見当もつかなかった。尤もまだ人工物であるのかさえ分かってはいないので、ただの気のせいである可能性もあるが。
暫く移動した後、目的のポイントへとリンドウたちは無事に辿り着いた。
「この辺りに、・・・あれだろうか。」
「・・・これは。」
蔦が絡み合い、部分的に苔に覆われているが、岩ではなかった。それに自然に生成された物でもない。それは木々と同じくらいの高さがあり、巨大な柱だ。表面上には大きく錆びた様子はなく、自然の汚れだけが目立っている。
汚れから見ても最近建てられたものではない。
(・・・人がこの島にはいた。それも組織力をもった集団が。)
人の痕跡を消してしまえる技術でもあるのだろうか。状態から見て随分と長い期間この場には来ていないようだが、謎は深まるばかりだ。
「張りぼてでもなさそうだ。これは、組織的な力が無ければ作れそうにはないね。」
「・・・一体何のために。」
明らかに一人の手で作れるものでは無い。つまりは此処にはかつて多くの人がいた事になる。加えてこの装置が何を齎しているのかも分かってはいない。
「・・・これを、見た事がある気がする。」
ルビアが唐突にそんな事をぽつりと呟いた。そうして柱へとルビアが近づいて行く。リンドウは思わずルビアの後を追った。
装置がいきなり爆発したり、災害が飛び出して来るような事は無く今の所は危険は無さそうだ。
「・・・これ。」
ルビアが指差した場所には光を放っている何かが落ちていた。それは太陽光の反射で光っている訳ではなく、それ自体が光り輝いているようだ。
「これは、・・・花びらだろうか。」
その形は確かに花弁であった。それは今にも空間に溶けてしまいそうな程に淡く、今にも枯れてしまいそうな印象を受ける。
「・・・・・・。」
「まっ・・・。」
ルビアが手を伸ばした。シオンが制止しようとしたが一歩遅く、まるで光に包まれたかの様に三人の視界がホワイトアウトした。
◆ ◆ ◆
再び目を開けるとそこにはシオンもルビアの姿も見当たらなかった。
(・・・いない。それに声が出せない?)
それに視界の高さも違っているみたいだ。普段よりも高い位置から見ている。視界にはあの柱の装置が映っている。リンドウは直ぐに違和感に気づいた。柱には蔦が纏っておらず、覆っていた苔もない。加えてあれだけあった汚れも見当たらない。真新しい、それこそ建設当時の姿でも見ているみたいだ。
(これは、・・・過去?)
「そっちも準備が出来たみたいだな。」
聞き覚えの無い声にびくりとする。声のした方へと視線が向く。三十か四十くらいの男性がこっちらへとやって来た。
「これで後は起動するだけ、それでもうこの島は隔離される。」
「ああ、この島に入ってこられるのは、此処の座標を知っている奴か、自力で探し出せる奴だけだ。」
話しているのは大人の女性だろうか。どうやらこの二人がこの装置を使って何かをしたらしい。会話からして、この島を見つからないようにしたのだろうか。
これは此処にいた誰かの視点だ。
「・・・本当に此処に辿り着けるのかな。」
「いつの日か必ず誰かがやってくるさ。それまで守り通すぞ。」
慰めるように男性が女性に言った。彼らはこの場所で人を待っていた事になる。しかし、この島に人の気配はまるで無かった。彼らが生きている可能性は低いだろう。
「ふん、そんな事言われなくても分かっていますよーだ!」
「はっは、そうはしゃぐなよ。」
女性の方は随分と子供っぽい性格みたいだ。ただ、声の調子が明るさを取り戻していた。
「それなら、此処に置いていくね。きっとその方が迷わずに済むから。」
「よし、分かった。お前の判断を尊重しよう。」
そして一枚の花弁を置いた所で、全てが遠ざかっていく。
◆ ◆ ◆
「リンドウ、ルビア、無事だろうか。怪我はしていないかい。」
「・・・大丈夫。」
「・・・。」
目を覚ますとシオンたちがいた。リンドウとルビアは無事をシオンに伝える。状況からいって同じ光景を目にしていたのだろう。
「もし、今の光景が本当にあった事であると仮定するのなら、この島には何かが隠されているみたいだ。」
(・・・彼らは何らかの事情でこの島を見つからないようにした。それなのに見つけられる事を期待していた。)
目的までは分からないが、少なくともこの島には考えているよりも多くの秘密が隠されているようだ。
ーーーpipipi
着信音が鳴る。エリカたちからのものだろう。シオンが、
「・・・扉を見つけた?分かったよ、一度合流しようか。」
ただのバカンスだと考えていた無人島での任務は波乱を含んだものになる予感がした。




