第8話 新魔王誕生
彼の視線の先には自らの腹部にナイフを突き刺す、ラルフの姿があった。
他の冒険者たちには見えない、死角からの攻撃であった。
「な……なんで?」
「お前を刺したら白金貨の報酬だ。悪く思うなよ!」
「そんなことで俺を……」
「そんなこと? お前の命なんかより白金貨の方が大事に決まってるだろうが!!」
ラルフは他の冒険者に気づかれないよう、小声でやり取りをする。
そこで地面から黒色の大木が現れる。
その大木は枝を伸ばして、次々とキラートレントを飲み込んでいった。
黒色の大木と共に現れたのは植魔系の王、クレメンスだった。
「よくやったラルフ! さあ、キングトレントよ。マルティンを飲み込め」
キングトレントは複数の枝を伸ばして、マルティンを捕らえる。
マルティンは抵抗するが、既に手負いで力なかった。
マルティンがキングトレントの幹に飲み込まれていく。
味方の冒険者たちはその様子を見て、顔を青ざめさせる。
彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ラルフもどさくさ紛れて逃げ出す。
クレメンスはマルティンに近づき、耳元で囁く。
「憎いか、ラルフが? お前を騙した男が」
キングトレントから黒色のモヤのようなものが発散される。
それがマルティンにまとわりついていく。
「……憎い! ラルフが! 信じていたのに何故騙したんだ!」
黒色のモヤはどんどん濃くなっていき、輝きまで放つようになる。
「騙される方が悪いのだぞ、マルティンよ。そしてこの世は弱肉強食よ。弱いものは食われてゆくだけだ!」
「くそぉおーーっ! 食われてたまるかあ! 殺されてたまるかあ!!」
いつの間にか辺りは暗雲が立ち込めている。
「マルティンよ。力が欲しいか?」
「欲しい! 力が欲しい!!!」
マルティンは眩いまでの黒色の輝きを放つようになっている。
その目は白目がなくなり、すべて真っ黒な黒目に変わっている。
魔王に覚醒しようとしているマルティンのエネルギーはキングトレントに吸収され、そのエネルギーはキングトレントからクレメンスへと渡されている。
「素晴らしい力だあ! 過去数百年なかった極上の生命エネルギー! 流石魔王候補だ! 寄越せその力を。キングトレント、我が分身よ。その力を我がものとするのだあ!!」
「まずい、魔王覚醒してしまう。いくぞラミア!」
「はい!」
俺とラミアは飛び出す。
「クレメンス!」
「誰だお前らは?」
「創世剣!」
俺は次元の狭間に隠しておいた愛剣を召喚する。
「おらあっ!!」
創世剣を横薙ぎに振るう。
キングトレントは根本から真っ二つになる。
マルティンから発せられる光が収まる。
キングトレントからマルティンが解放される。
マルティンは地面に倒れて気絶する。
「き、き、貴様よくも我がキングトレントを! だがこの程度の傷はなんともないわ!」
キングトレントはすぐさま切断部分がつながり回復する。
「久しぶりだな、クレメンス」
「なんだ馴れ馴れしいの貴様、俺様が一体誰だと……」
「およそ200年前に俺に大口叩いておいて、呆気なく配下となったクレメンスだろ?」
「……貴様まさか魔王ザウスの生まれ変わりか?」
「その通りだ」
「あーはっはっはーっ」
クレメンスは突然笑い出す。
「何か面白いことがあったか?」
「丁度いいところに来た。貴様に破れたあの屈辱の日からおよそ200年。俺が魔王へと覚醒する日に、貴様に会えるとはな。なんという僥倖! 200年の借りを利子をつけて返してやるぞぁ!!」
「魔王覚醒のエネルギーを、得ただけで俺に勝てるつもりか?」
「それだけではない! 昏き因子は世界中にばら撒かれている。私もその一つに過ぎないが……世界中の森林、樹木から世界中に溜まった昏き力を吸い取ってやるわ!! 新たな魔王誕生をその目に焼き付けるがいい!!」
「これは……?」
先程のマルティンと同じようにクレメンスは黒色に輝き出す。




