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バッドエンドのその先へ【総合5000pv突破感謝】  作者: 蕩けた蜂蜜ウサギ
序章 Re:start
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第十七話 歩みを止めないという事④


『謝罪ついでに一つ提案だ。いいか、今から奥の手って奴を使ってやる。だから、こいつが生み出した障壁の端まで全力で走りな。』


「えっ。」


『正真正銘の切り札、一発限りの花火を見せてやるのさ。』



 そうして、リベリオンはまた不可解な提案を持ち出すのだった。

 余りにも唐突な方針の転換にシオンたちは戸惑いを覚えた。その様子を見たリベリオンは話を急ぎ過ぎたと追加で補足をする。



『障壁を一時的に解除する方法がある。どのタイミングでやれるかは天任せになるが、この提案に乗るか?』


「どうしていきなり。」


『はっ、あんたたちが此処で死ぬのはおしいと感じた!理由なんてそれで十分だろう!心配すんなよ、こいつはただの機甲さ。別にアタシが死ぬわけじゃない。』



 この提案にシオンは逡巡する。彼女の言葉から幾つかの推測が浮かんだ。

 一時的にという事は眷属を倒せる手段を持ち合わせていないが、無力化もしくはそれに近しい手があるということ。そのタイミングを決められないという事はプラン自体は不安定なもの。


 決断を迫られる。眷属が再び動き出す前に決めなければならない。

 シオンから見て彼女が嘘や出鱈目を言っているようには見えなかった。これが罠であるのか、その結果があちらにどんな利益をもたらすのか。



(取れる手段は限られている、眷属を倒すのかそれとも逃げるのか。)



 リベリオンという組織が信用できるかどうかはまだ分からない事ではあるが、少なくとも彼女を信じようとシオンは決めた。 



『安心しな、障壁は必ず解除してやる。』


「・・・。」



 共に戦い眷属を倒すか、それとも彼女の提案に乗り撤退するか。一瞬の逡巡の後、シオンはリベリオンに背を向けた。



『それでいい。さあ、走りな!』


「感謝するよ、リベリオンの・・・。」


『ははっ、名前を言えないのは不便だな。もし、次に会うことがあればその時は自己紹介からだ。』



 シオンはリンドウたちを引き連れ反対方向へと全力で走り出した。決して後ろを振り向く事はなかった。

 シオンたちが走り去って行き、この場には使徒の眷属とリベリオンの人型戦術機甲だけが残された。



『だから、こんな所で死んでくれるなよ。』



 シオンたちが撤退を選択したことにリベリオンは胸を撫で下ろした。

 このまま続けていたとしても火力が足りずに削り切れ無かった可能性が高い。そうなれば待っているのは共倒れだ。


 だから撤退という選択肢を彼女たちに渡した。


 眷属は再生を続け、刻一刻と元の形へと戻っていく。

 その光景を横目にリベリオンは言葉を発した。それは、この場にいない誰かに向けたものだ。



「あそこで惜しんじゃ、アタシじゃ無いね。そうだろレン。」


「ふん、君の好きな様にするといいカトレア。この一戦もまた価値あるものだ。」


「そう言うと思ったさ!・・・出来ることならアイツらとは面と向かって会いたいね。」



 リベリオン本拠地、操縦席の横へとやって来ていた気難しそうな眼鏡を掛けた女性がカトレアの言葉に返答する。


 生き延びてほしいという思いが生まれたからこそカトレアはこの選択肢を選んだ。リベリオンにとって天威は敵対組織である。これは間違えようの無い事実だ。

 神器の回収が不可能だと分かった時点で協力を止める事も出来た。それでもそうしなかったのは彼女たちの掲げる理念が大きく影響している。



「君の考えならどのくらいだ。」


「生き延びれるかは五分五分さ。アタシの推測が正しければこいつを倒し切るのは不可能だ。まだ此処から脱出する方に賭けた方が可能性はある。」



 再び動き出す眷属。全てが逆再生の様に元通りだ。ただ最初に相対した時に比べればその再生のスピードは多少は落ちている。無限に近い再生能力はあれど限界も存在するのだろう。ただ、それは削り続ければ再生しなくなるという単純な話では無い。

 この怪物が今も存在している事が倒し切れない事の証明なのだとカトレアは確信している。



「アタシたちが掲げるリベリオンの旗は確かに天威に対するものだ。ただ、その大元にあるのは災害に対する反逆だ。・・・まだ負けてない、アタシたちの理念を評価するのは今じゃ無い!」


「その通りだ。人類の叡智はいずれ災害をも越える。ワルキューレが命を削って戦場に出る必要の無い世界にする。」



 彼女たちの言葉に同意するかのように戦術機甲の駆動音が大きく辺りへと響き出す。排熱機構が唸りを上げ、行き場を失ったエネルギーが暴走を始める。

 溢れ出したエーテルによって装甲が融解を始める。



「限界駆動、対災害決戦武装展開。」



 背部装甲が開き翼のように広がる。8機の浮遊型兵装が空へと舞う。ショットガン型のエネルギー兵装をその手に握る。



「本気で戦ってはいたが、まだ全力じゃなかったさ。さぁ、第二ラウンドの始まりさ!」



 リベリオンの旗を空高く掲げよう。




◆ ◆ ◆




 シオンたちは後ろを振り返らずに走り続ける。



「大丈夫何でしょうか。」


「提案をしたって事は出来る自信があるって事でしょ。・・・その大丈夫が罠かどうかを疑っているなら今更嵌めようなんて考えないと思うわ。」



 エリカは納得のいっていないような表情ではあったがつらつらとそうカルミアに答えた。

 一人、いやたった一機で眷属を相手取るのは何かを企む者のする事では無いだろう。リンドウもエリカの返答が全てのように感じた。



「一緒に戦えばもしかしたら。」


「彼女は元ワルキューレで、それも大災害を経験しているだろうね。推測だけれど倒し切れないと確信している根拠が彼女にはあるようだった。それに倒し切れないと考えるに至った理由に思い当たる節がある。」


「それは。」


「資料には大災害であの眷族は討伐済みとされていた。それに同一個体がもう一度現れたとは考え難い。」



 大災害で討伐されたと判断されたにも関わらず再び姿を現した。つまり、不死身に近い再生能力があるとシオンは暗に告げていた。そんなものを相手に持久戦など馬鹿のすることだろう。



「だからアイツは障壁を解除する方に舵を取ったわけね。」


「リベリオンがワルキューレに手を貸す理由は分からないけれど、少なくとも今は彼女を信じようと思う。」



 打てる手は少ない。今出来る選択はこの場から一刻も早く撤退する事だ。




◆ ◆ ◆




 この災害についてよく知っていた。数多のワルキューレの命を奪ったトラウマに近い存在。

 その強さをよく知っている。だからカトレアは最初からフルパワーをぶつけた。生半可な力では意味がないと知っているから。



「アタシから、目を逸らすなよ!!」



 シオンたちの後を追おうとしていた触手を浮遊型兵装から発射されたレーザーによって撃ち抜いた。

 シオンたちと戦っていた際に見せた動きとは段違いの速さでカトレアは戦術機甲を動かす。それもそのはずで、帰還することをまったく考えていない、この一瞬に全てを賭けているのだ。爆発的な加速で触手を眷族を置き去りにし、縦横無尽に駆け抜ける。触手さえも足場にして三次元戦闘を繰り広げる。


 限界を超えた戦闘。負荷は尋常なものではない。それは機体に、そしてそれを操縦するカトレアに対してもだ。

 カトレアはシオンたちが逃げ切る為の時間と機体が壊れるまでの時間を天秤にかけなければならない。



「レンッ!!」


「まだ保つ、そう設計した。過剰なエネルギー供給をしていたとしても、使徒及び眷属に対して有効打を与える為の時間は確保してある。」



 レンはそう言い切った。彼女によって作成された兵装はいつだって最大限のパフォーマンスを発揮してくれる。カトレアはその点について良く理解していた。

 シオンたちがいなくなり結果的に密度の増した触手に対してショットガン型の兵装で応戦する。エリカを彷彿とさせる正確無比な射撃。発射される全ての弾丸が吸い付くように触手へと直撃する。


 画面上に映る全てのデータを意識するより先に、無意識に選別し行動に移す。考えている余裕など与えられていない。ワルキューレとして生き、大災害を経験して尚、生きるカトレアだから出来る事。空間識別し、空間を把握する能力の極致。

 その半生を戦いに明け暮れ、その経験に裏打ちされた実力。



 一瞬一瞬を選択する。



「時間は!」


「まだ27秒だ。」



 一秒がとてつもなく長い。状況は目まぐるしく変わって行く。エネルギーの残量、機体の損傷具合、カートリッジの交換タイミング、全てに気を配る。シオンたちが対処していた全てをカトレアは一身に受け持っている。

 四方八方から押し寄せて来る触手を迎撃する。



「障壁の形成範囲は凡そ半径1キロ。あのワルキューレたちが助かる可能性を作るつもりなら少なくとも一分は保たせなくてはならないぞ。」


「あぁ、分かってる!」



 頭痛が激しくなっていく。カトレアは脳を酷使している。心臓の鼓動が激しく、自身の発する吐息の音ですらやけに五月蝿く感じる。



「はぁ・・・はぁ・・・。まだ、まだだ。」


「だが、それより先に君の身体が限界だ。」



 それにレンは直ぐさま気づいた。カトレアは体内でエーテルを循環し思考を加速させ、肉体の限界を超えていた。カトレアはシオンたちに自身が死ぬ事は無いと言っていたがそれは嘘だった。彼女は死ぬ気で戦っている。

 ただ、レンの言葉はカトレアには無意味なものである。



「あのワルキューレたちは最初から命張ってんだ、それに比べたらアタシの今の状況はぬるま湯に浸かってるようなもんさ。命なんてとうの昔に賭け皿に乗せてんだよ!」



 カトレアにとってワルキューレとは輝かしい過去だ。既に天威を出ていたとしても可愛い後輩を死なせてはリベリオンに居る意味は無い。

 8機の浮遊型兵装を操作し迎撃を行う。まるで戦力差を感じさせない。


 しかし、気合いだけで保つものではない。触手の一撃がついに戦術機甲の左腕を捉えた。



「クソが・・・!」



 片腕が空へと千切れ飛ぶ。眷属による猛攻が止まる事は無い。此方の事情を考慮などしてはくれない。

 ブースターによって触手の波を掻い潜る。浮遊型兵装を掴み軌道を変え空へと姿勢を向け大きく飛び上がる。



「チャンスは一度だ。」


「分かってるさ!」



 ガンガンと響く頭痛に顔を顰めながら、それでも身体の不調を一切合切無視する。背部からブレードを取り外し残った片手で強く握り締める。

 触手がカトレアを逃すまいと機体を取り囲むように展開される。逃げ場など何処にも無い。もう退く事は不可能だ。


 ただ、カトレアからすればその行動は無意味なものだ。



 何故ならーーー



「アンタをぶっ倒すのに逃げる必要なんて無いからなぁ!!」



 機体からエネルギーの本流が溢れたように噴き出す。限界を超えた加速。眷属が自身を守る為に展開しようとした触手すら置き去りにする。


 真っ直ぐに。ただ真っ直ぐ。流星の様にブレードが眷属を刺し貫く。



ーーードンッ!!



 大きな衝突音と共に大地に亀裂が走る。眷属を大地に縫い止める。土埃が舞い上がる。大健闘だろう、たった一機でここまでのことをしたのだから。

 だが、眷属が動きを止める事は無い。触手の動きは変わらない。


 ブレード一本、突き刺したところで意味は無い。



「まだ足りないよなぁ!」



 そんなことは知っている。だからがむしゃらに最大火力を撃ち込み続ける。


 土埃の中から覗かせた機体はボロボロであり今にも崩れ落ちそうであった。この機会を逃せば次の一手は放てないだろう。



 カトレアはブレードを強く握り締めた。



「過剰充填!内部から吹っ飛びな!!」


 

 ブレードに光が収束する。曇り空の中でまるで太陽が地表に現れたかの様だった。ブレードが膨張し閃光と共に爆ぜた。

 眷属の胴体に大きな穴を開け、大地にはクレーターを作り出した。その威力を物語っている。貫いていた刀身は溶け落ち形を留めていない。



「・・・馬鹿げた生存能力だな。」



 モニター越しに状況を見ていたレンの言葉が小さく響く。

 これだけの攻撃をその身に受けて尚、障壁は崩れない。何も現状は変えられない。機体は自力で動く事すら困難な程に損壊している。これ以上の戦闘は不可能だった。



 可能性を摘み取るように大量の触手が動けない機甲を刺し貫いた。既に崩壊寸前であった機体は容易くスクラップとなった。



 それでも血反吐を吐きながらもカトレアの笑みは崩れない。



「それも想定内さ、そうだろレン?」


「やれ、カトレア。」



 触手によって貫かれ、装甲の剥がれた内部が顕になる。

 機体の心臓に当たる部分、そのエネルギー炉が強烈な光を生み出していた。そう、それは今まさに爆発しそうな程に。



「これだけ動かすのに必要な動力源はどんなもんだと思うよ?お前の攻撃で莫大なエネルギーが、方向性を失いーーー



 再生途中の眷属はこの爆発から逃れられる術を持っていない。



 コアが膨張し爆音と共に爆ぜた。



ーーー爆ぜる。本命はこっちさ、化け物。」



 これまでと比べものになら無い程の爆風が広がり木々を大きく揺らす。辺りを閃光が包み込む。ゼロ距離での爆破が眷属に直撃した。

 戦術機甲の背部へと装着されていた射撃兵装が大きく弧を描き、神器の横へと突き刺さる。まるで墓標の様に。爆発の衝撃で大きく破損したのか折れ曲がっている。



 雨が地表を濡らす。障壁は宣言通り砕かれた。




◆ ◆ ◆




「あそこが障壁の境・・・!」



 シオンたちが走り抜けた先には、そこだけ空間を切り取ったかのような奇妙な光景が広がっていた。

 


 後方から凄まじい爆音が鳴り響く。



 そしてガラスが割れるかのように障壁が崩れていき雨が降り始めた。



「これは、・・・やったんだね。」


「これで外に出られるんですね!」



 リベリオンは彼女の宣言した通りにやり遂げたのだ。

 この場から離れられる。安堵の空気に包まれた。シオンたちは速度を緩める事なく走り抜ける。


 一度撤退出来てしまえば後はアルメリアたちと合流する事も、天威に眷属を討伐する為の正式な討伐隊を要請する事も出来るだろう。



 限りなく危険な状態から奇跡的に逃げ出せたのだ。



 このまま逃げられたらの話だが。 



「・・・ッ!?」



 地面から唐突に飛び出した触手がリンドウを掴み大きく引っ張る。凄まじい勢いで元の場所へと引き寄せられる。視界が逆再生の様に変化する。



 一つ誤算があったとするなら。



 使徒の眷属であるあの怪物の最たる能力は、敵を閉じ込める障壁を張る事でも、その戦闘能力でもなく、その再生能力である。



 まだ、過小評価をしていた。



「そん・・・な。」


「リンドウ!?」



 一度逃げ出せるという安心感に包まれた事で生まれた致命的な"間"であった。






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