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バッドエンドのその先へ【総合5000pv突破感謝】  作者: 蕩けた蜂蜜ウサギ
序章 Re:start
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第十六話 歩みをを止めないという事③


『くそ、気づかれて!?あいつに探知能力なんてなかっただろうが!』


「ーーーーーーーーa!!!」

 


 リベリオンは大きく悪態をついた。大災害の遺物が再び動き始める。音にならない慟哭が響き渡る。

 まさしく異形という言葉が当て嵌まる使徒の眷属がシオンたちに狙いを定めている。全身を震わせ、繭のような胴体から触手が溢れ出す。


 まるで逃げられる雰囲気ではない。その威圧感は大気を震わせ新兵であれば足がすくんでしまうだろう。


 

『構えな!こうなったら戦うしか道はないぞ。』


「撤退するんじゃなかったの!」


「・・・エリカ、もう撤退は出来ないんだよ。」


「どういう事よ!」



 リベリオンの言葉に先程と指示が違う事をエリカが問いただす。どちらも声から余裕は感じられない。それに答えたのはシオンだった。シオンは諭すような口調でエリカにそう告げる。            


 誰も視線を眷属から外していない。いつ攻撃が始まるのか予想もつかないからだ。リンドウは二撃目を警戒しながら、先程の一撃で痺れた腕の感覚を取り戻そうとしている。

 防御が間に合っていなければ、容易くその命を奪い去っていた事だろう。その理不尽さに思わず冷や汗がリンドウの頬を伝う。



「あれ、雨が・・・止んで。」



 カルミアの呟きがやけに響いた。先程まで降り続いていた雨が確かに止んでいた。リンドウはつられて空を見上げる。そして目にした異様な光景に言葉を失った。



「撤退できないって何よ、勝ち目が無いのなら直ぐに逃げるべきでしょ。」


「・・・空を、見るといいエリカ。」


『隊長さんの言う通りさ、これがあいつの能力の一つ。大災害で生まれた正真正銘の怪物。』



 エリカもまた空を見上げその奇妙な光景を目にする。透明な壁のようなものが辺り一面を覆っており、雨はそこから中へは入ってこない。  

 空に雨粒の波紋が広がっている。これがシオンの言っていた"逃げられない理由"なのだろう。



『生半可な攻撃じゃヒビ一つ入らない障壁の形成、あいつを倒さない限り外に出る事も中に入ることも出来ないのさ。』


「・・・そんな。」


「ちっ、戦うしかないって訳ね。」



 アルメリアに見せて貰った資料に記載されていた存在だ。多くの死傷者を出した大災害で使徒と共に現れた眷属。



『お相手さんは待っちゃくれない、来るぞ!』



 眷属の身体から勢いよく触手が伸ばされていく。地面を抉り、土埃を巻き上げながら辺り一帯を破壊し、轟音と共にシオンたちへと凄まじい勢いで襲い来る。

 シオンとリベリオンはいち早く前へと出て触手を薙ぎ払った。繰り出された刃は触手を断ち切っていく。切り落とされた触手が地面へと叩きつけられる。


 二人は攻撃を防いだというのに警戒を決して緩めはしなかった。



『気を抜くなよ!次が来るぞ!』


「分かって、いるよ!」



 次の瞬間、分離した触手の断片から凄まじい勢いで新たな触手が伸びだす。枝分かれするように分裂し数を増やす。拡散していく触手は容易く木々をへし折り地面を貫く。一本一本が決して無視できるものでは無い。

 再び増殖する触手を切り裂いていくが勢いはまるで衰えない。



「こんなの、どうやって倒すって言うのよ!」


「やあぁ!!もうっ、数が多いよ!」



 二人に続いてエリカたちも戦うが焼石に水である。想像の埒外の存在。大災害の一端がそこには存在している。

 呆けている時間は無い。リンドウはカルミアへと迫っていた触手を斬り飛ばし先を見据える。



「それなら、・・・これはどう!」


「ーーーーーa!!!」



 エリカは触手の隙間を縫うように眷属本体へと銃撃を放った。触手の波を器用に避け真っ直ぐに眷属の元へと飛んでいく。そしてエリカによる一撃は本体を貫いた。



『そんなんじゃ、足りないぞ!』


「そんなの見れば分かるわよ!」



 しかし、身体の一部に風穴を開けるが瞬く間に再生し塞がってしまう。呆れた再生能力だろう。一般の災害と比べても桁違いだ。

 切り落とされ分裂した触手が異常な増殖を見せるようにその性質は本体にも当たり前の様に存在するようだ。



「こいつッ・・・う、ぐぅ。」


「エリカさん!」



 届いた一撃に警戒心を高めたのかエリカへと触手が殺到する。急激な転調にエリカは対応し切れず服の一部を血に染めた。

 そこで攻撃が止まる事は無く、エリカを擦り潰そうと触手が濁流の様に押し寄せる。



「・・・ワルキューレ剣術。」



 リンドウはエリカへと駆け寄る。エーテルを凝縮させ刃に紫電が迸る。



(・・・もっと、集中して。押し返せるくらい強く!)


「朱夏ノ型、飛燕!!」



 込められる限界までエーテルを収束させた。放たれた剣撃は空間を震わせ、大気を切り裂きエリカへと殺到していた触手を消し飛ばす。



『良い一撃だ、やるじゃないか。』



 しかし、新たに触手が伸び依然と脅威は変わらない。結局は末端を潰しただけで本体へとダメージは入っていない。

 絶対に逃がさない障壁に、無限に近い再生能力。理不尽過ぎる能力を肌で実感し、リンドウはこの怪物の突破方法がまるで思いつかなった。



『おい、隊長さんよぉ!合わせな!』


「・・・いつでも。」


『おうよ!一発ぶちかませ!!』



 それでもリンドウの放った一撃は一瞬の猶予をシオンとリベリオンに与えていた。二人はノータイムで駆けていた。

 一時的に空いた空白、その瞬間を見逃す事はなく二人は瞬く間に距離を詰めていた。



「1stリミッター解除、ヴァイツ式剣術。」


『急速充填、限界値ギリギリだ!』



 新たに触手を生み出し二人へと攻撃を仕掛けるが既に間合いに入っている。最小限の動きで触手を避け、逸らして眷属を確実に捉えた。

 エーテルを纏い大気を歪ませる。残像を残し、空気を突き破るようにして放たれる。



『ブースターフルスロットルさ!吹っ飛びな!』


「奮迅の諧謔曲!」



 二人の攻撃が合わさり辺りは閃光に包まれる。凄まじい破壊音と紫電を響かせながら爆風が広がる。再生能力が高いのなら、それをされる前に削り切る。至ってシンプルな考えだ。

 しかし、それは火力が足りている場合に限る。土煙の中から触手が勢いよく現れ再び攻撃を繰り出した。



『ッ、こいつ!!』


「防がれ、たね。」



 リベリオンの操る戦術機甲の装甲が一部破損する。二人は直さま距離を取る。

 土埃が晴れると未だに健在な眷属の姿がそこにはあった。壁の様に厚く生み出された幾層もの触手の防壁によって二人の攻撃が本体に届く事は無かった。二人の攻撃を受けて大きく抉り取られた触手の防壁は形を変え再び攻撃に転じる。



『ちっ、安々と倒させちゃくれないか。』



 リベリオンは直さまカートリッジを排出しブレードへと新たに装填する。

 簡単に倒せるなら最初に撤退を選ぶ事などしないのだ。たかだが、機甲が一機と一小隊。この程度で災害の眷属がどうにかなるのなら先の大戦が大災害と呼ばれることも無かった筈だ。



「・・・どうにか本体を直接叩かないとダメなようだね。」



 限度が存在するのかも怪しい再生能力持ちに持久戦は厳しいだろう。

 一息吐く間も無く眷属による猛攻が始まった。大部分の触手はシオンとリベリオンが引き受けているが、その数は膨大でありリンドウたちの元へも再度やって来る。



「ふ・・・ぅ。・・・あたしじゃ火力が足りないわ。・・・カルミア、あんたいける?。」


「・・・うん、分かった。やってみるね。」



 シオンとリベリオンの二人が失敗したのを見てカルミアたちは短い言葉の交差をする。カルミアは一矢にエーテルを集中させ始める。

 シオンは最前線で戦っているのでこちらへは来られない。カルミアが矢を放つまでの間、その時間を稼がなくてはならない。


 しかし、それは容易い事では無い。時間が経つ毎に攻撃は苛烈を極めていく。抉る様に突き進む触手を斬り、大剣で押し潰す。そこに襲い来る二撃目、三撃目はユリが横から叩き潰した。

 ルビアは巧みに槍を操り多くの触手を迎え撃っている。隙を見てエリカの銃撃が触手を撃ち落とす。お互いがカバーに入りながら何とか戦線を維持している。



(・・・これは、避けれない。)



 被弾は避けられないものだ。この戦いに赴く前にリンドウは最初から割り切っている。命を賭けて守られたのだ、であれば迷うべくもない。



「ぁぐッ・・・!」


「リンドウ・・・!?」



 カルミアへと攻撃を届かせない為に、避けるという選択肢が取れないものを身体で何とか阻む。リンドウの脇腹を赤く染めた。

 カルミアが動揺し声を上げるが心配を掛けまいと直ぐに剣を構えて前を見据える。



「・・・気にしないで。」


「あんたはアイツに当てる事だけ意識してなさい!」



 誰も彼もその身体に傷が刻まれていく。誰も諦めてはいない。どれだけ泥と血に塗られても自身の意志に従って手を止める事をしない。下を向いている時間は無い。

 前線でシオンとリベリオンが押し留めていなければ、より酷い状況に陥っていた事だろう。だが、状況は確かに悪いが最悪には至っていない。



「い、いける。いけるよ!」



 滂沱の汗を流しながら、カルミアは大きく声にした。矢が大きく光を灯し紫電を纏わせている。

 普段のものよりもエーテルが込められている。限界まで集中させ、震える手でエーテルを制御し目標を定めた。



「あんたたち、合わせななさいよ!」


「・・・分かった。」


(・・・朱夏ノ型、飛燕。)



 カルミアの合図に合わせて守りに徹しながら貯めていたエーテルを放出する。もう一度、リンドウがエーテルの斬撃を繰り出す。辺りを埋め尽くさんばりに増殖していた触手を大きく斬り伏せる。

 短時間の間での連発は負担が大きいのかリンドウは剣を地面へと突き刺し息を荒げる。


 ユリとルビアは既に走り出していた。



「今よ!」


「・・・・・・・・・ッ!!」



 一矢は真っ直ぐに眷属の元へと放たれた。空間を強く打ちつけたように衝撃波が辺りへと拡がる。眷属もその一撃を脅威と認識したのか矢へと触手が群がり阻もうとする。



「邪魔しない・・・の!!」


「・・・そこ、どいて。」



 ユリの一撃が触手を大きく打ち上げる。そこにエーテルを纏わせたルビアの槍が投擲される。穿ち抜き触手を破壊した。



「寝てなさいッ!」



 大きく数を減らした触手、それでも防ごうと出た触手をエリカが正確に撃ち抜く。 



 一本たりとも矢へと辿り着く事は無い。



「シオン隊長!」



 カルミアの声にシオンとリベリオンは反応する。

 再び編み込むように作られる触手の防壁に二人は前へと繰り出す。



「任せて。」


『合わせてやるよ!』



 矢が着弾する直前、二人の攻撃が防壁を斬り裂く。



 そして、カルミアの一撃が眷属を貫いた。



「・・・やっ、た?」


(・・・あれは。)



 眷属の体内に存在する宝石のような何かが削り取られていた。

 大きく身体が倒れ伏し、触手がその動きを止める。エリカが安堵に近い言葉を漏らす。確実にその一矢は眷族の身体に大きな風穴開けていた。

 


「ーーーーーーーーa!!!」


『ちっ、ダメか。』



 が、現実は甘くは無い。落胆の言葉がこぼれ落ちた。

 眷属の身体が歪に動き出す。収縮と膨張を繰り返し、元の身体を取り戻していく。攻めようにも再び触手が展開され迂遠に近づく事も難しい。シオンたちの動きが止まる。


 堅牢な守りを突破してコアに損傷を与えた。最高のタイミングで与えた一撃だ。それでも倒し切るには至らなかった。



(・・・倒せる、の?)



 打つ手なし。過度なエーテルの放出や損傷は身体に大きな負荷となっている。

 勝ち筋はどんどん細くなっている。それも見えないほどに。リンドウは敗北の足音を聞いた気がした。



「・・・諦めないで、まだ手はあるよ。」



 シオンの声が響く。彼女は、彼女たちは決して諦めてはいなかった。



「ふん。そんなの言われるまでもないわ。」


「うん!守るって約束したんだから!」



 状況が良いとは言えない。時間が経つ毎に、戦いが長引く毎に戦況は悪化していく。ただ、それが生きる事を諦める理由にならないだけだ。


 リンドウも息を整える。エーテルの消耗も、受けた傷も気にする余裕は無い。

 もしかしたら、時間を稼げばアルメリアの部隊が異変に気づいてやって来るかもしれない。それとも、新たな突破口が見つかるかもしれない。可能性は小さくともこの場を切り抜けられ道筋がまだ残っている筈だ。



(・・・シオンたちは諦めてない、ならまだ。)



 シオンの言葉通り、諦めるには早い。



『勝てないのに戦うのか。』


「まだ、負けていない。勝てないかどうかは、負けるまで分からないものだよ。」


『ふふっ、まだ負けてない・・・か。』



 諦めの色を濃く滲ませたリベリオンの言葉にシオンはキッパリと言い切った。

 リベリオンは一瞬呆けたようにシオンへと視線を向けた。



『ふふ、はっは!!そうだよなぁ!戦いが終わってもいないのに、負けたかどうか何て言うのは可笑しな話だったな!悪い、今のは忘れてくれ!』



 戦場に不釣り合いな豪快な笑い声が響く。先程の諦観を吹き飛ばすようにリベリオンは発言を撤回した。



『謝罪ついでに一つ提案だ。いいか、今から奥の手って奴を使ってやる。だから、こいつが生み出した障壁の端まで全力で走りな。』


「えっ。」


『正真正銘の切り札、一発限りの花火を見せてやるのさ。』



 そうして、リベリオンはまた不可解な提案を持ち出すのだった。






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